↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
20/28

第二十話 夫の実家からの呼び出し

 アクセル様との打ち合わせから帰宅すると、そこには居るはずのない夫クロードがいた。


「クロード様⁉ いつ戦地からお戻りになったのですか⁉」


「小一時間前だ。それよりも、さっさと支度をしろ。フォントネル侯爵家から呼び出しがかかった」


「し、支度とは……? それよりも、お戻りになるのなら前もって知らせて下されば良かったのに」


 私がそう言うと、クロード様は苛立ったように小さくため息を吐き、前髪を掻きあげた。


 戦地に赴く前よりも、全体的に髪が伸びている。


 中でも前髪は目にかかるほど長く、少し鬱陶しそうだ。


「俺もこのタイミングで休暇を取るつもりなど無かったんだ! 無論、ここに戻るつもりも無かった。まだ戦争は終わっていないからな。ただ、今朝我が国はナーバートと停戦協議に入ったのだ。おそらく数日間は停戦する。このタイミングで実家から今すぐに帰れと連絡があって、帰ってくるしかなかったんだ」


「フォントネル侯爵家から、急ぎの用ですか?」


「ああ。詳しくは向こうに着いてから説明すると言われている。そして、その際には必ずシャルロットを伴うようにと言われたのだ」


「私も一緒に、ですか」


 クロードが騎士団として戦地に赴いている最中に、妻である私と一緒に実家に顔を出すようにと言ったってこと?


 私の義理の両親であるフォントネル侯爵夫妻は、結婚前と結婚式当日などに数回顔を合わせたのみで、ほとんど付き合いはない。


 けれど、戦時に無茶を言うような人たちでも無さそうだけれど……。


「とにかく、俺達は今すぐフォントネル侯爵家に向かわねばならん。同じ王都といえど馬車で一時間はかかる。今すぐ用意しろ」


◇


 馬車に乗って鬱蒼とした木々に囲まれた道を抜けると、フォントネル侯爵家の大きな屋敷の前に出る。


 私たちの馬車を見つけるやいなや、満面の笑みを浮かべた子供が、たたた、と走り寄ってきた。


「ユーゴ。また大きくなったな」


 クロードが私に対しては絶対に聞かせることのないような、優しい声で子供の名を呼んだ。


 馬車から降りたクロードに跳びつくようにして現れたのは、クロードの甥であるユーゴだ。


 ユーゴはクロードの兄夫婦の息子で、3歳になる。


 その後ろから、ややぎこちない笑みを浮かべた女性が歩いて来た。


 彼女はユーゴの母であり、クロードの義理の姉にあたるアニエスだ。


「クロード、久しぶりですね。国境の方は髪を切る暇もない程に忙しいのでしょうね。少し前髪が長いわ。シャルロット様もお元気そうですね」


「義姉(ねえ)さん、結婚式以来ですね。フォントネル家は変わりありませんか」


「ええ、お義父(とう)様の機嫌がすこぶる悪い以外は……。クロード、あなた、あの噂は……」


 アニエスは言いにくそうに言葉を区切った。


「噂、とは?」


「あなた、まさか何も聞かされずにここに来たの?」


 アニエスが少し驚いた様子で目を見開いた。


 どういうことだろう。


 私は怪訝な顔をするクロードと目線を交わした。


「俺は急いで帰ってこいと言われただけですよ」


「そう……そうなのね。お義父様たちは、奥の書斎にいらっしゃるわ。クロード、シャルロット様とここに来たということは、あなた達は、その……」


 アニエスが口ごもっている間に、使用人はそれを遮るように「クロード様、シャルロット様、お待ちしておりました」と私達を屋敷の奥へと連れて行った。


 今から一体何が始まるのだろうか。


 私は嫌な予感で満たされる胸を押さえつつ、書斎へと向かった。




「クロード、シャルロット。お前達がどうして呼ばれたか、分かっているだろうな」


 フォントネル侯爵は明らかに苛立った様子で目をすがめた。


 えっ、怖いんですけど……!


 するとフォントネル侯爵は一冊の本を取り出し、その背表紙の角をコンコンと机に打ち付けるようにした。


 その本は明るい茶色の表紙で、背を向け合って立つ二人の男たちが描かれている。


 それはどう見ても私が婦人たちと書いたアンソロ本じゃないの……!


 私は頭からサーっと血の気が引くのを感じた。


 次第に手足が冷たくなり、お腹の下の方がぎゅっとなる。


 恐る恐るクロードを盗み見ると、彼は全く意味が分からないと言った顔で首を傾げている。


「クロード! お、お前……シャルロットという妻がありながら、騎士団の同僚にうつつを抜かしているのではあるまいな⁉」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。