067 久々のエリーザ
お米のレシピは師匠から公爵様に渡ったらしく、公爵領では貧民の食料としてお米の栽培が始まったとか。
どうも公爵様が専門家に尋ねたところ、畑としては使えないと断言された土地でもお米の栽培が可能だったそうだ。
僕としては、これでお米が手に入りやすくなるのなら万々歳だ。値段自体は安いけれども量を確保するのが難しく、脱穀やらなんやらの手配も大変だったからね。
「というわけで、故郷の好物が簡単に手に入りそうなんですよ」
「そうなんですね。お米かぁ、わたしの故郷でも食べていましたよ」
そんなわけで、久々にやってきたエリーザさんに世間話として、お米に関する話をしていた。
「へえ、前に聞いたエルフ集落ですか?」
「はい、その中でもエルフと人間が一緒に暮らす村ですね。麦が育ちにくい土地だったので、お米がメインの食料でした」
「やっぱり、そういう土地もあるんですね。そうしたら、エリーザさんは僕の作るような料理は食べたことがあるかもしれませんね」
前の世界の知識で作っているとはいっても、この世界には稀人……異世界転生者が残した知識がたくさんあるので、僕が知っているような料理はだいたい存在していると言っても過言ではない。
魔導具や魔法のように前の世界に存在しなかったものならともかく、料理は材料さえあれば誰でも再現可能だからね。
逆にレシピがない料理は、材料が見つかってないということで、僕にだって再現はできないということだ。
「どうですかね? わたしの故郷ではお米はそのまま炊いて、おかずを工夫する感じでしたね」
「そうなんですね。僕のところでは色々でしたね。おかずを工夫したり、お米に味付けしたり、味の濃いものをご飯に載せたりですね」
そう考えると前の世界では食にバラエティがあったんだと再実感するな。
まあ、前の世界というよりも日本の食文化がおかしかったという説もあるけど。
「ふふっ、そんなに色々とあるのなら気になりますね」
「だったら、エリーザもうちで暮らせば?」
「「は?」」
エリーザさんと話していると魔導具を取りに行っていた師匠が戻ってきていて、そんなことを言い出した。
思わずエリーザさんと一緒に反応してしまったが、師匠は何を言っているんだ?
「いや、前から思っていたのよね。エリーザって帝都に来てから長いのに、まだ安宿に泊まってるんでしょ?」
「うっ……まあ、確かに稼げてはいませんけど」
「幸いにもウチには部屋が余ってるし、カズも私以外の人と暮らすのに抵抗がないみたいだし」
「いや、師匠。いくら何でもエリーザさんだけ特別扱いっていうのはどうなんですか?」
師匠の知り合い、とくにギルドのお客さんというくくりで見れば、エリーザさんはとびぬけてお金がないかもしれないけれど、エリーザさんくらい生活に苦労している人は帝都内には何人もいる。
それこそ、ハーフエルフの冒険者は全員がそうだろう。
「特別扱いするのは良くないけれど、エリーザには特別扱いするだけの価値があるのよ」
「価値……ですか?」
「言ってなかったかしら? エリーザは付与術師の天職持ちなのよ」
「付与術師……って、どうして冒険者を続けているんですか?」
空間収納の魔導具が出回るまでは付与術師の天職持ちは不遇扱いされていたが、現在は仕事が有り余っている勝ち組天職と言われている。
「そういえば、そうね。エリーザ、付与術師協会やギルドからの勧誘はなかったの?」
「ありましたけど、ハーフエルフだと知ると断られました。それに、わたしは冒険が好きなので」
「ハーフエルフだとそんなに問題なのですか?」
「以前にも話しましたけど、ハーフエルフは覚えが悪いので大人数が所属するような組織では歓迎されないんです」
「成長が遅いっていうのも私は懐疑的なのよね」
エリーザさんの言葉に師匠が疑問を呈す。
「どういうことですか?」
「ハーフエルフは他の種族に比べて、天職のレベルを上げるのに3倍の時間が必要と言われているわ」
「3倍……それは確かに長いですね」
「ええ。でも、ハーフエルフは人間の3倍の寿命があると言われているわ。記録に残っている人間の寿命年齢は100歳、ハーフエルフは300歳ね」
なるほど。3倍の寿命があるのなら、天職のレベル上げに3倍の時間がかかるのも道理か。
「それでも他の人に迷惑をかけるのは変わりませんから」
「だからこそのウチよ。私もそうだけど、カズもエリーザの成長が遅いからって文句は言わないでしょう?」
「まあ言いませんね」
「そういうわけで、カズに付与魔法を教えてもらいながら、余った時間で冒険すればいいと思うのよ」




