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第1部(10)

 ある一室。


 ひとりの老人が机の向こうに座り、こちら側には新聞記者や学者といったたくさんの人たちが集まっていた。


 机の中央には青い花が置かれている。


 丁寧に1枚の絵画が持ってこられて、老人は青い花の隣りにその絵を置き、語り始めた。


「皇帝記念館から借り受けた名画❝約束の先❞――帝国が築かれる前の国々が争う戦国時代に、後の皇帝は外交交渉により隣国、ハーベルの無血での統合を成功させました。この絵はその時の光景を描いたものです」


 絵には皇帝とがっちり握手するハーベル宰相。周囲には皇帝側、ハーベル側、それぞれの人々が描かれ、厳しい外交の場で、ようやく実った成果が鮮やかに彩られている。


 そして、交渉のテーブルに添えられた青い花。何か絵の中で異彩を放つそれは今机の中央にある花と全く同じものだ。


「長年、ソラネ種の花には青色のものが見つからなかった。研究により自然界に青色のソラネ種の花が存在しないとわかったときから、青いソラネの花は❝不可能の花❞とも呼ばれ、人類はその花を追いかけてきた。皇帝が、当時絶対不可能とされた外交交渉を成した絵に、現実には存在しない青いソラネの花が描かれたのは、そういう謂れがあったわけです」


 老人は、机の花を前に出し、この発表の主役を示した。


「そして今、ついにわれわれはこの不可能の花を完成させました!今われわれの目の前に、青いソラネの花は存在しています!」


 集まった人々がわっと沸き、拍手が起こった。


「❝俺は不可能の花を咲かす❞――初代、わたしたち一族のホラ吹きの男がそう言ったところから、わたしたちはスタートしました。それから何世代もの時を重ね、今!この不可能とされた偉業を成し遂げ、われわれは青いソラネの花を見ています!」


 ざわざわと騒ぐ声と、ぱしゃぱしゃというカメラの音。


「この全く新しい花には、これそのものを表す名前がまだありません。そこで皆さんに、この花にふさわしい名前をつけてほしいのです。ようやく咲いた不可能の花……今これから、この花の品種名の公募を行います!」






 そこで、映像は終わっていた。


 リヴのゲーム内を記録したログ映像。


「リヴ世界の人にとって、本当に感動する瞬間だったんだなあ」


 パーソナルデバイスに映る静止した画面に向かって、ハルトは言った。


「おいらのおかげだろ!感謝するといいぞ!」


 ローダーの声がハルトの部屋に響く。


 画面の片隅で緑に点灯する表示が、ボイスチャットがオンだということを示していた。


「いやーなんかじーんとしちゃったな」


 ケイの声。


 しばらくの沈黙。


「……おい」


「なに」


「フラニ」


「なに」


「おまえ」


「だから何」


「男じゃねえか」


「当たり前だろ?なあトレース」


 水を向けられて、ハルトはごほんと咳をした。


「ま、まあ」


「トレースは知ってたのか!」


「そういうこと。知らないのはローダーだけ」


「知ってたし!俺っ子かわいいとか思ってなかったし!」


 ハルトが、もう一度ごほごほと咳払いして、話を本題に戻す。


「そういえば花の名前を決める投票サイトができてるって?」


「これな!」


 一瞬でローダーがテキストチャットを送ってきてリンクが表示される。


 リンクを押すと、リヴ公式サイトの投票専用ページに飛んだ。


「名前のない花には名前をつけましょう……」


 ぽつぽつと候補になる仮の名前と、票が入った数字が並んでいる。


「リヴのプレイヤーなら誰でも新しく項目を作れるみたいだ。ゲーム内からも投票できるみたいだけど、ネット上に投票箱を作るのは投票数伸ばしたいんだろうな、けっこう気合入ってる」


