第二十三話 挑発的なアクセル様
フォントネル侯爵家で、クロードの父から詰問されてから数日。
侯爵の言いつけ通り、クロードは自宅から一歩も外に出ることなく、大人しく過ごしている。
必然的に私は彼と三食を共にすることになったのだが、この雰囲気が、まあ重苦しいこと!
クロードは終始ムスッとしていて、私に話題のひとつも振らない。
しょうがないので私の方から天気やら食事のメニューやら、世間のニュースやらの話題を振る。
けれど、クロードは「ああ」とか「うん」とか「そうなのか」くらいしか語彙がない。
「クロード様、新聞の朝刊はもう御覧になりましたか? ナーバート国との戦争は和平会議へと運ぶ動きがあると書いてありましたよ。クロード様も騎士団の副団長なのですし、何かご存じでは?」
クロードは長い間のあと、ポツリと言った。
「俺は何も聞かされていない」
「……そう、ですか」
もういっそ別々に食事を取らせてほしい。
最初は夫婦一緒に食事を取ることに嬉しそうだった使用人たちも、今や気まずそうに私達を見守るのみだ。
なんか申し訳ない。
すると、重苦しい雰囲気を打ち破るかのように、使用人の一人であるエメが足早に食堂へと駆けこんでいた。
「奥様、旦那様。アクセル・アランソン様という方がお見えになっています。急ぎの用だとか」
「ア、アクセル様が?」
「アランソン氏……?」
私とクロードの声が重なる。
「シャルロット、お前はアランソン公爵の息子と知り合いなのか?」
まさかクロードをモデルにしたボーイズラブ小説を出版する過程で知り合ったとは言えない。
私はできるだけ平静を装い、にこやかに答える。
「ええ。ボーモン公爵夫人のおうちで開催されている、文学サロンを通じて知り合いになりまして」
「ああ、文学サロンか」
クロードは「なるほど」と言って頷いた。
とりあえず、ここはアクセル様が文学仲間ということにしておこう。
「どうしてこんな朝から訪ねて来たのかは分からんが、アランソン氏のことは応接間に通せ。すぐに向かうと伝えろ」
◇
クロードと並んで応接間に向かうと、そこには緊張で顔を固くしたアクセル様が落ち着かない様子で座っていた。
一体何があったのだろうか。
「フォントネル氏、シャルロット夫人、おはようございます。こんな朝早くから、お約束もないのに突然訪問した無礼をお許しください」
アクセル様はサッと頭を下げた。
「そして、フォントネル氏におかれましては、初めてご挨拶申し上げます。僕はアクセル・アランソンと申します」
「ああ、知っている」
アクセル様はクロードの元恋人の弟にあたる。
でも、もう何年も前の話だ。
「時間が無いので手短に説明させて頂きます。僕が代表を務める出版社から出た小説が、フォントネル氏をモデルにしているのではないかと市井を騒がせている件について……ご存じですね?」
えっ?
直球すぎない⁉
アクセル様、一体何を言い出すの⁉
ギギギ、と油が切れた機械のように、ぎこちない動作でクロードを見ると、彼は今にも暴れ出しそうなほどに怒りでふるふると震えていた。
「ああ、知っている。アランソン氏は俺の名誉を棄損したことについて謝罪するために来たのか?」
するとアクセル様は鼻で笑った。
「はは、まさか」
クロードをブチ切れさせるには、その笑いひとつで充分だった。
クロードは応接間にあった花瓶を掴むと、アクセル様に投げつけん勢いで持ち上げた。
床に花が落ち、びしゃびしゃと水が飛び散る。
「アランソン、貴様……! お前の会社が世に広めた駄本のせいで、俺がどれだけ苦しい思いをしたか……!」
「まあまあ、落ち着いてくださいよ。あれは世間を騒がせているとはいえ、あくまでもフィクションです。フォントネル氏のお名前も、お相手のお名前も出ていないではありませんか」
アクセル様はいつもの柔和な態度とは打って変わって、今日はえらく挑発的な態度だ。
アクセル様からすると、クロードは姉を捨てた仇のような存在なので、当然といえば当然かもしれない。
「本題はここからです。フォントネル氏、シャルロット夫人、今朝の朝刊は御覧になりましたか? ナーバート国と我が国が和平会議に移るというニュースです」
私は、フーフーと荒い息を吐き今にもアクセル様に掴みかかりそうなクロードを押さえながら答えた。
「み、見ました。それが何か?」
「昨夜、ナーバート国からの使者が、突如僕の出版社に現れたのです。夜遅くのことで、警備担当者から報せを受けた時には心臓が縮み上がりましたよ。敵国が何の用かとね」
「それで?」
「ナーバート国は和平合意の条件をいくつか挙げたのですが、そのうちの一つが、件の小説のモデルと作者を連れてくるように、とのことだったのです」
「「はあ……?」」
私とクロードの口から、思わず同時に間抜けな声が漏れた。
次のお話から、投稿頻度が週2~3回の不定期更新に変わります。
30話をめどに完結予定です。
今後とも本作をよろしくお願いいたします。




