第1部(3)
「あなたは旅をしなさい。執着にこだわることなく、この世界を楽しみ、見届けるのよ」
ハルトは初めて、NEW:Liveの攻略に取りかかった。心の奥底では、気分転換が必要だということに気づいていたのかもしれない。
城の地下へ厳密な確認作業に行くのではなく、開かれた世界を歩き始めた。
ハルトは冒険を繰り返し、セラ姫の所へ帰っては報告を尽くす。
『あっちの港町に行ったらさ、長雨の季節で毎年その時期には住民たちが道に向けて透明な布を張り出すんだよ。そうすると雨が降ったときに光が乱反射してとても綺麗だって。それから❝光の祭り❞だーって祝うんだ。雨の中光り輝くその祭りには、胸を打たれた』
『初期クエストでおじいさんの護衛をするやつがあるんだけど、これがなんか面白くてさ。敵なんて現れなくて延々とおじいさんが亡くなった奥さんの話をするの。最初は聞いてたんだけど、段々とリズムだけになっていって最後はお経みたいになってた。でも護衛が終わって深々とお辞儀をするおじいさんの姿が妙に心に残ってる』
『何も考えず地図の端を探索してたらさ、雪に覆われただだっ広いそこに、ぽつんと観測所らしきものがあったんだ。何かクエストがあるのかなと思って入ったら、ひとりの男が観測装置を覗いてるだけ。❝何を見てるんですか?❞って聞いたら、❝果てのその先を確認しているのです❞って言うだけ。何だったんだろうなあ、あれ』
『山を登ってて、休むために村に入ったら、そこにドラゴンが襲ってきた。襲撃型クエストかと思ったら救出型でさ。村人を避難させるのが成功条件だった。ドラゴンが文字通り火を吹き、周りのプレイヤーがすぐに反応した。腕に自信のあるプレイヤーがドラゴンを足止めして、村人を避難誘導する者、消火活動する者、綺麗にぱっと分かれてクエストに当たった。最後に山肌が崩れて山の形が変わってクエスト達成、村人に被害はなかった。次に行ったら村人は新しい地形を開拓してた。なんか、人間の逞しさを感じたよ』
ハルトが旅を始めて、リヴ世界を楽しみ始めて、1週間ほどが過ぎた。
巨大なモニュメント。石でできたそれは、どこか禍々しさを放つ。何を象っているのかわからない異形。
ズズズ、ズズズ、とそのモニュメントがわずかに動いた。石埃が舞う。
それを遠く、窓から見つめる老人がいた。
「そろそろかのう……間に合うのか……弱音を吐くくらいなら、か」
と、室内に置かれた作りかけの機械の製作を再開した。
封印都市ザグレス。
街の郊外にある巨大モニュメントは、強大な古き魔物が封印されて久しいと聞く。そして、そのモニュメントが動いているのでは?という報告があがったのだ。何かの兆しではないかと。
それを聞いたプレイヤー諸氏が、ザグレスの街に集まってきていた。
それはハルト=トレースも例外ではなかった。街を歩くトレースは、見たことのない工芸品の前で足を止めた。
「どうだい?それは11500ジェムだよ」
露店の店主が声をかけた。思ったより高いな、とハルトは思った。店主はそれを察して説明する。
「ザグレスの職人が手作業で1ヶ月かけた代物だ。値は張るが、良い物だよ」
トレースが並んだ商品を全て見比べると、そこから気に入ったデザインで少し手頃なひとつを選んだ。彫りの入った小さな木箱だった。
「毎度あり」
代金を支払って、手のひらの木箱を調べるように見ながら歩いていると、何かにぶつかった。
ザグレスの子どもだった。しばらくして、痛みを感じたのか子どもが泣き始めたので、トレースは子どもの頭をぽんぽんと撫でた。
そのとき、轟音が鳴り響いた。
郊外のモニュメントの表面が崩れ落ち、何かが剥き出しになった。
見上げるプレイヤーたちとザグレス住民は、そこに禍々しい魔力を感じ取る。
『封印が、解かれる?』
『噂は、憶測は本当だったか!』
『クエストの発生は!?』
そして、ザグレスにいるプレイヤーたちはクエスト通知を受け取った。
動的クエスト『大義のために』発生