 ケイの説明。


「おいらも❝リヴワシミュレータ❞って項目作ったぞ」


 ローダーがえへんと言った。


「まあ今はこういうネタに走った名前が多い。考察が始まったところだ」


「なんだと!おいらは世界の真実をみんなに広めるため――」


 そこでハルトが仲裁に入る。


「まあまあ……ローダーには感謝してるよ。ありがとう。キミのおかげで花の名前の震源地イベントが見れた」


「へへ。ネットワークを漁った甲斐があったぞ」


「ネット?ネットワーク?」


 少し混乱するハルトにケイが助け舟を出す。


「ご大層なことに、LGNには専用コミュニティサイトがあるの!俗にネットワーク。登録してIDを貰う必要はあるが、誰でも入ることはできる」


「おいらギルドには入ってないがLGNのIDは持ってる。考察勢には欠かせない情報源」


「まあそれくらいの付き合い方がちょうどいいよ。LGNのカースト制はどうかしてる」


「入るのは簡単だけど登るのは地獄。LGNはそういうとこだぞ」


「そんなことより今はシークエンスだ。今日も落ちるだろ?」


 ケイの誘いに、ハルトとローダーも乗る。


「もちろん」


「おーう」


「じゃあいつも通りセラ姫の所に集合なー」






「トレース、わたしはただの集合場所ですか?」


 真顔でセラ姫が、3人が集まっているのを見て言った。


「ははは。違うよ、そんなことない」


 笑って、トレースが釈明する。


「今日はどのシークエンスに行くか決めようぜ」


 待ちきれないとフラニが言った。


 その流れを切ってまたローダーがこんなことを言う。


「今日の陰謀論のコーナー!」


「恒例にすな!自分で陰謀論言うな!」


 フラニに突っ込まれてもローダーは黙らない。


「皇帝女性説!」


「は?」


「始まっちまった」


「皇帝は政略結婚はしてるけど世継ぎがいなかった。ずっと自分のことを❝わたし❞と名乗ってた。けして自らの肌をさらさなかった」


「都市伝説レベル……」


 フラニが呆れていた。


「間違いないぞ!おいらの目は誤魔化せん!」


「フラニのことでやけになってるのかも……」


「なるほど馬鹿だな」


「すっきりしたぞ!シークエンスに向かおう!」


 気を取り直して、トレースが言う。


「まだ行ってないのは❝花の名前❞だけだけど……」


「でも、花の名前を投票で決めるのが本命だろ?正解とかは不明でも。現地に行く意味ある?」


 フラニが反論して、またトレースが返す。


「まあ確かにピーカブーのパターンもある……でも何かヒントが見つかるかもしれない。何より、足で稼ぐのが一番僕たちらしいだろ?」


 トレースの言葉に、2人はにんまりした。


「よっしゃ!じゃあ震源地の――」


「ポルトの町へ!」


 フラニ、ローダーで出発の合図を決めた。






 花の町、ポルト。


「綺麗な町だなー」


 入った瞬間、随所に置かれた花壇の花々が目に飛び込んでくる。


「そうだな、町全体で花が好きなんだろう」


「確かにデータなのに美しいぞ」


 3人で順番に話して、マップUIが示している❝震源地❞へと歩く。


「ここだ……」


 変わったところのない家。


 看板には「ターナー研究所」と書かれていた。


「入ってみようぜ」


 フラニを先頭に、パーティは中へ。


 エントランスにいると、奥から老人が出てきて声をかけられた。


「おやおや、これは冒険者さま。わざわざ花を見にございましたか。どうぞこちらの部屋へ」


 お客を迎え入れる部屋へと移動し、3人と老人は席に座った。


「わたしはシグ。この研究所の所長をやっております」


 真ん中の机には例の青い花が置かれている。この老人――シグがログ映像の不可能の花を作った老人だ。


 3人の視線が花に集中する。


「そうですな、皆さんこの花には夢中だが、直接訪れてくださる方は案外少ない……どうでしょう、年寄りの昔話など、ご興味はありますかな」


「もちろんです、聞かせてください」


「始まりは……ホラ吹き男の思いつきでした。花屋のせがれの男は、いつも嘘を言っては周りを困らせていた。それが何が男を変えたんでしょうな……ある時から男はホラ吹きではなく熱心な研究者になった。昼夜問わず働き詰めで、志半ば、自分は子も残さずに早くに死んでしまった」


