第1部(9)
『アップデート通知』
ハルトがパーソナルデバイスに1件の通知があることに気づく。リヴの公式からだ。
『NEW:Liveが❝ルーム&モーション❞デバイスに対応しました』
件名に目を滑らせながら早速メッセージを開く。
そこには簡素な説明と大型アップデートの詳細記事へのリンクが貼られていた。
ハルトはそのままリンクに飛んで、記事を読み始める。
世界ひろがる。楽しみあふれる。
冒頭、こんなキャッチコピーがでかでかとハルトを迎えた。
次に本文へ。
『グッドニュース!冒険者の皆さん!
ついに《ネバーエンディングワールド・リヴ》が最新デバイスのルーム&モーションに正式対応しました!』
以降、ルーム&モーションとは何かの簡単な紹介、そしてその導入がリヴにどれほど素晴らしい進化をもたらすかが熱情的に書かれていた。
律儀にCMのリンクまで貼ってある。
正面に置かれたディスプレイ画面に、森の風景が映る。
その境界がほどけていく。
映像は枠からあふれ出し、部屋そのものへと広がっていく。
気づくと、その中にいる。
頭上には太陽、周囲には途切れない木々と花。
世界は、視界と一致していた。
人物が現れる。
その動きに、世界がわずかに遅れて応える。
振り下ろした瞬間、木には切り込みが走った。
ゆっくりと倒れていく幹。
『ROOM & MOTION
部屋に、世界がやってくる』
わくわくした。この技術でリヴがプレイできたら!
ハルトは興奮を隠せない。
ルーム&モーション、買うしかない!
夕食のとき、ハルトがおずおずと切り出した。
「母さん、ゲームに使う新しいデバイスがほしいんだけど……もらってるお金をはたいたら、それで買える計算」
ハルトの母は、怖がるハルトを安心させるように答えた。
「もちろん。お小遣いはあなたのお金なんだから。大学も頑張るのよ」
ハルトはほっとして、また勢いよく夕食を食べ始める。
ネットで購入し数日後、いよいよルーム&モーションがハルトの部屋にやってきた。
配達され梱包状態のそれを開け、最新デバイスのお披露目だ。
複数の映像投射装置と、複数の身体装着型コントローラ。
まず映像投射装置をマニュアルに沿って設置。ARのガイドが光で設置場所を示すので簡単だ。
同じように、身体装着型コントローラをハルトは身につけていく。
白い壁紙。大きな物は移動式ベッドだけ。このときのために真っ白なカーテンを新調した。物の少ない簡素な部屋が幸いした形。
さあ、新しい冒険の始まりだ。
リヴを起動する。
しばしの静寂。読み込みが終わると、そこにはリヴ世界の全景があった。
街並みを走ってみる。
それから、上を、空を見上げれば太陽が輝く。後ろを振り返ってもそこには情景が家々が切れ目なくつながる。
リヴ世界へ紛れ込んだ冒険者。
いつもと同じセーブポイントからの再開なのに、その景色はやけに綺麗に思えた。
「おうトレース!やっぱすごいな最新デバイスの実力ってやつは!」
フラニが声をかけてきて、ぴょんぴょん跳ねている。
「あっちにローダーもいたぞ」
2人でローダーのほうへと歩く。フラニから見たトレースの動きがカクカクしてる。
フラニが馬鹿にするように笑った。
トレースが反論するように言う。
「さすがに部屋の中だから歩く動作はコントローラ入力だろ?まだ慣れない……ってかおまえはなんでそんな順応が早いんだよ!」
フラニはくるくる回りながら移動してみせて、2人はローダーの姿を発見。
ローダーはサングラスのような解析装置をつけて空を見上げていた。
「光源の仕様はこうなってるか……なるほどうまいことやってきたな」
視線を落としてローダーは観察を続ける。
そして2人に気づくと手招きした。
「おう、トレース!フラニ!」
3人が合流。するとローダーがこんなことを言い出した。
「おいら気づいただろ!」
「何に?」
フラニが返す。
「いつもいいように使われるだけで、おいらのリヴ演算シミュレータ説の証明に何も協力してもらってないぞ!」
「そんなつもりは!」
「ばれたか……」
