071 乗り込んできた付与術師協会長(協会長視点)
「これは我々の領分を侵す問題ですぞ!」
俺の名前はマルコ・デ・ルッソ。錬金術師協会の協会長をやっているものだ。
エレオノーラからハーフエルフの付与術師を雇うと聞いてから半年が経とうという頃、錬金術師協会に付与術師協会の奴らが乗り込んできた。
乗り込んできた理由は目に見えているが、とりあえず応接室へと通してやると、いきなり怒鳴りつけてきやがった。
「領分とは?」
「そちらのギルドですよ! 我々がかねてより勧誘していた付与術師を勝手に雇っているというじゃないですか!」
「確かに付与術師を雇っているギルドは存在するが、どこのギルドのことか、はっきり聞きたいものだ」
まあ、エレオノーラのところ以外で付与術師を雇うという報告をしてきたものはいないから、十中八九エレオノーラのところだろうがな。
「肉屋の前のギルドですよ! こちらがギルドに文句を付けられないとわかって、堂々と出入りさせて!」
「ほう、それはおかしいですな」
「……何がおかしいのですか」
「そのギルドからは確かに付与術師を雇うという報告は受けている。だが、付与術師協会は勧誘を途中で打ち切ったと聞いているぞ」
「なっ!? ……それは、そちらが勝手に言っているだけでしょう。こちらとしては勧誘中のつもりでしたよ」
ははっ、文句を言ってくるのなら、このくらいの反論は予想してしかるべきだろうに、動揺しすぎだ。
「そうですか、勧誘中ですか」
「そうですよ。契約の確認などがあったので、誤解しているのでしょう」
「誤解ねぇ」
「お、おたくだって少しばかり勧誘に時間がかかることもあるでしょう」
「まあ、確かにお互いの都合のすり合わせなどで時間がかかることもありますなぁ」
「で、でしょう!」
「しかし、半年というのはいささか長すぎませんかな?」
「……えっ!?」
おいおい、これくらいの反論も想定していないのか? それとも、勧誘を行った協会員が都合の悪いことを黙っていたのか?
「件のギルドに付与術師が雇われたのは半年ほど前。話を聞いた当初に付与術師協会からの勧誘は聞いていたが、それ以降は接触されたという話しは聞いてないんですよ」
「…………」
「こちらも勧誘に時間がかかることもあるが、数日……長くとも数週間のことだ。半年など聞いたこともない」
「そ……それは」
「協会長、お客様がいらっしゃいました」
「そうか、通してくれ」
付与術師協会の協会長が黙り込んでしまったタイミングで、秘書が来客を告げてくる。
「失礼します」
「失礼するわ」
「付与術師協会長、我々だけで話し合っても水掛け論になるだろうからね、当事者を連れてきてもらったよ。こちらが件のギルドのギルド長、エレオノーラだ」
入るなり慇懃無礼に挨拶をしたほうを付与術師協会長に紹介する。……まったく、こいつは他の協会長がいるというのに、いつものように入ってきおって。
まあ、こいつにとっては付与術師協会長は敵みたいなものだから、仕方がないが。
「ほお、この人がねぇ。……で、もう1人は?」
「ああ、そちらが言う付与術師というのは冒険者も兼業しているのでな、冒険者ギルドの関係者にも来てもらったのだよ」
「冒険者ギルドで担当官をしています。以後、お見知りおきを」
こちらはエレオノーラとは違って、猫をかぶるということくらいは知っているようだ。……まあ、名乗らない辺り、かなり怒っているようだが。
「今一度、確認しておきたいのですが、エレオノーラがギルドに引き入れた付与術師は、そちらが勧誘中だったとのことだな?」
「……ええ、そうですよ」
「ふっざけんじゃないわよ! そっちで勝手に勧誘を打ち切っておきながら、いまさら何よ!」
「落ち着け、エレオノーラ。……で、そちらは勧誘中だったのに横から奪われたと、半年も経ってから言いに来たのだったな」
「そ、それは」
エレオノーラの怒気に屈したわけではないだろうが、付与術師協会長は言葉に詰まる。
「へえ、そちらではそのような認識なのですね」
付与術師協会長が言葉を詰まらせた瞬間、口をはさんできたのが冒険者ギルドの担当官だ。
「……どういう意味だね」
「言葉通りの意味ですわ。冒険者ギルドの認識とは、ずいぶんと違う認識ですわね」
「何をふざけたことを!」
明らかに怒っているエレオノーラから、冷静な冒険者ギルドの担当官に矛先を変えたようだが、そちらだって茨の道だぞ。
「付与術師協会と、そちらが話している付与術師との話し合いには、わたしが実際に立ち会いましたが、そちらの協会員の方は話し合いの途中で席を立ちましたわ」
「そんなわけがあるかっ! 付与術師の価値は上がっているんだ! こちらが先に話を打ち切るなどありえない!」
「ありえたのですわよね。……なにせ、彼女はハーフエルフですから」
「……ハ、ハーフエルフ?」




