第1部(4)
動的クエスト『大義のために』発生
突発型・時限型
成功条件:住民を捧げ、再封印を実行
失敗条件:制限時間を消費
報酬:世界イベントの進行
にわかに、プレイヤーたちが動き出す。
与えられた情報から、このクエストを成功させるために何が必要かを導き出そうとしている。
画面には特殊UIで2つの表示がある。ひとつは残り時間で、2時間からスタートし、それは刻々と減っていっている。もうひとつはクエスト達成のための進捗表示のようで、0/1000とある。
モニュメントに封じられた魔物は、ゆっくりと動き出していた。邪悪な色の肉体が露見し、もがくように外側の石を破壊し剥がしていく。
すると、街の中央に位置する道路が開けた広場に、機械と老人がいて、皆に呼びかける。
「これは新しい封印機じゃ!そして、この受信器に魂を捧げエネルギーに変換することで、あの魔物は再び封印できる!この街、ザグレスはそのためにあったのじゃ!」
大きな機械の周りに、受信器と思われるアイテムがたくさん散らばっている。老人はそのひとつを持ち、それを自分に突きつけた。
「大義のために!」
老人は弾けて、受信器にエネルギー体として吸収される。ドクン、と大きな機械、封印機が脈打ったように見えた。
UIの進捗表示が動いた。
10/1000
消えた老人が道を示した。
プレイヤーたちは一斉に受信器を拾い上げ散らばっていく。
『そういうことなら!』
『これで住民をエネルギーに換えて封印機をいっぱいにする!』
『オーケー、各自取りかかれ!』
次々と、ザグレス住民に受信器を当てることでエネルギー体へと変換され、封印機へと集まっていく。
178/1000
ハルトは、クエストの成り行きについていけていなかった。ハルトにとってザグレス住民も、この世界に生きる人だったから。目の前でエネルギーへ変換されていくザグレス住民は、大義を受け入れる者、命が惜しくて逃げようとする者で割れている。
不意に、あるプレイヤーが真正面の子どもに受信器を当てようとして、思わず子どもが「ひっ」と怯える。
「子どもは関係ないだろ!」
無意識に、トレースは子どもをかばっていた。
そして、走り出し、封じられた魔物に向かっていく。偶然、魔物=モニュメントは手の届く距離にあったのだ。
「魔法剣イーレスを装備状態へ」
トレースの両手に魔法剣が出現し、トレースはそれを構えた。
スキル:雷撃斬
トレースの魔法剣が雷をまとい、その一撃は魔物にぶつかった。トレースが覚えるスキルの中で最強のものだったが、魔物はびくともしない。
『何やってんだ!下手に魔物を刺激するな!クエストの進行に従え!』
それを見ていたプレイヤーのひとりが注意を飛ばす。
「方法って……!?」
トレースは吐き捨てて、また街へ戻った。
それから、1時間30分くらいが過ぎ、クエストは最終局面に入っていた。
912/1000
進捗は順調だったが、やがてプレイヤーたちが気づき始めた。
エネルギーに変換すべき住民が、見つからなくなってきたのである。
『これは……住民が、逃げた……いや逃がしてるPCがいる……!!』
街外れに、トレースはいた。抜け道のように外部に接続された都市の出入り口で、トレースはひとり逃げ延びたい住民たちを誘導していた。
おずおずと歩く住民たちに手振りで合図をしながら、トレースは遠くに見える魔物=モニュメントの様子をうかがっている。
ぎゅっと、不安そうに先ほどの子どもがトレースの服をつかむ。
「大丈夫。みんな、もっとわがままになっていいはずなんだ。そうだろ?」
制限時間が残りわずかになって、街にいるプレイヤーたちは苦々しい表情を見せる。
しかし、魔物の動きが活発になり、今にも封印から逃れそうになっている姿を前に、段々と撤退を選ぶプレイヤーが増えてきた。
932/1000
そこでスコアは止まり、封印エネルギーに変換できるザグレス住民の姿はなかった。
やがて、残り時間がゼロを示す。
『時間切れだ!』
『撤退撤退!全員退避!』
『もう魔物がどうしようもない!逃げろ!』
クエストは失敗。放たれた魔物が暴れ出し、封印都市ザグレスは消滅した。それから魔物は、人類が未開拓の魔物の生息域へと消えていった。
ハルトは、トレースはセラのもとにいた。
今はザグレスの遺品になってしまった彫りの入った木箱を見つめながら、何も言わない。
ようやく木箱から視線を外すと、セラ姫のほうへ向き直って話し始めた。
「考えてた。クエストが成功したら、ザグレスは空洞の街……失敗した今は住人を難民に変えて街は消滅……どっちがよかったんだろうって」
「あなたはどう思うの?」
「わからない」
「あなたはどうしてそうしたの?」
セラ姫の問いに、ハルトは考えてから答えた。
「これは、愛着の問題だ」
なおも考え続けながら、下を向いて、またセラ姫と向き合って、言う。
「僕はリヴ世界を、愛し始めている」
セラ姫も、答えた。
「それなら、この世界は幸福だったでしょうね」
薄く、セラ姫は笑った。
『大型クエストが失敗。冷酷になれないプレイヤー』
『感情論が招いた失敗。世界イベント進行に遅れ』
真っ暗な部屋の中で、パーソナルデバイスの画面の光だけが灯っている。
画面はNEW:Liveの速報ニュースサイトから、ソーシャルレイヤーにおけるリヴのコミュニティ――その意見交換に切り替わる。
『成功してたら、住民がいなくなった街に新しい展開があったんだろ!?あーマジ最悪』
『犯人探しをしたいわけじゃないんだけど、誰かNPCを逃がしてた奴がいたって?』
『まあまあ、突発で起こる大型クエストの結果がブレるのはしゃーない』
次に、画面を見つめる眼鏡の男は、投稿されているスクリーンショット、さらには出所不明のログ映像まで解析しだす。
やがて、ひとりのプレイヤーに目が留まり、そのプレイヤー名を確認する。
「ソロプレイヤーのトレース……こいつ面白いぞ」




