第六話 アンタたちで二次創作してやるからな
「いつまで手を握り合っているんだ」
クロードの不機嫌な声を合図に、私とイヴはぱっと手を離す。
「イヴ様とは、とても気が合いそうですわ」
私がにこやかに言うと、イヴは口元をにわかに引き攣らせた。
顔には「こんな女と気が合ってたまるか」と書いてあるが、私だってここで引き下がる訳にはいかない。
クロードのことはくれてやるが、妻としての立場を放棄する気はない。
結婚を祝ってくれた家族のためにも、すごすごと離縁される気もない。
イヴはニコッと弾ける笑顔を作ると、可愛らしい声で言った。
「僕も、クロード様の奥様とは気が合いそう! また訓練場に遊びに来てくださいねっ!」
今日はもう帰れ、と言われているのがよく分かった。
コイツもなかなかしたたかな男だ。
まあ愛人の座に居座る人間なんて皆そうかもしれない。
クロードにも「気が済んだだろう。もう帰れ」と言われ、私は騎士団の団員たちに挨拶をし、帰ることにした。
団員は「もー副団長ったら! 奥さんがいるからってテレちゃって!」と茶化していたが、あれは照れているんじゃない。
クロードとの付き合いは薄いが、私には分かる。
あれは照れている顔じゃなくて、愛人の顔色を伺っている顔。
クロードの目が少し泳いでいる。
フン、ここで愛人に相まみえるとは思わなかったけど、ポジティブに考えると愛人が男であるのは私にとって好都合よ。
相手が妊娠することもない。クロードが親を説得して愛人と結婚することもない。
近隣国では同性婚も認められつつあるが、うちの国ではまだ認められていない。
私の妻としての立場はしばらく安泰だと思っていいだろう。
でも! イヴのさっきの「思ったより大したことない女で安心した」という一言には納得できない。
誰が大したことない女よ!
私だって独身時代にはそれなりに異性からのお誘いがあったし、そりゃ絶世の美女っていう訳じゃないけれど、美しい深緑色のロングヘアや、ぱっちりとした目元はよく褒められていたわよ!
考えれば考えるほど、あのイヴって男は嫌な奴ね……!
性格が悪い同士、ある意味クロードとお似合いだ。
そんな二人に、大したことない女の底力、見せてやろうじゃないの。
執筆予定の主人公のモデルはクロード、その相手役はイヴで決まりよ。
見た目も設定も、ほとんどそのまま使ってやる。
それで二人の恋仲を世間の知るところになっても知らないわ。
こっちは創作ですって言って押し通してやるんだから!
見てなさいよ‼
◇
「まあまあ、シャルロット様。もう小説を書き上げてしまったんですの?」
翌週の文学サロンで、私の出来立てほやほや原稿を手に取ったボーモン婦人は目を丸くした。
「ええ。筆が乗りに乗って、あっという間に仕上がってしまいましたわ……!」
気分が乗らない時も、イヴのいけすかない顔とこちらを絶妙にイラつかせる口調を思い出すだけで、それが筆を動かす原動力になった。
敬愛するマリアンヌ先生の作品はハッピーエンドが多いが、自分の小説はフィクションとはいえクロードとイヴをモデルにした小説で二人を幸せにするのは腹が立つ。
そこで私は、主人公と恋人は深く愛し合うものの、最終的には引き裂かれる運命に仕立て上げた。
「バッドエンドですのよ。おほほ……」
ちなみに主人公の妻(つまりモデルは私)はめちゃくちゃ可愛くて性格が良いという設定にしておいた。
現実世界で奴らにないがしろにされた私の、せめてもの抵抗である。
そうこうしているうちに、他のサロンメンバーも続々といつもの温室へと集まってくる。
全員が集まったところで、ボーモン婦人はぱちんと手を叩いた。
「今日は皆さまにご紹介したい方がいますの」
ボーモン夫人に手招きされ、温室の入り口から現れたのは、このサロンにふさわしくない男だった。
背が高く、少し筋肉質な感じで、きりっとした眉が印象的な人だ。
それを見たどの婦人の顔にも「どうして男がここに……?」と書いてある。
もちろん、私もそう思っている。
「うふふ、どうして男がここに、と皆さま思っていらっしゃるでしょう? でもこの方こそが私達の小説を世に出すお手伝いをしてくれる方なんです」
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