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第二十二話 クロードの怒られ案件

「クロード。フォントネル侯爵家の名を辱(はずかし)めた責任、どう取るつもりだ⁉」


 書斎に、侯爵の怒りの声が響いた。


「父上、辱めるだなんて……俺はそんなつもりは……。イヴ・シャルルと友人以上に親しくしていることについては認めます。けれど、騎士団の風紀を乱すつもりはないですし、侯爵家の名を辱めるつもりは毛頭ありません! 父上は男同士が親しくすることを恥だとおっしゃるのですか?」


「いいか、クロード。お前はこの小説を読んでいないから知らないだろうが、この小説は……とても……破廉恥なのだ……」


 フォントネル侯爵は消え入るような声で言った。


「は、破廉恥とは……」


 クロードは怪訝な顔で聞き返す。


「ただの恋愛小説ではないのだ……その……市井に出回っている小説の中でも群を抜いて破廉恥な内容だと、侍女頭のアネットも言っていた」


「それは、つまり……? 俺は官能小説のモデルにされたということですか?」


「私にはよく分からんのだが、官能小説というものでもないらしい。男同士の恋愛に焦点を当てた短編集だとアネットからは聞いている」


 なんという羞恥プレイ。


 まさか自分の書いた本で、義父と夫がこんなやり取りをするとは思わなかった。


 二人に申し訳ない気持ちと、自分の書いた小説について解説される恥ずかしさで、穴があったら入りたい。


「男同士の恋愛を描くことがその本の意図であるが、その中に破廉恥な場面が少なからずある、という認識でしょうか」


「その通りだ」


 もう帰っていいですか。


 自分で蒔いた種だが、私は心底いたたまれない気持ちで立ち尽くす他なかった。


「クロード。ただの恋愛小説のモデルになったくらいでお前を戦地から呼び出したりはしない。けれど極めて破廉恥な小説のモデルとして面白おかしく描かれ、しかも妻がいながら騎士団の団員を愛人にしている事実があるとなっては、お前に直接事情を聞くほかなかったのだ。それは分かるな?」


 フォントネル侯爵は随分トーンダウンした様子でクロードに語りかけた。


 クロードは先ほどよりも力なく肩を落とし「はい」と頷く。


「近々、騎士団からは何かしらの処分が言い渡される可能性が高い」


「しょ、処分ですか」


 俯いていたクロードがバッと顔を上げた。


「ああ、お前はフォントネル侯爵家の名前のみならず、騎士団の名誉さえ陥れたも同然なのだ」


「待ってください。俺のことを面白おかしく描いたのはその小説家でしょう⁉ どうして俺が処分を下されなくてはならないのですか⁉」


「クロード、自分のやったことを省みろ! お前は独身ではないのだぞ? 貴族に愛人がいるのは珍しいことではないが、どうして相手を騎士団の中で見繕ったのだ⁉ 男同士で親しくするなど、人の道理に反したことではないか!」


「父上、私は人の道理に反してはおりません!」


 クロードは義父に食って掛かるようにして反論した。


「国は同性同士の結婚を認めていない。それはお前らの存在を否定してるも同然なのだ! そんなはしたない人間をフォントネル侯爵家から出してしまったことは、末代までの恥だ」


 冷たく言い切った侯爵を見て、私は理解した。


 この人は息子が破廉恥な小説のモデルになったことに怒っているんじゃない。


 たぶん、息子が同性愛者であることを受け入れられないのだ。


 クロードは学生時代に女性の恋人もいたので、純粋な同性愛者じゃないと思う。


 でも、そんなことフォントネル侯爵にとってはどうでもいいのだろう。


「俺は、父上が言うようなはしたない人間ではありません。貴族に愛人がいるのはよくあることです。そして、その相手がたまたま平民の男だったというだけです。フォントネル侯爵家の名を汚すようなことはしていません。騎士団としての務めも真摯に果たしています。俺が国境で、どれだけ苦労したか父上はご存じない!」


「黙れクロード! 騎士団が国のために命を懸けるのは当然のことだ! ……お前は自分がやったことを省みて、騎士団から処分が言い渡されるまで大人しくしていろ! ……お前が、侯爵家の跡継ぎでなくて良かったとこれほどまでに思ったことはない」


 侯爵の言葉に、クロードはぐっと息を飲んだ。


 それはあまりにも冷たい、父が息子を突き放す言葉だった。




 帰りの馬車で、クロードは一言も発さず、また私のことを一切見ようとはしなかった。


 クロードとフォントネル侯爵の仲がこじれたのは、どう考えても小説を書いた私の責任だ。


 けれど、彼らも大概だと思う。


 だって、二人とも「貴族に愛人がいるのはしょうがない」みたいなスタンスで、私がどれだけ傷ついたかなんて少しも気にしていない様子だった。


 貴族だから夫の不倫を容認するのは当たり前ってこと?


 それって、あまりにも私を馬鹿にしてない?


 ううん、もしかすると女性自体をすごく下に見ているのかもしれない。


 しかも、フォントネル家では私はまるで空気に近い扱いだった。


 ふと、頭にアクセル様の言葉がよぎる。


『もっと、自分の幸せを追求してもいいのですよ』


 クロードが不倫を辞めれば幸せになれる?


 それは違う気がする。


 私の幸せってなんだろう。


 そうやって自分の幸せについて悶々と考え続けること数日。


 ついに答えは出ないまま、私の人生を大きく揺さぶる報せが入った。


「ナーバート国の使者が、私に会いたいですって……?」

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