↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ決定】【連載版】王太子でも聖女でも悪女でもなく、一番の策士が『剣術バカ(嘘)』の私の婚約者の件  作者: 千秋 颯@10/8「婚約破棄だって望むところよ~」発売中!
第七章 集結する仲間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
110/140

第110話 集結

 カミーユは王立学園の元生徒だが、卒業を待たずして中退した経歴を持つ。

 学園には長年勤めている教授等、カミーユを知る講師も多くいるだろう。

 だからこそ本人はかつての自分を知る者達が集う学園に抵抗感を示した。


「じゃあ聞くけれど、私が別の護衛を連れていく事にしても良いの?」

「嫌ですけど」

「ほら。なら拒否をする選択はないじゃない」


 しかしカミーユは王国の騎士であり、ジュリエンヌ様に忠実な護衛だ。そして本人自身もその事に誇りを持っている。

 拒否感を示してはいるものの、カミーユ本人の中でも学園での護衛を引き受ける事は決まっているようなものであった。


 一方のリュカは、口を閉ざしたまま何も言わない。

 彼が意見を言わない時はそうする必要がない時。つまり承諾と同義だと認識している。


 こうして私とジュリエンヌ様は学園内の護衛を見繕う事に成功したのだった。



***



 私達が王宮へ到着すると、一足先にグザヴィエ殿下達と共に辿り着いていたアンセルム様がクロエ様を連れて姿を見せた。


「ジュリおねえさま、ニコルおねえさま……っ!」

「「クロエ……!」」


 相も変わらず天使のような愛らしさを振り撒くクロエに駆け寄られ、私とジュリエンヌ様は同時に両腕を広げた彼女を受け止める。

 因みにリュカは既に私の視界から姿を消し、死角から私の動向を見守っている為、私達の傍にはカミーユだけが立っている状況だ。


「クロエ、王宮ではあまり走らないように……」

「は、はい、ごめんなさい」


 私達がはしゃいでしまった声のせいで周囲から注目を集めつつある状況に居た堪れなくなったのか、歩み寄るアンセルム様が困った様子でクロエ様に注意を促した。


「少しくらい良いじゃない、アンセルム。幼い頃の貴方やヴィクトルの方が王宮内を走り回って騒がしかったというのに」

「……えっ、そ、そうなのですか?」

「ジュリエンヌ様……っ!」


 今は落ち着いた性格のアンセルム様とて、幼少期は好奇心旺盛な男の子だった。

 幼いヴィーから聞かされた話だけでもそんな感想を抱く程なのだから、王宮に通っていたジュリエンヌ様から見れば更に印象に残っている事だろう。


 そんな幼い頃の話をクロエ様に持ち掛けられる事が恥ずかしいのか、アンセルム様は僅かに顔を赤らめてジュリエンヌ様の発言を制し、恥ずかしさを誤魔化すように眼鏡を押し上げた。


「ふふ、ごめんなさい」

「俺の話はいいでしょう。……殿下がお待ちです。移動の疲れを癒しつつ、もう少し詳しい話をしよう……と」


 アンセルム様のその言葉に、クロエ様との再会で浮ついていた私とジュリエンヌ様の気持ちが引き締まる。

 勿論、王宮へ着いて早々、目的を達した私達を追い返す訳にはいかないという計らいもあるのだろうが、グザヴィエ殿下のおっしゃる『詳しい話』というのは十中八九、政治が絡んだ重要な話だろう。


 もしかしたらグザヴィエ殿下にとって、私達のクロエ様との面会は建前であり、本当は生徒会室よりもより情報の秘匿に適した王宮で話したい事があったのかもしれない。


「わかったわ」

「すぐ向かいましょ……クロエ様?」


 私がアンセルム様の言葉に頷き、移動を促そうとした時。

 クロエ様がしがみ付いたまま、私の顔をじっと見上げていることに気付いた。

 その、どこか緊張したような面持ちが気掛かりで彼女の名を呼ぶと、クロエ様はハッと我に返ったように目線を逸らす。


「クロエ、何かあったか?」

「い、いいえ、何も」

「そうか」


 更にアンセルム様から問い掛けられ、彼女は首を横に振りながら私から離れていった。

 アンセルム様は小さく頷きを返し、クロエ様が自分の隣に並んだところで私達を案内すべく歩き出すのだった。



***



 王太子、グザヴィエ殿下にあてがわれた部屋の一つに私達は招かれる。


「到着早々、呼び出してすまないね。楽にしてくれて構わないよ」


 ソファに座る様促され、私とジュリエンヌ様は隣り合って、向かいではアンセルム様とクロエ様が隣り合って、それぞれが腰を下ろす。

 私達の前には事前に用意されていた軽食やティーセットが並んでいた。


 カミーユについては護衛の為入室はせず、部屋の扉の前で待機をしている。


「あの、クロエもこのままで……?」

「うん」


 難しい話や重要な話をするのであれば、幼い彼女は席を外させた方が良いのでは。

 そのような考えからジュリエンヌ様が問うも、グザヴィエ殿下は首を縦に振った。


「クロエ嬢も慣れない環境の中、見知った顔ぶれがあった方が安心できるだろうしね」

「そ、そうですか」


 グザヴィエ殿下とジュリエンヌ様の話に耳を傾けながらも、私の視線は目の前のテーブルに集中したままだった。


(カップが多い……)


