勇者だからな……
剣を振りかざすと炎が闇に向かって放たれる。炎と闇がぶつかり合い、爆風が起こった。
はっきりと見えなかったが、ぎりぎり間に合ったのだろうか。攻撃はエキドナの放った闇にあたったようだった。
「……マーク?」
僕はよろめいた身体を支えるように地面に剣を突き刺す。
やっぱり、属性鉱石での技は体力を削る。それに、属性鉱石の効果時間を一気に消費してしまう。
「……!」
土煙がだんだん静まってきて、視界が良くなると、目に映ったのは、がっくりとうなだれているマークの姿だった。
すぐに駆け寄り、怪我の様子を確認する。
「マーク、マーク!」
「……ジャ、ジャス……ごほっ……」
何とか息はあるようだが、脇腹からは血がにじんでいる。このまま、時間が経ってしまえば命が危ない。
「マーク、一旦ここを離れ――」
ふわり。
身体が、何故か軽い。だが、そんな事もつかの間。すぐに衝撃と痛みが身体を支配する。
「がはっ」
肺の空気が一気に押し出される。くそ、油断した。
「まさか、もう終わるなんて、言わないでよねぇ? あなたたちも私を楽しませてくれないのぉ?」
どういう、意味だ。
声に出そうとしたが、思う様に声が出ない。そんな僕の表情を感じ取ったのか、エキドナはにんまりと笑っていた。その口はまるで三日月の様だ。
「少し前にね、来たのよ? でも、馬鹿よねぇ。何も力がないのに考え無しでここに来ちゃったんだから」
そう言いながらエキドナは影から何かを引っ張り出す。手にしていたのは、まだ、幼さの残る少年だった。僕もまだ16歳だが、僕よりも幼い。なんで、こんなところにそんな少年が。
エキドナに掴まれていた少年がピクリと動く。
「……う」
「さて、どうしようかなー」
「!? う、うわぁあああ! はなせ! はなせ!」
少年は気が付いたようで、エキドナを目にした途端叫びだした。一応美女と分類されるだろう見た目だが、エキドナは魔族だ。いくら美女でもあふれ出る気配は禍々しすぎる。
それにしても、自分自身だけでもどうなるか分からないのに、ここに来てマークも少年もとなると厳しい。ここまで状況が悪くなるとは予想していなかった。こんなことなら、あいつも……いや、あいつは勇者じゃない。
ここにいる勇者は僕だ。
「そうよ、立ち上がってまだまだ遊びましょ?」
僕は何とか立ち上がり剣を構えた。
ここで、折れたら勇者じゃない。世界を、人を救うのが勇者なんだ。いつまでも地面に寝ているわけには行かない。
だが、どうする、この状況。
「うぉおおお!」
「え」
エキドナの背後から腕が伸び首を絞める。
「いやぁ! なんなの!?」
エキドナは驚いたのか、少年を投げた。ごろごろと転がって来た少年は泣きながら、必死に僕に駆け寄った。そして、縋り付いてくる。
「……勇者さまぁっ!!」
まさか。
「ジャスティン。この洞窟を崩して! それで水も湧き出てエキドナも倒せるはずだ! おれが押さえているからっ!!」
何とか意識があったマークがエキドナの首を絞めて押さえている。
洞窟を崩してしまえば、エキドナを生き埋めにできる。でも、それは同時にマークも生き埋めにするということだ。
「うっ、うっ……勇者さま……」
「ジャスティン。……お前は、勇者なんだろう!? 早く!」
……僕は勇者だ。
村の人を、力ないものを守る、救う。
「……チョコ、属性鉱石、まだあるか?」
「あります」
僕は属性鉱石を受け取り、もう一度剣にはめた。
「我が剣よ、我が呼びかけに応え、その力を貸したまえ。目の前に立ちふさがる闇を切り裂き、打ち破れ!!」
大きな炎が洞窟を包み、爆発音が鳴り響く。
*****
「何とかなりましたね」
「ああ」
僕たちは洞窟から少年を連れて脱出した。
エキドナの頭上から崩れるように放った炎は見事に的中し、全てが崩れる前に逃げ出すことが出来たのだ。ただ、1人マークを置いて。
少年は泣き疲れたのと緊張から解き放たれた安心からか、僕の横で眠っている。
「……僕は勇者だ」
「ええ、あなたは勇者ですよ。……まあ、あなたなら両方救ってこそ、だと思っていましたがね」
「っ」
チョコの一言が刺さる。
「ん……勇者さま……あり、が……」
少年の寝言が僕の耳に届く。どうしてだろう。感謝されているはずなのに、その言葉は僕をとがめているようにしか聞こえない。
「いいでしょう。とりあえず帰りませんか? 洞窟が崩れて目測通り水源も復活したようですし、少年を送り届けねばいけませんよ」
「……」
勇者ってなんだ。
僕は勇者になったんだ。勇者になって力を得た。勇者は人々を救えるんだ。それが勇者で、僕がなりたいものだった。
確かに、村を、少年を救えたかもしれない。でも、チョコの言う様に、仲間を犠牲にした。そんな僕は勇者と呼べるだろうか。勇者、なのに、救えなかった。マークを犠牲にした。
「マークを救えなかったことを悔やんでいるのですか? 仕方がありませんよ、勇者にも救えない命と言うものがあります。気に病むことはありません」
「……じゃあ、僕は何で勇者なんだ」
「それは、私に分かるわけがありませんよ」
「救えない命があるのなら、勇者になった意味がない。勇者は人を救うのが、勇者で……」
「そうなると、ジャスティンはもう、勇者ではないのですか?」
あれ。




