第四話 私を訓練場に連れてって
楽しいサロンでのひと時はあっという間に終わってしまった。
これから私への愛がない夫との新居に帰らなくてはならないと思うと、とっても気が滅入る。
帰宅後、夕飯のために食堂に行くと、既に席についていたクロードが不満げに腕を組み、ジロリと私を睨んだ。
「一体どこへ行っていたんだ」
「どこって、ボーモン公爵夫人の開催する文学サロンですわ」
「そんなこと聞いていないが」
クロードはこれみよがしに溜め息をついてみせた。
本当に私のことがやることなすこと気に入らないのだろう。
でも、私にだって言い分がある。
「聞いていないと言われましても、わたくしたち昨夜も大して会話してませんし、今朝も朝食をご一緒していないじゃありませんか。私の予定について、いつお伝えする暇がありましたか?」
今朝私が起きると、クロードはもう騎士団の訓練に出かけていた。
使用人に尋ねると、クロードは毎朝早くに出かけるという。
「使用人に言付けを頼めばいいだろう。俺は君を愛する気はないが、日中は夫婦として最低限の振舞いはしてほしい。どこに行くかも俺に告げず、遊び回るなんてもってのほかだ」
まだ結婚生活一日目よ⁉ 何をもって遊び回るって言ってるのかしら⁉
だいたいボーモン公爵家は名門貴族だし、そちらとの繋がりだって大事に決まっている。
趣味が合うということを抜きにしても、女性同士の社交だって必要だ。
けれど、私はぐっと我慢して従順な妻を演じる。
「それは大変失礼いたしました。次からは必ずクロード様にしっかりと言付けを伝えるように徹底いたします」
クロードはフンと鼻息を吐くと、不機嫌そうな顔のままスープを口に運んでいる。
今朝も思ったが、この家のごはんはとても美味しい。それなのにこんな不満げな顔で食べるなんて信じられない。
私のことが気に食わなくても、そんな顔で食べるなんて作ってくれた料理人に対して失礼だとは思わないのか。
少しは料理を褒めたり楽しそうに食べればいいのに。
本当に嫌な奴め!
「ところでクロード様。明日も騎士団の訓練に参加されるんですわよね?」
「ああ、近頃は訓練に休みなどない。交代で休みを取ることは可能だが、俺は副団長だ。隣国との緊張感が高まっている今、おいそれと休むことはできない」
我が国と隣国は、いま現在あまり良い関係とはいえない。
軍事的な緊張感はここ数か月ずっと高まったままだ。
「それなら、明日の訓練には私のことを連れていってくださいませ」
「はぁ?」
クロードがスープを口に運ぶ手を止めた。
「どうしてお前を連れて行く必要があるんだ」
「妻ですから、夫の職場がどのようなところか知っておく必要があるかと思いまして。日中は妻として最低限の振舞いはしろとおっしゃったじゃないですか」
本当はボーイズラブ小説の執筆にあたり、舞台となる騎士団の訓練場を見学したいだけである。
だってちゃんと見学したほうがリアルな場面が描けそうでしょ?
しかしクロードは私の提案をばっさりと切り捨てた。
「断る。訓練場はお遊びで行くところじゃない」
「分かりました。じゃあ、クロード様に愛人がいて、新妻を放置しまくっているとあらゆるところで吹聴いたしますね」
「……貴様ァ」
私だって従順に引き下がるつもりはない。
クロードとの関係性は今後も改善が見込め無さそうだし、だったら自分に有利なように動いた方がいい。
「ちょっと訓練場を見せてくれて、ちょっと騎士団の方々を紹介してくれたらいいんです。結婚式に来られてない方もいますから、一応同僚の方には一通りご挨拶しておきたいんですよ。妻として、ね」
妻として、という一言が効いたらしい。彼にも世間体を大事にするという感覚はあるのだろう。
クロードは苦虫を嚙み潰したような顔ではあるものの、しぶしぶ私の提案を了承した。
ひゃっほう! これでボーイズラブ小説の執筆もサクサク進むはず!
趣味に生きる妻計画、まずは順調だ。
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