トレースとフラニがそれぞれ反応する。
「だから今日こそはおいらの❝証明❞に協力してもらうぞ」
ローダーが熱っぽく言って、残る2人は顔を見合わせる。
「具体的に何するんだ?」
トレースが聞く。
「リヴを作ってるエクシヴがゲーム内でプレイヤーの行動からデータを集めてるのは間違いない。利用規約にも書かれてるしな。でもその中身は謎に包まれてる。これを調査しに行く!」
「ふうん。ちょっと面白そうだな」
フラニが意見を述べた。
「目的地は、古き都テイアン!」
冒険者だけが使える魔法、という設定のもと3人のパーティはファストトラベル機能でテイアンに一瞬で移動した。
フラニがその入り口から入ろうとしたとき、ローダーが引き留めた。
「こっちじゃない!あっちから入る」
と、複数あるテイアンへ続く道からひとつを選ぶ。
そこは、狭い道路で、街へ入ったところで二又に分かれている。
「ここだ!」
ローダーが言って、トレースとフラニは首をかしげる。道自体におかしなところはない。あえて言えば街の入り口でいきなり道が綺麗に2つに分かれてるだけで、変哲もない光景。
「ここはな、人間工学的に完璧にストレスがない光景が作られてるんだ。そこで左右の分かれ道。つまり入ってきたプレイヤーが自然に右か左のどちらを選ぶかの統計データを収集できる!」
ローダーは熱く語っているが、冷めた顔でフラニは言った。
「で、それが何?」
「何って、人間の左右論に統計データ的な結論が出るんだぞ!すごい!」
「はあ」
「そもそも政治的な左右論は議場の座席位置から始まったとされることは有名ですが――」
「やべ、なんか始まった」
ローダーの語りを右から左へ聞き流しながら、パーティはテイアンへ入った。
そのとき。
シークエンス『皇帝の映した鏡』
画面上に文字列通知が表示された。リヴの❝お知らせ❞の中で、最も重要度が高いときに使われる方法だ。
「おいおい!シークエンスが始まるぞ!しかも震源地が近いんじゃないか!?」
フラニがローダーの語りを完全に遮って言った。
シークエンス――連鎖・大型・世界イベントとして期間限定で提供される特別なイベント。
「このテイアンに震源地あるぞ!行ってみよう!」
トレースも一段気分を上げて言った。
シークエンスには❝震源地❞と呼ばれるスタート地点が存在する。そして、このときしか見られない限定イベントが用意されているのだ。
「おい!まだおいらの話の途中だ!」
足早に、パーティはマップUIが示す地点へ向かった。
そこは、アーティファクトと呼ばれる遺物が展示され、観光地になっている場所だった。
『真実を映す鏡』
展示説明にはそう書かれている。
シークエンス開始の報を受け、まばらにプレイヤーたちが集まっていた。
ざわざわと、何かが起こるのを期待する感じが伝わってくる。
シークエンス『皇帝を映した鏡』
成功条件:割れない鏡を割れ
大きな姿見の鏡の横にひとりのNPCの男が立ち、群衆に向かって呼びかけた。
「おお!ひとつの帝国!ひとりの皇帝!」
始まったな、と集まったプレイヤーたちは注意深く男の話に耳を傾ける。
「かつてこの世界に世界帝国と呼ぶにふさわしい大帝国を築いた皇帝がいた。しかし皇帝は世継ぎを残さず、帝国は夢幻のごとく1代で姿を消した」
男は鏡に触れた。
「史上唯一の皇帝!そして彼の伝説の始まりは、この❝真実を映す鏡❞だった!嘘なき者だけを映すこの鏡に、自らを❝皇帝❞だと宣言し前に立ち、見事鏡はその姿をはっきりと映した!」
男が一歩前に出て、全員に訴えた。
「さあ、次はわれわれが時代を先に進めるときだ!この伝説を打ち破らんとする者、真実を映す鏡を割ってみせよ!そのとき、世界は新たな姿を見せるであろう!」
シークエンス開始。まずは鏡の近くにいたプレイヤーたちがそれに群がり、調べながら小突いて割れないかと試みている。
「リヴ定番のお祭りの始まり……今はここがリヴ世界の中心地……」
トレースが言った。しかし人集りはできているものの、活気は最高潮という感じはしない。