 フラニが悲しみに共感して下を向く。


「しかしそれがわたしたちターナー一族の原点、そして一族の物語なのです」


 シグも花を見た。


「この何世代もの努力の結晶……初代には見せられないのが残念です」


 しんみりとした空気で、しばし場が固まった。


「ああ歳をとると話が長くなっていけない」


 見かねたシグが言うと、トレースが答えた。


「いえいえ、ありがとうございました。この青い花、ひとつ買わせてもらっても?」


「構いませんが、今はかなり値が張りますぞ?」


 提示された金額を見て、トレースは息を呑む。


「だ、大丈夫です……払います……」


 トレースが花を受け取る。


「そんな一番高いであろう時に大金で買って……無駄になるぞ」


「無駄にはならないよ」


 トレースは、フラニの茶化しに自信を持って答えた。






 町の広場。トレースとフラニはベンチに座って、その前にローダーが立っている。3人は作戦会議といったところだ。


「シークエンスが始まって1日と少し。LGNを始めとするプレイヤー全体の攻略により、わかってきたことがある」


 ローダーが現状を整理する。




 【皇帝を映した鏡】


 成功条件:割れない鏡を割れ




 【花の名前】


 成功条件:名前のない花には名前をつけましょう




 【ピーカブーは知らない!】


 成功条件:どこにいるかな?




 【黄金の瞳】


 成功条件:われに魔物を捧げよ!




「まず、皇帝を映した鏡。これは真実を映す鏡を割るのがゴールなのはほぼ間違ってなさそう。しかし、この鏡は物理的に割るのが難しく、別の方法が必要だと調査が行われている」


「皇帝伝説も関係ありそうだな」


 フラニが言った。


「次に、花の名前。投票サイトで花の名前を決める。確定。でもただのお祭り人気投票なのか、正解の名前があるのか、考察勢も探ってるがまだわからないことが多い。そして大事なのが、投票サイトには期限がカウントされてること。これがシークエンス開始からちょうど1週間。考察勢もこの期限がこのシークエンス全体の時間切れだということは一致してる」


「7日……昨日始まったから残りは6日か」


 トレースが言った。


「次の、ピーカブーは知らない。ピーカブーの設定にはブレが見つからないから、どこかの宝箱に隠れてるピーカブーを引くしかない。みんな❝ピーカブーくじ❞って呼んでひたすら宝箱を開けてる」


「宝くじとどっちが当たるんだろう……」


 フラニが呟く。


「最後に、黄金の瞳。魔物を倒したとき目が光ったろ?より多くの、より強い魔物を捧げることで、黄金の瞳は満たされていく。逆に黄金の瞳に強い光を当てると特殊UIでメーターが映る。ゴールはこれを100%にするってのが有力」


「今どれくらいかってわかるのか?」


 トレースが聞いた。


「ネットワークの速報値で、9%」


「残り6日だとけっこうきついな」


 フラニが顎に手を当てて言った。


「プレイヤーの構図はこうなってる」


 ローダーが言って、何やら空中に描くと、テキストがそこに浮かんだ。




 歴史勢→皇帝を映した鏡


 考察勢→花の名前


 誰でも参加→ピーカブーは知らない!


