第十話 新婚夫の憂鬱~クロード視点~
主人公の夫・クロードの視点です。
「旦那様、今しがた騎士団から緊急の連絡がございました。……隣国との国境付近で、大きな爆発があったとのことです」
応接室に入って来た侍女のエメは、不安そうな顔で俺を見た。
「まさか、開戦したのか?」
「そこまでは分かりません。騎士団からは、とにかくすぐに詰所の方まで来てほしいと……」
エメはそこで言葉を区切ると、オロオロとした様子で俺とイヴを交互に見た。
いつまでもここで悠長に座っている訳にはいかない。
俺はサッと立ち上がると、エメに詫びた。
「すまない、せっかく茶を淹れてくれたのに」
「いいえ、旦那さま。お気遣いなく」
応接室から出て行くエメを横目に、俺はイヴに目で合図する。
イヴは軽く頷き立ち上がった。
「あ、あの……!」
声をかけてきたのはシャルロットだ。
「なんだ」
「お、お気をつけて……」
俺は小さく頷いて見せると、イヴを伴って屋敷を出た。
玄関先にはもう騎士団の馬車が停まっていた。
急げという上からのメッセージだ。
俺とイヴを乗せた馬車は、先ほどまでいた騎士団の詰所に向けてすぐに走り出した。
流れゆく車窓の景色を眺めながら、色々な考えが頭をよぎっていく。
隣国とはずっと緊張状態が続いていた。
けれど俺達が訓練をしていた今日の日中は、すぐに開戦しそうだという情報は入ってこなかった。
この数時間のうちに大きく状況が変わってしまったということだろうか。
被害の規模は。怪我人はいるのか。これからどうなるのか……。
顔には出さないが、俺の胸中は黒い不安が渦巻き始めていた。
それに、シャルロットのあの言葉。
彼女は確かに『わたくし、あなたたちの関係には気づいています』と言った。
シャルロットは一体どういう気持ちであの言葉を発したのだろうか。
彼女は俺に愛人がいることには気づいているようだった。
けれど、まさか騎士団の中にいるということまで気づいていたとは思わなかった。
女性はどうしてこうも鋭いのだろう。
シャルロットはああ言うことで俺にどうして欲しかったのだろうか。
謝って欲しかった?
イヴと別れて欲しかった?
シャルロットには結婚初日に「君を愛することはない」と告げているし、むやみに彼女と男女の関係にもなっていない。
生活に必要な金は渡しているし、屋敷には使用人たちもいる。
みな彼女に親切にしているはずだから、シャルロットは生活に困っていないはずだ。
貴族の結婚など政略結婚も多いし、愛がなくとも普通では?
俺はシャルロットを無碍に扱いたい訳じゃない。
彼女は俺に構わず、マイペースに幸せになってくれればいいだけなのに。
そこまで考えて、俺は昔交際していた公爵令嬢に「あなたには人の気持ちが分からないの?」と涙ながらに言われたことを思い出した。
俺は、人の気持ちが分からないのだろうか。
確かに、イヴのようにストレートに愛情表現をしてくれる人間の方が好ましいとは思っている。
だが、だからといって人の気持ちが分からないなんてことはないと自分では思うのだが……。
そこまで考えた時、俺の手に何かが当たるのを感じた。
イヴの手だ。
俺はそっと彼の手を握り返す。
俺はイヴを愛している。
けれど。
最近ではイヴのことがよく理解できない、とも思っている。
どうして妻であるシャルロットに喧嘩を売るような真似をするのか?
どうして穏便に事を済ませてくれないのか。
俺はシャルロットとイヴを対立させたい訳じゃない。
表面上仲良くしてくれたらそれでいいのに。
イヴに気付かれぬよう細い溜息を吐くと、もう騎士団の敷地の門まで来ていた。
緊張した面持ちの門番が出迎えてくれる。
俺を取り巻く環境がゆっくりと、けれど不穏な様子で渦巻いていくのを感じながら、俺は馬車から降り立った。
「国境付近で大きな爆発があったと聞いた。詳細を教えてくれ」
作者もクロードのことは「コイツあたまおかしいな」と思いながら書いてます。
人の気持ちが分からない、ことなかれ主義です。
ただ意外に周囲の人には親切で、騎士団の団員たちからも自宅の使用人たちからも慕われています。深く関わらなければいい奴なのかも。