「それにしてはなんか、人が集まってなくねえか?リヴ過疎った?」
フラニが問いかけて、トレースとローダーを見た。
ローダーは心ここにあらずといった感じでそれを受け止める。トレースが答えた。
「そう言われると……いつもより人が少ない?」
ローダーの注意が返ってきて、2人に言う。
「シークエンスのUI画面を開け!」
言われて2人が情報UIから現在発生しているシークエンスの詳細がわかる項目を開く。
「シークエンスが……4つ!?」
【皇帝を映した鏡】
成功条件:割れない鏡を割れ
【花の名前】
成功条件:名前のない花には名前をつけましょう
【ピーカブーは知らない!】
成功条件:どこにいるかな?
【黄金の瞳】
成功条件:われに魔物を捧げよ!
ローダーはニヤリと笑った。
「史上初の、同時進行型シークエンスだ!」
過去の例ではリヴ世界にシークエンスはひとつだけ。これが原則だった。
「なんだって!?」
「そんなこと!?」
フラニとトレースが驚きを見せる。
「今回のお祭り会場は4つあった……だからプレイヤーがばらけた」
「じゃ、じゃあ震源地も4つ、攻略対象も4つ」
「世界各地でいっぺんにお祭りをやろうって!?」
ローダー、トレース、フラニがそれぞれ言った。
そのとき、鏡の所で動きがあった。
「残念だが、このシークエンスはもう終わりだぜ!」
筋肉隆々のアバターが鏡の前に立つ。
「こんなヒビの入ってる鏡、俺さまの一撃で粉砕だ!」
そのプレイヤーは斧を装備状態にして、巨大な斧を振りかぶった。
スキル:大切断
がん、と大きな音を立て、鏡は斧を受け止めた。
衝撃は強かったが、鏡は割れていない。
『えーあれで割れねえの!?』
『力押しは無理ってこと!?』
『何か連鎖イベントか、割る方法を調べるんだろう』
周囲のプレイヤーが各々喋っている。
「今の動作であいつのステータスを推測……」何やらローダーがやっている。「おいらたちの❝ちから❞じゃ割るのは不可能だろ」
「じゃあどうする?僕たちの番はまだ回ってこないけど」
トレースが次の方針の相談を持ちかけた。
「待とうぜ」
フラニは、鏡ではなくてその隣りにあるもうひとつのアーティファクトに注目していた。
「あれは❝記憶の欠片❞だ……鏡と同じように、真実を記憶してその映像イメージで歴史を伝えるアーティファクト。リヴの歴史オタクとして、見逃せない!」
フラニが次の行動を決めた。
パーティはしばらく時間を潰して、自分たちの番を待ち鏡の所へ行く。
「ほんとは鏡のほうを調べるべきだけど……俺はこっち!ほら、おまえらも!」
鏡の隣りに配置されたアーティファクト。それに3人が触れると、映像が目の前にあふれ出した。
昔々、ある大きくも小さくもない王国がありました。
その国で、王さまが後継ぎなく亡くなったのです。
失意の崩御から、空位の玉座は次の王さまを待っていました。
それは全国民も同じ。そこで議会はこんな取り決めをしました。
『真実を映す鏡を用い、❝わたしが王さまです❞と宣言してから鏡に映った者を新たな王とする。誰の挑戦も受けるが、失敗した者は王を僭称したとして重罪に処す』
失敗を恐れ、挑戦をする者はあまりいません。
鏡は、今日も罪人の証言を試すために使われています。
証言を行った罪人が、鏡の前に立たされます。
鏡は、その姿を映しません。
「やっぱり嘘をついていたな!有罪だ!」
罪人が連行されるとき、役人がふざけるように罪人に言います。
「どうだ?一発逆転、王さまになるのを狙ってみるか?」
「ひいい!そんなそんな!わたしは王さまではありません!」
これ以上罪が重くなるのはかなわないと、罪人は役人に引っ張られて連れて行かれました。
今日は珍しく、挑戦者がいました。
王さまを選ぶ儀式が始まり、役人は挑戦者に宣言をうながします。
「わたしは王さまではありません」
挑戦者はまずそう言いました。
「なんだ!今さら怖気づいたのか!」
「それら王国を統べる❝皇帝❞にあります」
もっと大きなことを宣って挑戦者は鏡の前に立ちました。
なんと、鏡は挑戦者の姿を映したのです!
