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第1部(6)

【太陽降下の洞窟】


 そのダンジョンを前に、3人は気を引き締める。パーティの結成は済んでおり、要求人数を満たしたことが示され、3人は洞窟の中へと足を踏み入れた。


 ローダーが一歩前へ出る。


「おいらはこのダンジョンに入ったことはないが、解析済みだ」


 自信に満ちた顔でローダーは言う。


「まず最初にゴブリンの群れが出てくる」


 ローダーの言う通りに、前方に複数のゴブリンの姿が確認できる。


「こいつらの一撃は当たると痛いが、単純なパターンだから簡単に避けられ――ぐえっ」


 ローダーが解説してるうちにゴブリンが3人のパーティに気づき、襲いかかってきていた。こんぼうを振りかざし、その単純攻撃はローダーに命中して、ローダーの肉体が沈んだ。


「弱っ」


 思わずフラニが声を漏らした。


「僕が倒しに行く!フラニはローダーの介抱を!」


 自らの魔法剣を装備状態にしながら、トレースが指示を出した。フラニはそれに従い、ローダーのもとへ駆け寄る。


「大丈夫か〜?」


 嘲りを含ませながらも、フラニはローダーを抱き起こし、体力回復アイテムの薬草を飲ませた。


「あ、あんま近づくな!ドキドキする」


 少し体力が戻ったのか、ローダーは身じろぎし、ケイ=フラニの女の子アバターから逃れようとする。


「無理すんなって」


 もしかしたら、ローダーはずっと虚勢を張っていたのかもしれない。自分をできるだけ大きく見せようと。フラニの言葉には確かな気遣いがあった。


「おいらは、情報だけを食って生きてきた。戦闘は専門外だ」


 それに応えるように、ローダーは真っ正直な顔をする。


「そしておいらは机上の空論しか言えない。だから利用価値がなくなったらいつも……」


 ローダーが、ゴブリンを蹴散らしていくトレースを見た。


「あいつは初めての、おいらの空論を面白がれる奴かもしれないんだ」


 トレースが全てのゴブリンを倒した。戦闘が終わって、ローダーとフラニの2人に歩み寄っていく。


「ローダーは動けるか?」


 トレースの確認に、ローダーが手をあげて答えた。


「歩いて移動はできる。戦闘要員には数えないでくれ」


 3人はダンジョンの奥へと進んだ。


 するすると、ダンジョン攻略は順調だった。それはローダーのナビが正確だったからだ。彼が持ち込んだマップは誤差なく進路を示した。データ解析の強みが出た形だ。


 モンスターを倒しては、ダンジョンでの報酬であるアイテムを回収する。


「燃えろ、ファイア!」


 フラニが詠唱を行い、炎が舞う。ケイのジョブ選択は『魔法使い』であり、フラニは立派な杖を振るった。


「うおーすげー!ハイファンタジー最高!!」


 それを見たローダーが端で騒ぐ。


「やかましい!じっとしてろ!」


 やがて、パーティは開けた部屋に出た。部屋というより、空洞や穴といったほうが正しいかもしれない。


 3人が同時に壁を、天井を見上げた。


「これは……太陽が……降りてくる……神話……?」


 トレースが呟いた。


 壁にはぎっしりと、太陽のモチーフ、そしてそれが地面に落ちてくる様が連なり、一編の物語が壁画として描かれていた。


「ローダー、これもデータ解析通りか?」


「いじわる言うなよ。せいぜいおいらが持ってるのは、壁テクスチャの色情報だけ」


 壁画をじっくりと観察しながら、ローダーは言う。


「でもこいつは、芸術……そんな大げさに言わなくとも、人が生み出す営みだ」


 一方、フラニはわなわなと震えていた。


「すごい!こいつはすごいぞ!ここはエルドルインの南のほうだから、おそらくヘイスと呼ばれた民族のもの、それも神代と人類史が混じり合うような時代の!こっちはヘイスが崇めた太陽神サヘルか!?そっちには民の生活の資料になりうる画が!?」


