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見せてやろう、勇者の力とやらを!


「まじか」


 オレたちはピンチだった。

 村で留守番をしていたオレとロゼッタ。万が一の為にいた。来てもどうせ下位の魔族だろうとたかをくくっていたのが悪かったんだ。

 ジャスティンが水源の魔族討伐に出発してから3日目のタイミングで現れた。目の前にいるのは、そう、テューポーン。現在、魔王を生業としている。大きな角に、全身闇に包まれていて、赤い目はギラギラと光っている。プレッシャーもすごい。


「ほう。アストライアーのところのものか。ということは、お前勇者だな」

「……イエス」


 いや、何で普通に村に寄った旅人みたいにここに魔王が来るんだよ。おかしいじゃないか。狙うなら、もっと栄えている街とかにすればいいのに、何でだ。

 てか、アストライアーって誰だ。


「……勇者さん、バカが顔に出ています」

「エスパーかよ」

「……はぁ。初めて会った時に説明したじゃないですか。アストライアー様は私たち妖精の大ボスって。しっかりしてください。そして、魔王なんとかしてください」


 いやいや、ちょっとそこまでおつかいに行って来い、的なテンションで言われても困る。

 それでも、魔王を復活させてしまったのはオレで、魔王を倒す必要性は他の勇者よりも上だ。それぐらいオレでも分かっているが、準備というものがいろいろあって……。


「この魔王をどうにかすることなど、お前に出来るのか? 復活して暇だったんだ。目についたここを潰すのも、お前を潰してしまうのも悪くない」


 さすが、魔王。暇つぶしに、村潰しですか。


「ブレイブさん。私も援護しますから……!」


 と言いながらも、ロゼッタはオレの影に隠れている。ロゼッタは女の子で魔導士。この状況も仕方ないと言えば仕方ない。


「ほら、勇者さんその背中にある剣は飾りですか? そろそろ勇者を見せつけてやりましょうよ」

「……飾りじゃない! 仕方がない、こうなったらやってやる!!」


 魔王は初めから倒す気でいたんだ。それが早まっただけ。……すごく早まっただけだ。

 それに、オレは世界を救うと決めた。そう、勇者だ!


「魔王、かかって来い!!」


 勇者っぽいセリフを叫んで、大剣を魔王に向ける。

 さて、オレもそろそろ本気を出さないといけないな。ここが踏ん張りどころだぞ、オレ!


「ひぃっ! そ、その大剣は……!」


 しかし、魔王はかかってくるどころか、悲鳴をあげて縮こまってしまった。


「へ?」

「ま、まさかお前が私を復活させたと言う勇者か!」

「……イエス」

「な、なんだと……!?」


 魔王はオレが復活させたと言うことを認めると、みるみる表情を暗くした。しかも、魔王はどこか怯えている。


「あ。もしかして、あれですかね勇者さん。魔王は復活させた者に逆らえないとか!」

「……そうなの?」


 そろりと魔王を見る。


「……」

「……」


 しばらく沈黙が続いたが、魔王はニコッと笑って、回れ右。オレに背中を向けた。


「図星かぁあああ! そいやっ!!」


 オレは魔王に飛びかかり、魔王を封印していた勇者の大剣を脳天から突き刺す。何かに使えると思って拝借してきた大剣がここで役立つとは正直予想外だけど、これも普段の行いのおかげだろう。

 魔王はみるみる内に小さくなり、気が付けばオレは地面に大剣を突き刺していた。

 どうやら前の勇者のもこのようにして魔王を封印したようだ。


「封印しちゃった……」

「なるほど。もしかして、魔王を復活させようとしていた魔族は自分が次の魔王になるために必死だったんですかねぇ」

「……な、なるほどなー」


 全然実感がわかない。プリンの話が右から左に通り過ぎていく。


「……え、ブレイブさん封印したのですか!?」

「みたいです」


 後ろからひょっこりと顔を出し、突き刺さる大剣を見てロゼッタも驚いた。

 同じように村の人々も集まって来て、突き刺さる剣をまじまじと見ながら、魔王が封印されたらしいことを実感していった。


 こうして、オレは魔王復活と魔王封印の両方を体験した勇者となった。


 村ではその後、魔王封印を祝い、宴が行われた。

 さすがに、大剣をそのままにしておくことはできないので、ロゼッタが結界を張った。もう少し、きちんとした結界を張らなければ、今後、また魔王復活をもくろむ魔族が来てしまうらしい。その為に、必要なものを明日一緒に集めに行くことになった。


「自分で蒔いた種をこうもあっさり回収してしまうとは、根は優秀なのか、バカ過ぎて逆に優秀なのか」

「……プリン」

「やだなぁ、褒めていますよ?」


 嘘つけ。顔が笑っている。

 いくら魔王を倒したからって、オレがしでかした魔王復活はいつまでも付いてまわるだろうな、とプリンの表情を見て思う。



*****



「ママ―!!」

「ちょっと! あなたどこまで行っていたの!?」


 子供の泣き声が聞こえ、反射的にその方向を見る。

 子供はオレの横を走り去っていく。



「……」



 宴も終わりの頃だった。


「ジャスティン! なんだよ、遅かったじゃないか。聞いてくれよ。オレ、魔王封印したんだ。これで、お前もオレを勇者だって認めて……ん? ジャスティン?」


 水源付近での戦いが壮絶だったのか、あちこち切り傷や服が破れていた。それでも、きちんと帰ってくるあたりさすがジャスティンだと思ったのだが、その様子がどうもおかしい。

 ぼーっと立っているだけで、オレの声が届いているかどうかわからない。よく無視はされていたが、その時とも様子が違う。


「ジャスティン! お帰りなさい!」


 ジャスティンの姿を目にしたロゼッタも駆け寄ってきた。


「あれ、マークは……?」


 そこでオレは気が付いた。ジャスティンはマークと一緒に討伐に行ったはずだ。だけど、どこにもその姿はない。


「フフフ。……マークはいないよ」

「え……?」

「僕が、殺したんだ」


 ロゼッタを見つめたその瞳に光はなかった。



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