060 初心者用料理講座
「そうそう、包丁は利き手でしっかりと握ってください」
「はい」
師匠にも許可をもらってオリアーニ嬢に料理を教えることになった。
「まずは簡単な野菜の切り方から学びましょう。こちらは皮をむいてあるものですので、気にせずに切ってください」
「皮むきからではないのですか?」
「包丁で野菜の皮をむくのは難しいので、慣れないうちはピーラーを使ったほうが良いですよ」
ちなみに、この世界では以前にいた稀人……異世界転生者の影響でピーラーもあればおろし金やスライサーもある。
前の世界では便利調理器具に囲まれていたから、本当にありがたい限りだ。
「野菜を押さえるほうの手は握ってください。包丁は握った拳よりも上にいかないように気を付けて」
「こう……ですか?」
「そうそう、いい感じですよ。大きなものを切る時は、そんな感じで。小さなものを切る時は指の本数を少なくするなど工夫してください」
前の世界では猫の手などと教わったけれど、常識が違うこの世界では通じるのかわからないので、なるべく通じそうな言葉を選んでいく。
「硬いものを切る際には押すように、柔らかいものを切る際には引くように切るのがコツですよ」
「はい」
「切り方は作る料理によって変えるのが基本です。炒め物など、サッと火を入れるだけの場合には細く、スープなど長く火を入れるものは大きく切りましょう」
よくよく考えてみたら、切り方って日本語固有の呼び方しか知らないな。拍子木切り・いちょう切り・半月切り……通じるのか?
まあ、最初のうちは実際に切って見せて切り方を教えていくのが良いかもしれないな。
「今日は肉野菜炒めを作るので、細めに切っていきましょう」
「はい」
「まずは1cmくらいに切ってから、それを何枚か重ねて端から細く切っていきます。炒め物などの火を入れる時間が短い料理は具材の大きさがそろっていると美味しくなりますよ」
「そうなんですのね……気にしたことがありませんでしたわ」
まあ、僕も学校で調理実習の授業を受ける前まではまったく気にしていなかったし、案外そんなものだよな。
とはいえ、実際に作ってみると具材の大きさがそろわないと火が通っているものと火が通ってないものが出るし、結構重要な下ごしらえだと分かる。
「こちらの野菜は半分に切ってから同じ大きさに、こちらは大きいので4分の1くらいの大きさを使いましょう」
今回は基本的な肉野菜炒めを作るつもりなので、ニンジンとピーマンとキャベツを用意した。
まあ、異世界なので呼び方は違うようだけれど、実際に食べてみた感じでは味は似ていたので問題ないだろう。
肉に関しては素直に豚肉……この世界では割と高級品だ。前の世界で食べていたような家畜の肉は高く、街の外で狩ってきた魔物の肉が安く設定されているんだよな。
「こんな感じですか?」
「そうそう、良い感じですよ。僕はこちらで肉を切りますね……肉と野菜は必ず別々のまな板、包丁を使って切ってください」
「同じものではダメなのですか?」
「肉には様々な菌がいるので同じまな板や包丁を使うと、それが野菜に移ってしまうんですよ。火を入れれば菌は死ぬので大丈夫ですが、意識づけていないとサラダなどの生で野菜を使う際にうっかりしてしまいますからね」
面倒な場合には同じものを使っても、野菜を切ってから肉を切るなどしてしまうが、料理初心者だということを考えて衛生観念はしっかり教え込んでおこう。
前の世界でも肉を切った後に刺身を切りだす同級生など、衛生観念ガバガバな人がいたからなぁ。
「お肉は危ないのですね」
「ええ、種類によっては大丈夫なこともありますが、基本的に肉は必ず火を通す必要があります。火を入れると色が変わりますので、それを目安にしてくださいね」
「はい」
火を入れすぎると焦げたりするが、肉に関してはきちんと火を入れることが重要だ。
「綺麗に切れたようですので、炒めていきましょう。まずはフライパンに油を軽く引いて、野菜からいためていきます。基本的には硬くて火が通りにくい野菜から炒めて、火が通りやすいものは後から入れます」
今回はニンジンとピーマンとキャベツなので、まずはニンジンからフライパンに入れていく。
「全部まとめて入れないのですね」
「ええ。今回のですとニンジンは火が通りにくいですが、ピーマンとキャベツは火が通りやすいので一緒に入れるとニンジンが生に近くなるか、ピーマンとキャベツが焦げるかになりますからね」
「はい」
「炒め物の際には強火で、という人もいますが、慣れないうちは中火くらいで炒めるのがおすすめです」
中華料理などでは強火で一気に火を通すみたいのがあるが、初心者がそれを真似すると焦げた炒め物が出来るだけだ。
ちなみに、僕は料理で強火を使うのはお湯を沸かす時くらいだな。




