057 第一王子のやらかし(皇帝視点)
「はあ、なぜ我が息子は馬鹿なのか」
我はダビデ・ベットーリ。ベットーリ帝国の皇帝だ。我には2人の息子がいるのだが、そのうちの1人が婚約破棄などという馬鹿な行為をやってくれた。
側妃の息子ではあるものの、第一王子として皇位継承権第一位という恵まれた環境にありながらの愚行……許せるものではない。
「陛下、第一王子殿下には第一王子殿下のお考えがあるのですよ」
「それはわかっておる。それにしたって、公衆の面前での婚約破棄などと非常識すぎるだろう」
「……それ以外では認められないと感じたのでは?」
むう、確かに宰相の言う通り、もしも息子が我の執務室で婚約破棄を申し出たとしたら、なかったことにしただろう。
それを考えたら、密室ではなく貴族が集まる場で婚約破棄をした判断は間違ってなかったとも思える。
「それにしたって、王家の面子、それにオリアーニ公爵家のことを考えたら、自制してほしかったものだな」
「しかし、オリアーニ公爵家の価値は暴落したと陛下も感じていたことでしょう?」
宰相に言われてハッとする。確かに我が第一王子の婚約者にオリアーニ公爵家の娘を選んだのは、空間魔術師の天職を手に入れるためだった。
しかし稀人様の開発したマジックバッグの影響で、空間魔術師の天職の優位性が下がってしまった。
そのため、第二王子に王位を譲るべき、第一王子の婚約者を入れ替えるべき、という議論がされておったのは確かだ。
「……オリアーニ公爵は忠臣ぞ」
「わかっております。オリアーニ公爵領が納める税額は国内でもトップですし、公爵が帝城で仕事をしていた時と今では、書類の処理のスピードが段違いですからなぁ」
「やはりオリアーニ公爵は……」
「ええ、帝城を辞して領地へと帰りましたよ。元々、幼い息子と代官だけで領地運営していることに難色を示しておりましたからなぁ」
はあ。確かにオリアーニ公爵は第一王子の婚約者となっている娘のために帝城で働かせておったが、まさか婚約破棄の翌日には職を辞するとは思わなかった。
「オリアーニ嬢はどうなったのだ?」
「しばらくは姉の元に身を寄せると、公爵から報告がありましたよ」
「姉……エレオノーラか」
「ええ。つまりは稀人様の庇護下に入ったということですな」
オリアーニ公爵の長女は錬金術師ギルドのギルド長で、マジックバッグを発明した稀人様を庇護している……つまり、姉の元にいる限りは稀人様の手前、手出しができないということでもある。
「……なぜ」
「オリアーニ公爵からは、空間収納のスクロールが不足しているようだから姉の下で修業させて空間収納を覚えさせるとのことですよ……いやはや、需要の高まった魔法を覚えるためと言われたらダメとは申せませんなぁ」
「楽しんでおるな、宰相。……はあ、これでは詫びにと新しい婚約を持ち込むことも出来んではないか」
「まさにそれを避けるためでしょう? 同年代の目ぼしい貴族男性は既婚か婚約者がいるものばかりで、残っているのは訳アリばかりではありませんか」
むぅ。第一王子の婚約者であったオリアーニ公爵の次女は優秀だったから、引く手あまたと思って居ったが、確かに釣り合う貴族で婚約者もいないというのは珍しいか。
ただでさえ、女性側は年下が良いという風潮があるからな。年上で高位貴族ともなれば、選択肢は限られるか。
「だが、他国に嫁ぐという手もあるではないか」
「外交を担当している家ならともかく、内需を支える家系ですからなぁ。他国に嫁いでしまえば支援も出来ませんし、そもそも空間魔術師の天職持ちを他国へ渡らせるのも危険ですよ」
言われてみれば、公爵が他国に嫁いだ娘の元に行くのは許可できないし、空間魔術師の天職を持てば何をやらかすかわからない国が多いのも確かだ。
「長女のように市井に下るか」
「瑕疵があろうがなかろうが、婚約破棄された者が揶揄されるのが貴族社会ですからなぁ。それならば、市井に下らせるという判断をした公爵を責めることはできませんよ」
「我に出来るのは公爵への賠償を払うことくらいか」
「ですなぁ。当事者は罰として辺境に送り出されてしまいましたし、陛下は公爵家へ関与せず、公爵と公爵令嬢に詫びをすることしかできませんよ」
宰相の言うことは尤もではあるものの、今の我には辛らつでもある。
まあ、息子の教育が不十分だったことの罰だな。