 堰を切ったようにフラニがまくし立て、ぱしゃぱしゃとカメラで壁画を記録としておさめていく。


「そういえば、おまえはリヴの架空史オタクだったか……」


 トレースは言って、フラニの気が済むまで待つことにした。


 そして、フラニが最後の写真をおさめた。


 降下し、地面に達した太陽に上から人間が引き寄せられるように手を伸ばしている画だった。


 ダンジョンの深層へ。


 そして、綺麗に二手に分かれている場所へと出た。


「マップ解析では、どっちの道もボスの所へつながってる。配置されてるアイテムも均等」


「見ろよ」フラニが痕跡を見つけて言った。「こっちの道には壁画の続きがありそうだぜ」


「いや逆の道に」ローダーが反対意見。「データの乱れがあるんだ。これを観測したい」


 むっとフラニとローダーは見つめ合って、一斉にトレースを見た。


 トレースは気圧されながらも答えた。


「ごめん、僕はこういうとき、両方ともの道を潰してからボス戦に行くタイプ」


 まずローダーが喜びながら言った。


「よく言った!さすがリーダー!」


 フラニもまんざらでもない顔をする。


「資料を確認できるなら、俺はそれでいい」


 まず、ローダーが推した道を行く。


「それが……データの乱れ?」


 ローダーは何でもない壁の一角をじっと見つめる。


 何やら解析機を取り出しては時間をかけて精査し続ける。


 それを終えると、ローダーはこれ以上ない満足顔を見せた。


「いやおまえが幸せならそれでいいけどよ」


 何ひとつわからない工程を見せられて、フラニが呟いた。


 次は、フラニが示した道へ。


 フラニの撮影会が再開したとき、ローダーがわがままに言った。


「疲れたー!トレースおんぶー!」


「おまえ、自分の番が終わったからってそんなこと言う!?」


 フラニのほうが突っ込む。


「それなら、フラニにおんぶしてもらえよ。写真は僕が撮る」


 ローダーが慌てて要求を取り下げる。


「い、いいよ!女の子にそんなことさせちゃダメだろ!」


 2つの道を踏破し、アイテムも集めながら、パーティはボスがいると目される部屋の前へと来た。


「いよいよだな」


「行くぞ!」


「おいらは戦わないぞ?」


 大きな部屋の中央に、巨大な機械兵器が鎮座していた。


 多足型の移動形態。コアの部分からたくさんの構造のわからない武器が生え、頭のように上方に突き出した部分には分厚い装甲があり、赤い色で何かを主張していた。


 そのとき、トレースは強い光を感じた。


 遥か高く、この部屋の天井は地上へとつながり、ぽっかりと空いていた。そこから太陽光が降り注いでいたのだ。


 機械兵器が敵を、パーティの3人を発見した。


 駆動音とともに起動し、最後の戦闘が始まった。




 スキル:サンフォール




 機械兵器の武器から数多の光弾が放たれ、それらは独特の軌道を描き天から3人に襲いかかる。


「あの赤い頭部分は硬すぎて狙うのは無意味!武器をひとつずつ壊して無力化するんだ!」


 端っこから隠れてローダーが檄を飛ばす。


 トレースとフラニはわかったと答えるように機械兵器の武器を狙った。


「ファイア!」


 フラニが放った炎が、ひとつ目の武器を壊す。


「攻撃力が高い分武器の所はもろい!」


「ときどき直線的なビーム攻撃が混じるぞ!気をつけろ!」


 2人は連携しながらボスを攻略していく。


「頑張れー!」


 ローダーの檄が情報ではなくただの応援になっていた。戦闘の風向きは、勝利に傾き始めている。


「こいつで終わりだ!」


 フラニが機械兵器のコア部分へ向けて、最後の詠唱に入る。


「ボスのドロップアイテムは❝エネルギーコア3TX❞!これはおいしいぞ!」


 ローダーが勝利を確信し報酬をネタバレする。


「違う……」


 トレースが形にならない違和感を呟く。


「え……?何だって……!?」


 フラニが反応して、トレースを質す。


「待ってくれ!」


 長年の付き合いでフラニが詠唱を中断する間に。


 太陽の壁画――頑丈に守られた頭――天井の穴――


「思い出せ!ここまでの線を!そして、それが向かうべき先は!」


 トレースがびっと天井の太陽を指差した。


「フラニ!スタン魔法!」


 フラニはすぐに詠唱を始める。




 スキル:ガンズヘッジ




 フラニの魔法が機械兵器に命中。ダメージは大きくないが、敵を強制的にスタン状態にし一定時間動きを封じる。


 トレースは素早く機械兵器に近づくと、頭部分を調べ始めた。


「やっぱりだ!」


 ガードを固めた頭部への攻撃は無意味。そう思わせることでプレイヤーの意識の外へ置くことで❝秘密❞を隠していた。


「こいつは倒すべき敵じゃない!太陽へ続く道なんだ!」


 トレースが暴いた秘密は――重力反転装置!


 トレースの意図を察したフラニはもう集まってきていて機械兵器の頭部に乗っかっている。


「ローダー!こっちだ!魔法が切れる前に!」


 遅れて反応したローダーがどこどこと走り出す。


 手を伸ばすトレース。向こうからのローダーの指先をトレースがつかんだ瞬間に、フラニは重力反転装置の起動スイッチを押した。


 その瞬間、3人は逆転した重力を感じた。


 空へ落ちていく感覚。


 事象を見れば、3人は天へ昇っていってるのに、正反対の現象。3人は太陽へ引っ張られていく。


 やがて3人は穴から地上へ放り出された。


 風を感じる。


 洞窟のじめじめした環境から抜け出したそこはどこまでも広く、無数の見たことのない花で地面は覆われていた。


「なんもねえじゃん」


 フラニが呟く。


「……なんもないな」


 ご自慢の解析装置を走らせてから、ローダーも言った。


 風だけが吹きさらし、花々が揺れている。


 誰も、何も言わなかった。




『オートセーブを完了


 好きなタイミングでログアウトしてください』




 そこは、ワールドマップのどことも通じていない花畑。


 行き着いたその場所で、トレースと、フラニと、ローダーは黙って風に吹かれている。


 それから、それぞれがログアウトしていき3人は別れた。しかし、3人は確信していた。またこの3人でパーティを組むことを。

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