周囲の者は驚きました。しかし鏡が真実を映さなかったことはありません。この挑戦者が王を超える皇帝であることは間違いなく、皆はそれを認めるしかありませんでした。
「わたしの名前を呼べ!」
「「皇帝!」」
儀式の成功を祝うように、世界で初めて挑戦者は❝皇帝❞と呼ばれました。
伝説の始まりです。
映像が終わり、フラニが興奮をおさえられず叫んだ。
「記憶の欠片は真実を映す!伝説は本当だったんだ!」
「壮大な英雄譚が始まるところを見た……」
トレースも圧倒されたように言う。
「まああくまでリヴ世界の歴史の真実な」
ローダーだけ冷静に言うと、後ろで番を待っているプレイヤーが嫌そうな顔を見せている。
まだまだ順番を待つプレイヤーは多く、トレースたちが留まってつっかえているわけにもいかない。
そそくさと、パーティは鏡から離れた。
すると新しくやってきたプレイヤーたちが、どんどん大きな集団を作っていくのが見えた。
「おまえたち、どこのギルドだ?」
トレースのパーティも声をかけられる。
「僕たちはギルドには入ってません」
トレースが答えると、もう興味はないと声をかけてきたプレイヤーは離れていった。
「ここからはわれわれLGNがガイドする!」
そして集団を率いるリーダーらしきプレイヤーが全体に向かって叫んだ。
集団に属するプレイヤーはそれぞれ、鏡に並ぶプレイヤーの列の整理、アーティファクトの調査、周囲のプレイヤーへの聞き込みなどに分かれて当たる。
「LGN?」
トレースは聞いていた。
「おまえほんと攻略とコミュニティに興味ないのな」
呆れたとフラニが言う。
「リヴ攻略ネットワーク……通称LGN。ソロプレイヤーとは真逆の、最大の所属メンバー数を誇る巨大攻略組織だ」
ローダーがいつものように解説する。
「じゃあここはあいつらに任せとけばいいだろ。せっかくの同時進行型シークエンス。俺たちは他の震源地に行ってみようぜ」
またフラニが方針を決めて、パーティは次なる場所へ。
植物が鬱蒼と生い茂る森の奥深く、ぽつんと1軒の家があった。
「こんな辺鄙な所が、震源地?」
トレースが言った。
「シークエンスが始まってかなり経ってるけど、ほとんどプレイヤーがいないな」
フラニが周りを見て言った。
ローダーは家の表札を見つけてそれを読んでいる。
『ピーカブー』
フラニも確認して思わず声を上げた。
「ピーカブー!?実在したのか!?」
ローダーは次に家の周囲の解析、観測を始めていた。
トレースが家に入ろうとしながら言う。
「ピーカブーって?」
「またかよ、ソロプレイヤーだからって無知すぎるだろ!てかピーカブーに会ったことないって幸運勢かよ!」
フラニが言って、ローダーは調べるのに忙しそうだったから説明も始めた。
「リヴ世界で宝箱を開けるとな、たまに❝ハズレ❞を引くことがある。中身は空っぽで❝ピーカブー!❞っていう声だけが響く。昔から妖精の仕業だと言われてた」
「あー1回聞いたことあるかも。あれ妖精だったんだ」
「迷惑な奴だよ!まあ、ゲームの仕様に怒っても仕方ないが」
トレースにフラニも続いてピーカブーの家に入った。遅れてローダーも来る。
家の中には誰もいなかった。たった今家の入り口ですれ違ったプレイヤーは、足早にこの場を去っていく。
食べかけの果物。開いたままの本。雑多に散らかったこぢんまりとした部屋。
