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061 距離感の調整

「で、これがソフィアが初めて作った料理ね」


「はい、どうですか? お姉さま」


「ふーん。別にカズが作ったのとそう変わらないと思うけど。……カズはどう?」


「ええ、初めてにしては上手くいっていますよ。調理に時間はかかりましたけど、初心者はそういうものですし、慣れたら速くなりますからね」


 教えながらだったというのもあるけれど、肉野菜炒めを作るのに1時間くらいはかかったからな。

 他のおかずだったりパンだったりは、お店で買ったものを用意していたので食卓が寂しいということはないけどね。


「慣れますか?」


「慣れますよ。僕だって初めて作った時は、ゆで卵だけなのに1時間くらいかかりましたからね」


 小学校で初めて調理実習を受けた時は、説明ありとはいえ授業時間をほとんど使って、ようやくゆで卵が完成するくらいだったからね。

 ちなみに初めての野外炊飯ではカレーとご飯だけに2時間以上かかっているし……今から考えると、めちゃくちゃ時間がかかってるな。

 しかも1人じゃなくて5~6人の班だったし、本当に手際が悪かったよなぁ。


「まあ、錬金術でも慣れないうちは時間がかかるしね」


「そうですそうです。今は道具の使い方も確認しながらですし、僕がそばで説明しながらなので、時間がかかるのは当たり前のことです」


「慣れるように頑張りますわ」


「ゆっくりで大丈夫ですよ。そもそも、僕も師匠も毎日毎日、家で食事をとるわけではないですしね」


 そもそもこの世界は天職で成り立っているので、食事に関する店は充実していて、自分で食事を作らなくても困ることはない。

 僕が食事を用意していたのは、外で食べるのが面倒だった日や用事などで夕食の時間が遅くなってしまった日だからね。


「そうね。朝食だけは家でとるけれど、昼食や夕食はカズの気が向いた時だけね」


「そういうわけですから、しばらくは朝食のメニューを中心に教えていきます」


「はい」


 素直に返事をしてくれるのはオリアーニ嬢の良いところだな。


「ちなみに、僕がまとめた素人でも作れるレシピ集がキッチンに置いてあるので、暇な時間はそれを見るのも勉強になると思いますよ」


「カズがまとめた? 料理レシピなら色々と本が出ているでしょう?」


「ええ、その中から料理人の天職を持たない人でも作れるレシピをまとめたものです。販売されているレシピは天職持ちの人用なので、実際には使わない部分が多いんですよ」


 魔物肉の毒抜き方法だったり、貴重な植物の保存方法だったりが記載されているのだが、食材を直接調達するならともかく、市場で買う分には必要ない情報だ。

 ちなみに、この世界の教本はだいたいこの形式で、素人が学ぶためのハウツー本というよりも、その道のプロを育成するための本、あるいは気ままに書いた手記のようなものがメインだ。


「ありがとうございます、アズマさん。空間収納のスクロールを作成し終えたら確認させていただきますわ」


「ええ、わからない部分があったら質問してください」


「ねえ、まだその距離感なの?」


 イラついた、というよりも純粋な疑問のように師匠が問いかけてくる。


「どういうことですか?」


「いや、だから一緒に暮らすことになってから、それなりの時間が経っているのに、ソフィアはカズのことをアズマさんって呼ぶし、カズもソフィアのことをオリアーニ嬢って呼んでるんでしょ?」


 ここで暮らすようになった当初は空間魔法を習う関係上、師匠と絡むことが多かったオリアーニ嬢だが、料理を僕から習うと決めてからは僕と絡むことが多くなっていた。

 それでも僕はオリアーニ嬢をオリアーニ嬢と呼んでいるし、オリアーニ嬢も僕のことを吾妻山と呼ぶ。

 おそらく師匠はその距離感が気になったのだろう。


「ふむ。しかし、適齢期の女性を名前で呼ぶのは慣れませんので」


「カズは忘れてるかもしれないけど、私も適齢期の女性よ。……それにオリアーニ嬢って呼ぶけれど、私もオリアーニ嬢だからね?」


 ……そういえばそうだったな。師匠、師匠と呼んでいたから忘れがちだが、師匠も適齢期の女性だし、オリアーニ公爵家の令嬢だったな。


「ふむ、でしたらソフィアさん、と呼びますか」


「呼び捨てではありませんの?」


「いくら何でも付き合ってもいない女性を呼び捨てにはできませんよ」


「では、わたくしはカズさんとお呼びしますわ」


「ええ、こちらはなんでも大丈夫ですよ」


 女性の名前を呼び捨てにするもは気が引けるけれど、こちらが何と呼ばれようとあまり気にならない。

 そもそも僕の本名を考えたら、カズ自体があだ名だしね。

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