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第八話 シャルロットはお邪魔虫~イヴ視点~

主人公の夫の愛人、イヴの視点です

 あれは半年前のことだった。


 人気のない騎士団の訓練場。


 大きな柱に隠れながら向かい合い、指を絡め合う僕たち。


 愛するクロード様は、美しい顔を苦痛で歪ませながら僕の指をぎゅっと握った。


「すまない、イヴ。俺は妻を娶ることになった」


「クロード様……ッ!」


 いつかはこんな日が来るとは思っていた。


 クロード様はフォントネル侯爵家の次男だ。


 跡取りではないものの、侯爵家としての世間体もある。


 22歳になったクロード様がいつまでも独身を貫けるとも思っていなかったが……。


◇


 僕たちが出会ったのは4年前。


 クロード様が騎士団に入団してきた時のことだった。


 その時の僕は既に入団して一年が経っていたが、貴族と平民が入り混じる騎士団の独特の雰囲気に馴染みきれずにいた。


 僕は富裕層の家の出とはいえ、平民だ。


 騎士団に身分差別はないものの、いわゆるお貴族様たちに対してどのように接すればいいのか、距離感を計りかねていた。


 僕の実家は商会をやっている。


 貴族との繋がりをより強固なものにするため、跡継ぎでない僕は自分の意見を尊重されることなく、18歳になると同時に騎士団へと無理矢理入団させられたのだ。


 厳しい訓練。


 高まる隣国との緊張感。


 日ごとに増員される国境防衛部隊。


 家のためとはいえ、どうして僕がこんな危険なところに身を投じなくてはならないのか。


 当時の僕は不満でいっぱいだった。


 もう辞めてやりたい。


 いや、家族に相談することもなく、もう辞めてやろう。


 そう思い始めていた頃に出会ったのが、18歳になったばかりのクロード様だった。


 彼は僕の1つ年下だが、年下とは思えないほどに大人びた表情をしていた。


 さらさらとした金髪の下からのぞく緑色の目は、何も信じていないような、人を突き放すような冷たさがあった。


 きっと侯爵家に相応しい人間として、厳しい教育を受けてきたのだろう。


 僕のそういった第一印象は、当たっていた。


 彼は礼儀正しく、教養も深く、さらに騎士団のメンバーに対しては身分を問わず親切に接していた。


 けれど、大人びているとか冷たそうだとかいう僕の第一印象は見事に裏切られた。


 分からないことがあれば教えてほしいと言える素直さがあり、誰かから相談されれば親身になって話を聞いてやっていた。

 

 戦闘力が抜群に高く頼もしいこともあって、クロード様はあっという間に騎士団の人気者になっていた。


 僕がそんな彼に惹かれるのに、あまり時間はかからなかった。


 その当時、クロード様には公爵令嬢の恋人がいた。


 王立学院時代の同級生らしい。


 一度写真を見せてもらったが、苦労などしたことのないような、平和ボケした女に見えた。


(こんな女より、絶対僕の方がクロード様にふさわしいのに!)


 あの手この手でクロード様にアピールを続け、僕はついに彼の心を射止めた。


 彼は公爵令嬢とも別れ、僕たちの恋は順風満帆に思えた。


 ——あの伯爵令嬢シャルロットが現れるまでは!


◇


「クロード様、結婚だなんて……! シャルロットとかいう女に弱みでも握られてるんですか⁉」


 僕が詰め寄ると、クロード様は力なく笑った。


「そうじゃない。あの女が一番俺に口答えをしなさそう、というだけだ。妻を娶っても、妻を愛するつもりはない。子を成すつもりもない。俺の心はお前だけのものだから……」


 クロード様はそう言って僕を抱きしめた。


 彼の吐息が僕のおでこに当たる。


 彼が妻を娶ってからも、これくらいの距離で彼と触れ合うことはできるのだろうか。


 どうしてこの国では同性婚が認められていないのか。


 僕はこの国に生まれ落ちたことを呪いつつも、でもクロード様と出会えたことは神に感謝しつづけた。


 そして、ある日の訓練場。憎きシャルロットが僕の前に現れた。


 よく手入れされているであろう、深緑色の髪が、陽の光を反射してキラキラと煌めいているのが恨めしかった。


 生まれてから一度も苦労をしたことがないような、気の抜けた顔と声。


 どうして女というだけで、コイツは僕の愛しい人の妻の座を得られるのか。


 僕は腹いせに、シャルロットと握手すると見せかけて、彼女の手を握りつぶさん勢いで締め付けてやった。


 どうせ僕の手を払いのけるに違いない。


 そうしたら、「どうして僕の手を払うのですか⁉」などと言ってアイツを悪者にしてやろう。


 そう思っていたのに、まさかシャルロットは僕以上に力を込めて、手を握り返してきたじゃないか!


 信じられない! 僕これでも騎士団だよ⁉ それと互角ってどういうこと⁉


 シャルロットはゴリラ女。


 僕の辞書にはそう記された。


 あの女の存在は腹立たしいけれど、クロード様に聞く限りだと、子作りを要求してきたり、クロード様からの愛を要求してきたりもしないらしい。


 ふふん、ちゃんと立場をわきまえているじゃないか!


◇


 ところで、今日はクロード様のおうちにお呼ばれしている。


 新居に移ってからは、初めての訪問だ。


 あの女の気配がするかもしれないと思うとムカつくけど、それでもクロード様のプライベートに深く入り込めることは嬉しい。


 応接間でテーブルを挟んで向かい合って座っていたが、使用人がお茶を取りに行った隙にクロード様のすぐ横へと移動する。


 自宅のソファで愛する人と寄り添うなんて、まさに僕が配偶者みたい!


 テンションあがるなぁ! ……と思ったら、玄関の方から頭の悪そうな足音が聞こえてきた。


 きっとシャルロットに違いない。


 今日こそは、あのお邪魔虫に自分の立場を分からせてやる!


 ポッと出のくせに、クロード様の妻の座に収まりやがって!


「あっ、シャルロット様おかえりなさーい! お邪魔してまぁす! また婦人たちの集まりに行ってらっしゃったんですかぁ? もっとゆっくりしてくればよかったのにぃ」


 シャルロットの口元がヒクヒクと痙攣するのが見えた。


 フン! クロード様の横は僕の場所だ。お前になんか渡さないからね!

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