その中央に机がある。そこもごちゃごちゃと物だらけだったが、1枚の書き置きが見つかった。
『探さないでください ピーカブー』
それを3人で確認して、話し合いが始まった。
「つまりピーカブーを探せってこと?」
トレースが言った。
「ゴールはそれに間違いない」
ローダーが言って、フラニがそれを引き取る。
「ってことは普段は❝ハズレ❞イベントのピーカブーが今度は❝当たり❞で――なんかややこしいな――どっかの宝箱に隠れてるピーカブーを見つけるわけか」
「問題はそこだ。この広大なリヴ世界でたったひとつの❝当たり❞の宝箱を見つける。ちなみにおいらのデータ解析でも宝箱の総数は数えられてない。天文学的な数字だぞ」
ローダーが言うと、トレースは唾を飲む。
「当てたい奴はこんな所来てる暇なんてない。だから情報が出回った今、みんな宝箱を開けに行ってる」
フラニが、ここでじっとしてるのはまずいと2人に問いかけた。
「俺らもピーカブー狙ってみるか?」
それに対して、ローダーは部屋の床に描かれた落書きを見つけて喜んでいるトレースのほうを指した。
「見てよ、これ!上手な猪!」
呑気なわれらがリーダー。
フラニもやれやれと肩をすくめて言った。
「うちのリーダーには宝箱開け作戦は無理か」
「だな。宝箱だけ開けて世界を調べないなんて、もったいないぞ」
ローダーも同意して、気が済むまで捜索してからピーカブーの家を出た。
「ピーカブーが見つかるまでは、ピーカブー探しは後回しでいいってことだ」
何やらわからないことをトレースは言う。
「次は黄金の瞳に行こう!」
トレースが決めて、パーティは移動を開始した。
どこまでも広がる平野。そこにおびただしい数のプレイヤーと魔物がひしめき合って戦闘を繰り広げている。
空には黄金の球体に大きな瞳だけがついたアーティファクトが浮かび、戦闘を見つめている。金属のような質感の球体。その瞳が無機質に、ただ直下の戦闘を観察している。
「おーやってんな!」
到着したパーティ、まずフラニが声を上げた。
パーティはまだ戦場から離れた位置にいる。
「あれが……黄金の瞳?」
存在を不気味に主張して空に浮かぶ球体を見て、トレースが言った。
「ここはもともと人類と魔物、国と生息域の境界線。前から魔物の侵攻はあったが、あの黄金の瞳が現れてそれが活発になった。これだけのプレイヤーが集まらないと押し返せないほどに」
ローダーが、目の前で起こる大規模戦闘を眺めて言った。
「ふうん。じゃあそれを完全に押し返せばいいってことか?」
フラニがこのシークエンスの目的を探って問いかける。
「まだわからん」
ローダーが答えてから、トレースも言う。
「とにかくここには、戦闘自慢のプレイヤーがどんどん集まってきてる」
戦場の一角、巨大な魔物が咆哮する。
「いやでかすぎ!あんなん倒すの何人いればいいんだよ!」
フラニが驚き、巨大魔物に目を引かれた3人は、それに対峙して陣形をとるプレイヤー群を見た。
統率され、整いすぎた陣形列。
戦士職の最前列が突撃して魔物に猛攻を加える。同時に、後列の魔法使い職の詠唱が終わり、魔法による多重遠距離攻撃を叩き込んだ。
巨大魔物がひるんだ。しかしすぐさま体勢を整えると、巨大魔物は大きな口を開けた。
「防御陣形!」
