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第三話 男しか愛せない体なのでは⁉

「そうですわ。シャルロット様の夫になられたクロード様といえば、王国騎士団の副団長ではありませんか!」


 ボーモン夫人がそう言うと、周りの婦人たちも「きっとお強いのね」「ステキですわね」とにこやかに褒めてくれた。


「新婚なんですもの、きっとお二人はラブラブでいらっしゃるのよね?」


 話を振って来た伯爵夫人も、軽い世間話のつもりだったのだろう。


 わたしも「えへへ」と適当に流せば良かったのだが、うまく流すことができなかった。


「君を愛することはできない」と言い放たれた昨夜を思い出し、思わず「うっ」と言葉に詰まってしまった。


「あら、シャルロット様どうしたの?」


「実は……夫には他に愛する方がいたようで、その……昨夜は『君を愛することはできない』と言われてしまいまして……」


「「ええー!」」


 婦人たちの驚きと不満に満ちた声が響く。


「結婚早々そんなことを言うなんて、クロード様ったらあんまりですわ!」

「そうですわ。デリカシーに欠けますわ。こういうの、平民の言葉では“ノンデリ”って言うんですのよ」

「はぁ、ノンデリ。まぁうちの夫もノンデリですけれども、クロード様ほど酷くはありませんわね」


 婦人たちは口々にクロード様をけなしていく。


 使用人や他の男性がいたら絶対に聞かせられないような内容だ。


 けれど婦人たちが怒るのを見ていると、自分の悲しみが正当化されるようで、ずいぶんと気が楽になった。


 そうだ、私は悲しんでいいんだ。落ち込んでもいいんだ。


「貴族に愛人がいるのは珍しい話ではありません。でも愛人がいるからといって、新妻を放っておいていいという言い訳にはなりませんわね。それでシャルロット様、不躾な質問ですが初夜は……」


 ボーモン公爵夫人が気遣うように言った。


 私は静かに首を横に振る。


 新婚なのに、夫婦の営みもなく、「君を愛することはない」と宣言される始末。


 自分より悲惨な新妻が他にいるだろうか。


 その時、若い男爵令嬢が冗談交じりに声を上げた。


「シャルロット様のように可愛らしい方を放っておけるなんて、クロード様も信じられませんわね。フフッ、もしかして、クロード様の愛人って男だったりしてぇ。……なーんて、小説の読み過ぎですよね!……って、アレ?」


 男爵令嬢がそう言った瞬間、サロンの雰囲気にピシッと亀裂が入ったのを感じた。


 それは、そうであってはならない、という緊張感によるものではなかった。


 むしろ、そうであってほしい、という婦人たちの願望が一気に膨らみ、同時に決壊した音だった。


 新妻をないがしろにする夫の愛人が男であれば納得がいく。


 そういう類の感情ではなく、「身近にボーイズラブがあってほしい」そんな感情かもしれない。


 だってここ、そういう人の集まりだし。


「クロード様の……愛人が……男……!」


「あ、ありえますわ……! 愛人に操を立てているからシャルロット様と夜の生活を共にしないのではなく……」


「男しか愛せない体なのでは……‼ まさに、僕だけの騎士、じゃありませんか!」


「キャー! 破廉恥ですわぁぁぁぁぁ!」


 破廉恥だなんだと言う割に、全員が満面の笑みだった。


 もう嬉しくてしょうがなかった。


 それにつられて、私も満面の笑みになっていく。


 私はもはや可哀そうな新妻ではない。


 ボーイズラブを身近で観測できる、趣味に生きる新妻である可能性が浮上してきた。


「シャルロット様、せっかくですから、今度の合同出版に載せる小説はクロード様をモデルにしたらどうかしら?」


 ボーモン夫人が目を輝かせた。


 私達はもう小説を読むだけでは飽き足らず、最近は自分たちでも書いている。


 内容はもちろんボーイズラブ作品だ。


 それを今度合同で出版しようという話になっているのだが、私だけまだ執筆できていなかった。


 結婚式や新居に移る準備で忙しかったのだ。


「そうですわ! マリアンヌ先生のこの本をご参考になさって!」


 ボーモン夫人は私の胸に、紺色の表紙の本を押し付けるようにして渡してきた。


「私に書けるでしょうか?」


 クロードの冷たい顔が目に浮かぶ。


「そうですわね……主人公は騎士団の団員。実家からの圧力により美しい妻を娶ったが、妻がどれだけ美しくても心を動かされることはなかった。なぜなら、より愛する男がいたから……。シャルロット様、これでいきましょう」


 伯爵夫人が目を輝かせる。


「お相手も騎士団の団員……なんてどうでしょう? 妻に悟られぬよう、訓練所や騎士団の寮で逢瀬を重ねるんですわ!」


「きゃー! それでいきましょう!」


 私を抜きに、婦人たちはどんどん盛り上がっていく。


 正直ついていけない部分もあるが、クロードのことはこうやってネタにして昇華するくらいの方がいいのかもしれない。


 私は強く頷き、婦人たちの顔を見渡した。


「わたくし、やりますわ! クロード様をモデルにして、ボーイズラブ小説を書き上げてみせますわ……!」


ブクマ、星を頂けると励みになります!


本日は第三話まで更新します!

明日以降は毎日17時10分更新です。

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― 新着の感想 ―
ここまで、あっという間に読んでしまいました。 趣味に生きている感じがいいですね。 一方で、クロードの人柄についても気になりました。 このままひたすらにコメディを突き進んでいくのか。 それともまた別の…
思わず声に出して笑ってしまうほどの女子たちの盛り上がり、最高です! ☆をつけさせていただきました♪
 果たして、シャルロット様はどのような作品を作り上げてくれるのか……!  お貴族様がたの会話ですが、いやな堅苦しさはなく、それでいてどことなく上品さを感じられる、内容はお下品な会話……。目的が明確で…
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