 グザヴィエ殿下は全員の顔が見やすい位置に設けられた、別の机に着いており、ヴィーは護衛として彼の後ろに控えている。

 現状を踏まえれば、私達の前に用意されるティーカップは四つが正しいだろう。

 しかし、カップは空席にも用意されており……全部で七つ置かれている。

 他にも誰か呼んでいるのだろうか、という疑問が私の頭を過った時の事だった。


「これからの話について、この場にいる全員にきちんと聞いておいて欲しくてね」


 グザヴィエ殿下はそう話を切り出した。

 瞬間、私達の間に緊張した空気が走る。

 思わず背筋を伸ばし、グザヴィエ殿下から続くであろう言葉を私は待った。

 しかし、彼はいつも通り穏やかな笑顔を浮かべるだけで、中々続きを話そうとはしない。


 それを怪訝に思っていると、グザヴィエ殿下は先程よりもやや大きな声で言った。


「聞こえているだろう? ここにいる全員、は本当に全員という事だ。入ってくれ」


 更に数秒の間があってから、部屋の戸がノックされる。

 やがて開かれた扉から顔を覗かせたのは、何とも気まずそうに苦笑しているカミーユだった。


「あのぉ、これってボクも呼ばれているという事であっていますか……?」

「そうだよ」

「いいんですか? ボクはただの騎士ですけど」

「どの道、君の耳じゃあ、外に立っていたところで全部拾うだろう? 中にいても外にいても同じ事だよ。それと……ヴィー」


 グザヴィエ殿下は笑顔のまま手招きをする。

 カミーユはそれに従って入室し、扉を後ろ手に閉めた。

 そのまま空いている席へ促されてジュリエンヌ様の傍に座るカミーユを眺めつつ、グザヴィエ殿下はヴィーの名を呼ぶ。


 ヴィーは頷きを返すと腰に携えていた剣を鞘ごと外し、それを天井へ向けて掲げた。


「よっと」


 彼は背伸びをし、その剣先で天井を数度突く。

 それから数秒後、天井が一部、独りでに外れたかと思えば開いた空間からリュカが顔を覗かせた。


 クロエ様は初めて見る顔……それも予想だにしない登場の仕方をされ、顔を強張らせる。

 それに対してアンセルムが心配いらないと宥める声があった。


「……おれもですか?」

「言っただろう、全員だよ」


 部屋にいる全員が天井を見上げ、リュカに視線が集中する。

 それを受けた彼は長く溜息を一つ吐いた。これは不機嫌というよりも気まずいという感情の表れだろう。

 彼は他者、特にあまり接点がないような人物と話す事に対して苦手意識があるのだ。


 しかし王太子の命令とあれば、いくら王宮と直接的な接点がないと雖も逆らう事など出来ない。

 ……そもそもいくつかの制約付きとはいえ、王宮の中で隠密行動による護衛活動を王太子の権限で許されている身だ。

 王太子というグザヴィエ殿下の立場を抜きにしても、潜伏先の所有者の一人であり、仕事の協力者でもある人物の言葉に逆らう訳にはいかない。


 そのような事情もあり、リュカは天井裏から飛び降りることで入室を果たす。

 未だ顔を強張らせているクロエ様には彼を紹介する場を設けてあげたいところだが、この場で最も優先されるべきは多忙であるグザヴィエ殿下の時間。

 紹介の機を得るのは先の事になりそうだった。


 着地後、ヴィーに促されたリュカは私の隣に座る事となる。

 そうして、空いたカップがアンセルム様の左隣だけになった頃。


「もう少しだけ待ってくれるかい? もう一人呼んでいるのだけれど――」


 グザヴィエ殿下の断りの言葉が最後まで述べられる事なく、扉から三度のノックが響き渡る。


「噂をすれば、だね。どうぞ」

「失礼いたします」


 扉の先で聞こえる声には覚えがあった。

 耳障りの良い、落ち着いた男性の声。

 それにつられて扉を見やれば、丁度廊下から一人の青年が姿を現す。


「お待たせしてしまい、申し訳ございません」


 襟足を伸ばした薄紫色の髪に異性を魅了しかねない甘い顔立ち。


「シャルル・フォンタニエ、ただいま参りました」


 シャルル様はそう言って微笑みながら恭しく頭を下げるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。