隊列が反応した。最前列の戦士職が巨大魔物との間に綺麗な線を作り、盾を構える。そこへ、後列から放たれた魔法たちが幾重にも防御陣を描く。
巨大魔物が火を吹いた。
すさまじい勢いでその炎が隊列を襲う。しかし、炎は防御を敷いた正面から向かってきている。ダメージはほとんど見受けられない。
上空から、弾が巨大魔物にぶつかった。空には大きな鳥やワイバーンに乗ったプレイヤーたちの姿もあり、そこから一直線に放たれた一弾が巨大魔物の腹部に命中したのだ。
巨大魔物の腹の一部、そのへそだけがぴかぴかと光っている。
「弱点マーキング完了!総攻撃!」
隊列の迅速な動きに対応するには、巨大魔物の体は大きすぎた。まず魔法攻撃の雷が正確に光るへそを射抜き、炎やら氷やらが続いて命中する。
巨大魔物が苦しげに叫ぶ。明らかに、効いていた。
そこへ最前列の戦士職がなだれ込むように接近すると、光るへそを叩く。巨大魔物の前で最前列のプレイヤーたちが作った攻撃角度を最大化した陣形は、見たことのない奇妙な形をしている。
遠くから数多の魔法攻撃が巨大魔物へ向かう――その第二の矢が当たって、ついに巨大魔物は倒れた。
「LGNの戦闘ギルドだ」
遠目から戦闘を見守っていたパーティ。ローダーが言った。
「連携がうますぎるな。俺が見た限り4つはギルドが混じって合わさってた。そんな訓練までやってんのか」
フラニは感心と呆れが混じった表情。
「なんか今、目が光らなかった?」
トレースが言った。
「ほんとか?」しばらくローダーのアバターの動きがぴたりと止まる。「確かにLGNが魔物を倒した瞬間、黄金の瞳は輝いている」
「あー我慢できん!もうそういうのいいじゃん!俺たちも行くぞ!」
フラニが戦場へ向かって走り出していく。
トレースがフラニだけ突出しないようついていくと、ローダーも後を追った。
「エウレカ、装備!」
「イーレスを装備」
「おいらは武器持たない主義!」
フラニは杖エウレカを、トレースは魔法剣イーレスを装備状態へ。ローダーは素手だ。
フラニが3人で戦うのに手頃そうな魔物の前で立っていた。トレースも追いついて、ローダーは2人の少し後ろで留まった。
パーティが対するのは、植物の魔物だった。本体からは大量の蔦が伸び、地面にしっかりと根づいている。
縦長に伸びた植物の魔物には頭部に穴があり、そこから毒液を吐き出してきた。
それが戦闘開始の合図になった。
毒液は誰にも命中せずに外れたが、禍々しい色でじゅわっと地面に広がるのを見て、ローダーがビビる。
まず、走り出したトレースが魔物に近づいていく。フラニは杖を構えた。
前にトレース。後ろにフラニ。遠くにローダー。パーティの自然配置だ。
トレースは魔物の蔦が届く距離にいた。ひゅんひゅんとうなりながらいくつもの蔦がトレースを攻撃してくる。
トレースの剣がまとめて蔦を斬り払った。
回避と攻撃をまとめてやった形だが、斬られた蔦はやがて再生する。
「蔦を攻撃するのは意味ない!」
「ああ!大型の魔物だ!弱点探すぞ!」
トレースの声にフラニが答える。そして、フラニの防御魔法がトレースの頭上に防御陣の傘を作る。
「毒が強すぎてそんなに大きいのは無理!うまく隠れろ!」
蔦の攻撃に合わせて毒液が降り注ぐ。防御傘を使って毒液を回避しながら、トレースは戦う。
一方のローダーは、荷物袋のストレージから脚立を取り出して、それを組み立てていた。