 戦闘勢→黄金の瞳




「うーん、他の人がどうとかじゃなく、僕は鏡と花が気になってる。やっぱり僕は、人が描く物語が好きだ」


 まずトレースが切り出した。


「俺は鏡と瞳。理由っていうより、俺は間違いなく歴史勢と戦闘勢に入るだろうから」


 次にフラニが票を入れる。


「おいらは鏡!そのままの意味だぞ!あの真実を映す鏡を徹底的に解析したい!」


 最後にローダーの意見。


「そういやこの前は皇帝伝説に気を取られて鏡はスルーしてたな」


 フラニが言った。


「うん。それに全員鏡が気になるならそこに行くのが自然だ」


「じゃあテイアンへ行って鏡と皇帝伝説を調べる!決定!」


「おいらも賛成!解析魂がうずくだろ!」


 パーティは次の目的地へ。






 テイアンにやって来たパーティは、真実を映す鏡を目指して歩いていた。


 古き都テイアン。かつては帝国の首都だったが、その最盛期に比べれば街並みは穏やかだ。


 のどかに子どもたちが遊んでいる姿が目に入る。


「わたしの名前を呼べ!」


「コーテー!」


 えっへんと威張るひとりの子どもに、他の子どもたちが指をさして叫ぶ。


「きゃははははは!」


 そして駆け回る子どもたち。


 トレースはそれを眺めて、現在の情景に溶け込んだ過去を思った。


 やがて、パーティは真実を映す鏡の所へたどり着いた。


 まばらな人集り。


「LGNの調査は終わったか……」


 フラニが呟く。


「LGNも解析してる頃だぞ。負けられないだろ!」


 ローダーが燃えている。


 鏡の所には一組の別のパーティがいた。順番を待つ間、トレースには鏡を観察する時間があった。


 人の背丈より一回り大きいサイズ。姿見の鏡として全身を映すには申し分ない。そして、装飾は豪華だった。


 目を引いたのは、鏡のてっぺんから下へ入るヒビ。斜めの角度で、半分は行かない程度に走るそのヒビが、鏡を割る方法はあると教えてくれてるように思えた。


「うーわ、おまえ映らないじゃん!はい嘘つき確定!」


「えーなんでだろ、映ってるおまえと何が違うんだ?」


 鏡の前に立つ2人のプレイヤーアバター。ひとりは鏡に映り、もうひとりは映らない。


 ひとしきり鏡で遊ぶと、別のパーティは去っていった。


「じゃあまず正直者選手権!鏡の仕組みを試すのを兼ねて、俺から行くぜ!」


 フラニがばっと鏡と正対する。


 その姿は、映らない。


「うわー、そんな気はしてたけど、ショックだわー」


「次はおいらの番。なんかドキドキするぞ」


 ローダーが入れ替わって鏡の前へ。


 その姿を鏡は映した。


「やったー!おいらの説は鏡のお墨つきだぞ!」


「嘘だろー!?こんな大ボラ野郎が嘘なき者!?納得いかんぞ、法則がわかんねー!」


 トレースの番だった。


「トレースほど嘘がつけない馬鹿正直者はいないからな。当然映るだろうな」


 フラニが言った。


「そうだといいけど」


 トレースが鏡の前に立つと、鏡はトレースの姿を映さない。


「なんで?こいつ真面目にやってる?合ってる?」


 フラニが言って、


「まあまあ。選手権はおいらの優勝だぞ」


 にやにや顔のローダーが言った。


 トレースは、正直者だという自負があったわけではないが、この結果に何か引っかかるものがあった。


「次はこの鏡を解析してく。アーティファクトだからけっこう時間がかかる。でもとことんやらせてもらうぞ」


 ローダーが腕まくりして言った。


「そうなると僕らにやれることは少ないけど、どうする?」


 トレースがフラニに向かって言った。


「それなら皇帝記念館へ行こうぜ!ローダーは鏡、俺たちは皇帝伝説の謎を追う!」


 フラニがトレースとの行き先を決めた。






 皇帝記念館は人で、プレイヤーの人集りで賑わっていた。


「なんかやけに人気だな」


 言いながらフラニが慣れた風に入場の手続きを済ませていく。トレースはついていくだけで、速やかに皇帝記念館の展示場に入った。


 皇帝記念館。文字通り皇帝の業績を称え、歴史資料、遺品、芸術品までその全てを網羅した大型博物館である。


 だが、まずトレースたちの目を引いたのは展示物ではなかった。


 入り口のほうまで続く長蛇の列。最後尾には、『特別展示❝皇帝の秘密❞1時間30分待ち』と書かれた看板が掲げられていた。


「皇帝の秘密?」


 トレースが聞いた。


「気にはなるけどな……他の所はがらがらだ、あれは後回しにして他全部回ろう」


 フラニが答えて、展示物の順路に入った。


『世界の改革者❝皇帝❞』


 大きな見出しから、展示は始まっていた。


『皇帝の出生、成人するまでの記録は全く残っていません。


 かの有名な❝鏡の伝説❞を機に、皇帝は歴史の表舞台に綺羅星のごとく現れました。』


 まず最初の説明文を律儀にトレースが読んでいると、フラニが言った。


「あーダメダメ!これだから素人は!ここ触ってみ」


 フラニに言われるまま説明文の隣りにある球体に触ると、説明文が音声で聞こえてくる。周りの人には聞こえてないみたいだ。❝内共鳴❞と呼ばれる現象を利用した対象者にのみ聞こえるメッセージを送る魔法だった。


「なんだこれ!めっちゃ便利!」


 これで、展示物を見ながら解説は耳で聞くことができる。


 それから、トレースは皇帝の偉業を歴史の流れに沿って体感していった。


 征服譚。外交術。内政。そのどれもが❝合理❞の名のもとに行われ、世界を旧き道理から解放していく。


 ちょうど、あの不可能の花が描かれた名画❝約束の先❞が飾られている所へ来た。❝ハーベル無血統合❞のセクションだ。


 トレースはもちろんその名画にも感動したが、もっと心を動かされたのは、皇帝からハーベルへ送られた大量の書簡が飾られていたことだ。それらは大きな道理から本当にこまごまとした注意事項まで、皇帝が気にかけて交渉したことを示していた。


 正に大偉業は1日にしてならず。


 書簡はそれを教えてくれた。


 皇帝は華々しい功績を並べて帝国を成立する。でも、本当に人々の心に残るのは何だろう?


