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056 受け入れた理由

「さて、ソフィアには家具なんかを見に行ってもらっているけれど、本当に大丈夫なの? カズ」


 オリアーニ嬢は帝城に荷物を取りに戻るついでに家具や日用品を見繕ってくるということで、一旦話し合いは終わり、師匠と二人きりになった。


「ええ、今だって師匠と一緒に暮らしているんですから、大丈夫ですよ」


 オリアーニ嬢という若い女性と一緒に暮らすことを懸念しているんだろうけれど、そもそも師匠だって18歳だから僕からしたら若い女性だ。

 これまでも気を付けながら生活はできていたし、オリアーニ嬢が増えたところで問題はないだろう。


「まあ、カズがそう言うなら良いけど……」


「それよりも問題なのは、オリアーニ嬢の婚約破棄の原因が僕にあることですね」


「…………? カズ?」


 あれ? 師匠は気づいていないのか?


「オリアーニ嬢が婚約破棄されたのは、つい最近なんですよね?」


「ええ、まだ一か月も経っていないわ」


 ふむふむ、やっぱり僕のせいっぽいな。


「第一王子が婚約破棄するなんて相当なことだと思うんですよ」


「ええ、だからこそ慌てているし、びっくりしているのよ?」


「真実の愛だとか言い訳しているらしいですけど、王族が婚約破棄を行って、それが受理されたということは政治的にも問題がないということでしょう」


「…………そこまでは考えてなかったわ。……オリアーニ公爵家は王家に必要ないと判断されたということ?」


「そこまではわかりませんが、価値が下がった可能性は高いでしょう」


「どうしてっ!?」


「マジックバッグですよ」


「?」


「師匠もオリアーニ嬢も空間魔術師の天職を持っているということは、オリアーニ公爵家は空間魔術師の天職が出やすい家系なのでしょう?」


 師匠から聞いた話や本で読んだ限りでは、稀人はともかく、この世界で生きている人間は家系によって出やすい天職、出にくい天職があるらしい。

 姉妹そろって空間魔術師の天職を持っているということは、普通に考えたらオリアーニ公爵家は空間魔術師の天職が出やすい家系と考えられる。


「……確かに、オリアーニ公爵家は空間魔術師の天職が出やすい家系よ」


「王族がそれを知っているのなら、血筋に取り込みたい、それが出来なくても1代に1人は空間魔術師が常駐してほしいと思うでしょう」


 王族に空間収納が使える人間がいれば、荷物を持てない式典の時などでもポーションを持ち運ぶことができるし、暗殺や暴動への対応が可能になる。

 空間魔術師が使う空間収納の魔法は、術者が死ぬとアクセス不可になるらしいので国宝などを管理はできないが、それでも有用なことに違いはない。


「……それはそうね」


「でも、マジックバッグが入手できたことで空間魔術師の価値が下がった。いや、商売を行う上では重要ですが、王族に空間魔術師の天職を入れる意味は薄くなりましたよね」


 護衛の騎士に持たせるたり、自分たちの服の一部に空間収納の魔法を付与すれば、空間魔術師の天職持ちがいなくても十分に事足りる。


「……オリアーニ公爵家の血筋はマジックバッグで補填されているということ?」


「悪い言い方をすれば。第一王子がどう考えていたかはわからないですけどね」


 第一王子がオリアーニ嬢に恋をしていた、あるいは王になりたかったのなら、公爵家とのつながりは重要になるだろう。

 空間魔術師の天職が必要なくても、恋をしていたのなら婚約破棄する意味はないし、公爵家の後ろ盾は王になるのに必要だろう。


「第一王子殿下は皇帝に……王になる気はなかった?」


「まあ、その辺は本人に聞かないと分かりませんが。第一王子は婚約破棄した後は、どうしているんですか?」


「真実の愛なんて馬鹿げたことを言い出したからね。皇帝陛下の逆鱗に触れて、辺境の王領に飛ばされたわ」


 ……確定かな。もしも、第一王子を王にする路線が王族の中で規定だったのなら、オリアーニ嬢と婚約破棄しても他の有力な家系と再婚約させていただろう。

 だが、辺境に飛ばしたということは第一王子は王になる気はなく、王族もそれを是としたということだ。


「でしたら、やはり僕のせいで婚約破棄されたのでしょうね」


「カズのせいってことはないけれど、空間魔術師の価値が王族の中で下がったのは確かね」


 オリアーニ公爵家の価値が下がったわけではないだろうけれど、空間魔術師は王族に取り込む価値がなくなったと考えられるだろう。


「まあ、そんなわけで僕もオリアーニ嬢の婚約破棄の一因なので、せめてもの贖罪ですよ」


 もともと師匠の妹だから師匠が強く言えば否やはなかったけれど、積極的に受け入れようと思ったのは、オリアーニ嬢に空間魔術師の天職があると聞いてからだ。

 オリアーニ嬢が婚約破棄されたことを笑えるくらい、あるいは他の道を見つけられるまでは協力するべきだろう。

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