第1部(11)
「花?」
ハルトは集合時間より早くセラ姫の所へやってきて、トレースの姿で青い花をセラ姫に手渡した。
「うん。プレゼント」
「へえ……」
「それを見たとき、なんかセラのことを思い出した」
「なんで?」
「なんとなく」
2人の交流を、フラニは陰からこっそり眺めていた。
「でも、高価なものじゃないの?」
「え、いやそんなことないよ!普通くらい」
にやにやしながらフラニが呟く。
「おーあんな嘘までついて……」
そこへローダーがやって来た。
「よっすフラニ!あ、トレースも!おお――」
ローダーが挨拶するのをフラニが口をふさいで止める。
「またそれか!なんで邪魔するんだぞ!」
「邪魔してるのはおまえ」
フラニの視線の先に、楽しそうに会話するトレースとセラ姫。
「まあ頃合い見てから行こうぜ」
たっぷりと、集合時間に遅れる勢いで2人を見守って、フラニとローダーはその姿を見せた。
「よっす」
「おおー遅かったな」
フラニの挨拶にトレースが答える。
「まあなーすまんすまん」
3人が集まった。
まずフラニが話し始める。
「皇帝は女性だったわけだけど、ネットワークはどう?」
「すごい盛り上がりだぞ。あの脱衣シーンの衝撃もあって、プレイヤーの間で皇帝の偶像化が進んでる」
「いや考察のほう……」
「んー正直性別の変更では何も動かなかっただろ。むしろ歴史の見方が変わった!って歴史勢が元気だ」
「そうか」
「まあ、皇帝女性説はフェイクだぞ、あの記憶の肝は――」
「鏡のヒビの入り方――」
トレースが言って、ローダーはニヤリ。
「そういうこと。鏡を解析したら、鏡はプレイヤーを識別パターンで❝正直❞と❝嘘❞に分けることがわかった。そしてこの識別、分別は覆らない」
「でも最初は映った真実の皇帝は嘘で映らなくなった――識別が反転したんだ!」
フラニが言って、ローダーはこくりとうなずいた。
「そのときにヒビが入った。つまり、プレイヤーが識別を反転させもう一度鏡にヒビを入れれば――」
「鏡は割れる!」
トレースが言った。
「で、その識別を反転させる方法は!?」
フラニが急かすように聞く。
「まだわからないぞ」
ローダーはあっさり答えた。
「んだよー!」
フラニががっかりとする。
「はあ、じゃあ今日はどうする?わからないけど鏡を追いかけるか?」
フラニは急に顔を明るくして言う。
「それともがっつり瞳で戦闘といくか?」
ローダーはトレースのほうを見た。リーダーの意見が聞きたい、というように。
「僕は、シグにお礼を言いに行きたい」
「は?」
フラニが呆気にとられる。
その間にローダーが喋る。
「シークエンスの進行には全く関係ないぞ。それでいいんだな、トレース」
「うん」
フラニはそのまま考えを巡らせていた。そして自分の中で納得がいったという顔になって言った。
「確かに、会議とかでリアルトレースの発言は流れを変えるときが多かったな……信じてみるか!」
「花の町、ポルトへ」
トレースが宣言。
「綺麗なお花を、ありがとうございました」
トレースは、座って向かい合うシグに軽く礼をして言った。
「いえいえ!これはご丁寧に!」
その姿に驚くようにシグは言う。
「しかしわたしが返せるものといえば、昔話くらい……」
トレースのほうがうなずいて見せたので、シグは話し始める。
「初代には歳の離れた弟がおりましてな、彼が初代の研究を引き継ぎ、また子宝にも恵まれたことでターナーの名は途絶えず、一族は研究を続けることができた」
お返しになることを考えながら、シグが語る。そして思いついた、という顔をして続けて言った。
「そうだ!この町にはその生家があるのです!迷惑でなければその場所をお教えしましょう」
再び礼を返すトレースに、フラニとローダーは視線を合わせて、イベントが進んだという手応えを確認し合う。
早速、ターナー一族の初代兄弟が住んだ家に移動した。NPCが歓迎してくれて、兄のホラ吹き男が使っていたという部屋に案内してくれた。
「ここで日夜研究をしておられたそうですよ。本当に身を粉にして」
NPCは「何か見つかるかもしれません。ごゆるりと」と言って去っていく。
「じゃあ俺ららしく」
「調査開始だぞ!」
トレースがうなずく。
部屋の捜索が始まった。
すぐに見つかったのは、男のホラの数々だった。部屋の至る所に落書きだったり傷として刻まれていたのだ。
『森でドラゴン発見!』
『ピーカブーを捕まえた!』
『この町は世界で一番有名になる』
『俺は死んでも負けない』
その痕跡の中で、フラニがひとつだけ異質なものに気づいた。
それは帝国の公用語でこう刻まれていた。
皇帝――と。
「おい!2人ともこれを見てくれ!」
3人で集まって、その品を調べる。
両開きになっていて、それは鏡だった。
「これも鏡?」
トレースが言った。
「違うな」ローダーは裏で解析を走らせているようだ。「アーティファクト――これも記憶の欠片だ!」
「なんだって!?」
フラニが声を出して驚く。
「皇帝と初代のホラ吹き男には交流が、つながりがあった」
「そしてそれは記憶されていた……」
「記憶の欠片もまた、嘘をつかない……見てみようぜ」
トレース、ローダー、フラニとつながって、3人は鏡の形をした記憶の欠片に触れた。
ホラ吹きの男と、皇帝が、真実を映す鏡の前に2人で立っている。
「王国一の色男の登場だ!」
さっと男が気取って鏡の前に出る。当然、鏡は男を映さない。
それを見た皇帝がクスクスと笑っている。女性の格好をした皇帝が。
「おまえはいつ見ても愉快だな」
皇帝が少し男に近づいてみせる。
鏡に皇帝が映る。映らないのは男だけ。
「なあ知ってるか?ソラネの花には青色のものだけがない。この世のどこにもだ」
男が言った。
「本当か?探せばどこかで見つかるんじゃないか」
「本当だ」
真顔で、男は言った。
「……信じそうになった」
皇帝がそう言ったところで、男はまた砕けた表情になる。
「いやいやこれは本当なんだって。たくさんの嘘をつきたまに本当のことを言う。ホラ吹きのコツだな」
「嘘にコツもないだろうさ」
今度は皇帝が砕けた表情から真顔になって。
「こんなこと、いつまで続くんだろう」
と、遠くを見ながら言った。
「俺の愛は永遠だ」
またしても男は真顔。
「……信じそうになったよ」
皇帝は悲しそうに下を向く。
「嘘でもなんでも最後は正直な気持ち。これが一番大事なんだ」
男の言葉に、悲しみと愛しさが混じった笑顔で皇帝は答えた。
「やっぱり嘘なんじゃないか」
映像が終わり、3人はしばらく黙った。
「2人は恋人だったんだ」
トレースが言った。
「でもこれは……いやなんでもない」
先のない恋だ、とはさすがのフラニでも言えなかった。
「2つのシークエンスがひとつのストーリーとしてつながった。続きが気になるぞ」
ローダーはもどかしそうに言った。
「ここまで来れたのはトレースの鼻が効いたおかげだ。ってかそれ以外に当てがない」
「僕は警察犬かよ!」
トレースが突っ込む。でもそれから2人は何も言わない。トレースの意見を待ってる。
ごほん、と咳払いしてからトレースが言う。
「墓参り、かな。この人に花を手向けたい」