 そして、皇帝の伝説の追体験も終わりを迎えようとしていた。


『皇帝は59歳で崩御。その生涯を閉じました。


 最後の言葉は❝ひとつの願い……叶えてほしかった……❞と伝わります。


 この❝ひとつの願い❞が何だったかは、歴史家の間でも意見が分かれています。


 世継ぎがほしかった。世界の全てを征服したかった。自らの不老不死を願った。様々です。


 この後、帝国は崩壊し、国々はまた分かたれます。


 しかし間違いないのは、皇帝の世界改革が少なくとも旧き時代からのくびきを砕いた、ということです。』


 見終わった2人は、しばらくその場で立ち尽くしていた。


「そうなると特別展示が気になるが……」


 感動の余韻に浸りながら、フラニが言った。


「皇帝の秘密、だね……並んでみる?」


 トレースが言うと、フラニはうーんとうなってから答えた。


「並ぼう!みんな並ぶってことはそれだけの価値があるってこと!」


 フラニが決断した。ならば、後は待つだけだ。


 特別展示を見るための列の最後尾に立って、2人はひたすら時間を潰している。


「あー身体コントローラじゃなけりゃ席を離れられるのに!」


 フラニがイライラしながら言った。


「まあまあ」


 トレースがなだめる役目。


 1時間以上が過ぎたろうか。順番もあともう一息、というところで、ひょこっとローダーが姿を見せた。


「皇帝の秘密、楽しみだぞ!」


「あーおまえずるいぞ!俺たちがどんだけ待ったと思うんだ!」


「大丈夫。おいらの情報によれば展示物は記憶の欠片。3人同時に見れる」


「そういうことを言ってるんじゃない!」


 ようやく、順番が回ってきた。


 展示物は記憶の欠片。3人がそれに触れると、映像イメージが沸き起こる。




 皇帝のプライベートルーム。


 皇帝は重たい正装を着て、鏡の前に立っている。


 しかし、その姿は鏡に映っていない。


「もう、鏡はわたしを映さない……」


 皇帝が目を伏せた。


「当たり前か……ずいぶん長い間わたしはわたしと名乗っていない」


 皇帝はもう一度正面を向き、鏡に触れた。


「わたしは、あまりに多くの嘘をついた……」


 皇帝の指先が、鏡の上部にわずかに入ったヒビへ向かった。


 すると鏡がきしみ、ヒビは大きくなる。


「そうか、おまえも苦しんでいるか……」


 皇帝がするすると服を脱いでいく。仰々しい上着を投げ捨てると、胸板に何かを隠すパーツ――特注品のそれが見えた。


 映像はそこで皇帝の背後に回って、皇帝が裸体になっていく様をとらえた。


 背中から見ても、その柔らかな身体の曲線は、女性のものだとわかる。




 映像が終わって、ローダーは最大限の興奮をもって叫んだ。


「うひょー!おいらの説は正しかった!皇帝がお――」


 慌ててフラニがローダーの口をふさいで言う。


「喜びすぎだ!言うな!」


 後ろで並ぶプレイヤーたちにぺこぺこ頭を下げながら、パーティは皇帝記念館を後にした。


 外に出ると、フラニが呟いた。


「あー今日も時間切れか」


「行列の待ち時間が痛かったね」


 トレースが答えると、ローダーが騒ぎ出す。


「うおー!おいらの考察はやはり天才的!」


 トレースとフラニは興奮がおさまるまでほっとこう、と顔を見合わせて確認する。


「でも、きっと誰かがネタバレしてる。今頃ネットワークはすごいだろうな」


 トレースが言った。


「ああ……うーもっとリヴを楽しみたいけどさすがにリアルに戻らないと」


「うん。明日があるよ」


「そだな。じゃあまた明日もいつも通り集合な!」


 まだ変なポーズで歓喜するローダーを置いて、2人は解散した。

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