「なんで武器がなくてはしごはあるんだよ!」
思わずフラニが声を上げている。
組み立て終わった脚立の頂上に登って、ローダーは叫ぶ。
「うるせえ!解析には時に高さが必要!」
戦闘は膠着した。魔物の攻撃はこちらに当たらないが、こちらも致命的な攻撃がない。
「すまん!もっ回回復!」
トレースが支援を要求。
フラニが手を離せないなら、回復役はローダーの役目だった。
ローダーが回復アイテムのポーションを投げる。
トレースがそれをキャッチして、飲む。
「すばやさ上がるやつあるか!?こっちに頼む!」
フラニもローダーに言った。
ローダーは巻物を放り投げ、空中で開いた巻物がアイテム効果をフラニに与える。
「忙しいだろ!ってかルーム&モーションが!動作が足引っ張ってる!」
ローダーがボヤく。
戦いながらきっかけを探した。やがてローダーが大きな声で言った。
「解析完了!魔物のコアは中心で確定!上の穴から狙う!」
残りの2人は「了解」の合図で答える。
「そして地面からエネルギーを吸ってる!それを断ち切れ!」
後は任せたとローダーはびっと敬礼。
「言うは易し!ってね!」
トレースは蔦を斬りながら魔物に接近を試みる。
「穴はこの距離からの魔法じゃ狙えない!」
フラニがトレースを魔法で支援しながら現状を共有する。
トレースが魔物に最接近すると、その根元に一撃を加える。蔦の再生が止まり、好機を作った。
「トレース!炎魔法まで7秒!」
フラニがトレースに言いながら目で合図を送る。
1
トレースは周りの蔦を斬り払い自由になる。
2
フラニの意図を理解するトレース。
3
降ってきた毒液を防御傘でやり過ごす。
4
トレースがかがんで次の動作へ。
5
「いけ」
ローダーが呟く。
6
スキル:ジャンプ
7!
フラニから放たれた炎魔法が、真っすぐにトレースの頭上目がけて進んだ。
トレースは跳躍して、すでに空中高くにいる。飛んできた大きな炎に剣を合わせて、それを纏った剣は炎の全てを受け取り、剣と炎はひとつになる。
そのまま上から下へ、小さくもぽっかりと開いた魔物の穴へ向かって勢いよくトレースは炎の剣を突き刺した。
トレースが魔物から振り落とされ、魔物は穴から火を噴き出した。
そして魔物は炎に燃え盛り、倒れた。
「大勝利!」
ローダーが最初に喜びの声を上げた。
「うむ!美しい連携!」
フラニも言ってトレースのもとへ駆け寄る。
トレースはひとつ大きく息をして、ほっとした表情を見せた。それからフラニを迎えて、最後にやって来たローダーと3人でこの勝利を分かち合った。
「脚立なかったら負けてたな」
「ほんとかよ」
軽口を叩き合う2人を見ながら、部屋のハルトは時計を見てびっくりした。
「もうこんな時間だ!ごめん、僕はもう戻らないと」
「おっと、確かに!おいらもリアルに戻ることにするぜ」
トレースが言って、ローダーも戦いと冒険の終わりを告げた。
「えー!俺は戦い足りないぜ!」
フラニが残念がって言った。うずうずと体を動かしている。
「じゃあ俺ひとりでもう少し戦ってく」
少しつまらなそうに、フラニ。
「ごめんな!また明日!」
「ロストにだけ気をつけろ〜。おつ〜!」
フラニと別れて、トレースとローダーはセーブポイントに向かって歩き出し、戦場を後にした。




