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第1部(2)

「そういえばさっきの冒険者は……晴れて気持ちのいい空だって言ってたわ」


 今日は、当たりだ!


 『さっきの冒険者』は、向こう側の誰かが自分の情報をなぞらえて言うパターン。ハルトはすぐさま手元のスマートデバイスのマクロ操作を起動し一括処理を行う。現在の世界各地の天気を参照し、今までのセラ姫の天気発言とも照合していく。11回目の試行。厳密に11回の天気に当てはまる都市は3つまで絞られた。もう少し大まかに丸めると候補は10都市。


「ストーリーを聞かせてよ」


 ハルトはその日が『当たり』だとわかったとき、決まってトレースにこう言わせる。


「そうね……ある街に神が降臨したという噂が流れた。神代は、ひとりの少女だった。少女は奇跡を行い、街中の人々を導き、街には幸福な時代が訪れた。❝わたしはおまえたちを愛そう。おまえたちは幸福の道を行く❞やがて少女の嘘がばれ、群衆が少女を問い詰めた。少女は答えた。❝わたしが本当に神さまだったら、人間なんて愛さない。本当の神さまには、人間なんて無関係なものでしかない❞群衆は静まり返った。街もまた静かに、息を引き取るように終わりを迎えた」


 ハルトはセラ姫の逸話を聞くのが好きだった。それからも、2人の会話は続く。


 自分は、動的生成の揺れに一喜一憂する馬鹿者かもしれない。陰謀論者と変わらないレベル。それでもハルトは、セラ姫の奥底に『魂』があると信じていた。


 壁打ち以上友達未満。そんな関係性がハルトを安心させた。つい口から本音がつく。


「僕は傷つきやすいっていうのかな……事故や災害で人は亡くなる。それを仕方ないと思いながら、人為の世界でゼロにならない帳尻合わせで人が死ぬのがわからないんだ。たとえば大国の侵略戦争を前に、怒りと悲しみをおぼえながらそれを眺めている。個人の過ごし方は、難しいよ」


 セラ姫が反応した。当事者であるかのような顔でセラ姫は口を開く。


「あれはわたしの間違いだった。でも大丈夫。もうすぐ終わるから」


「え?」


「王国とペイラの戦争はもうすぐ終わる。さっきの冒険者も、そう言っていた」


 セラ姫の表情。リヴ世界での成り行き。密度の高い情報に、ハルトはしばらく戸惑う。


 そのとき、リアルの時計が目に入った。


 夕食の時間を、過ぎてる!


 慌ててオートセーブに頼った強制ログアウトを行い、ハルトはダイニングへ向かう。


 ハルトの母が、テーブルに並んだ料理を見つめながら、ぼんやりと席に座っている。


「遅れてごめん!すぐ食べるから」


 ハルトも席につき、ささっと食べ始める。


 ハルトの母は作り笑顔をして、何でもないという顔をした。






 それから数日が過ぎた。


 セラ姫との会話は『外れ』が続き、ハルトは自宅=エルドルインと大学の往復を繰り返した。


 そうしてある朝にハルトは朝食を食べながらスマートデバイスを走らせる。いつもの癖で、NEW:Liveの最新情報をまとめたニュースサイトを見ていた。


『エルドルインとペイラの戦争終結。有名ギルドが大型クエストを達成』


 見出しのひとつを読み、セラ姫の予見が正しかったことを知る。


『続いてのニュースです』


 誰のためでもなく点いていたテレビの読み上げが、ハルトの注意を段々とひいていく。


『ローナ連邦が2年前にハーネアを侵攻したことで起こった戦争が、終結しました。ローナ大統領は、❝わたしは間違いを犯した。間違いは、正されなければならない❞と声明を発表し、退陣を決めました』






 大学の講堂。


 講義が始まるはずもない朝早くに、ハルトはその一席に座っている。


 そこへ、「よっす」と文字にはできない挨拶音を発してケイが隣りに腰かける。


「ずいぶん早いな」神妙な顔でケイは言った。「いやわかってるよ。本日のトップニュースだろ。おまえは、あの戦争を気にかけてたもんな」


 ハルトは答えない。


「おまえのそういう、世界の悲しみの全てを引き受けて考えてますってところ、俺は好きだよ。でもそんなことしてても日が暮れちまうだけだ」


 ようやく、ハルトが答えた。


「ケイ……おまえのほうが正しいさ。知ってる。わかってるんだ」


「いや、おまえはわかってない。というより、認めていない。国家の戦争がなくなっても、戦争もどきで人は死ぬんだ。おまえはそれを子どもみたいに拒み続けている。世界は人間には管理できない。現実世界は法則なんて持たない歪なものだ」


 無反応のハルトを見て、ケイは念を押すように言う。


「人は神にはなれないさ」


 それに、ハルトはぼそりと呟く。


「でも人類はリヴを作り出した」


 動的生成を幾度繰り返そうと破綻しない仮想世界。メンテナンスなどで中断されたという例も存在しない。延々と、綿々と続く世界。


 いつまでも正面を向かないハルトに、ケイは髪を掻きむしって言葉をぶつけた。


「いい加減に現実を見ろよ!――違う、もっともっと自分の人生を思ってくれ。ハルト、おまえの未来を。俺たちの歳はもう子どもとは言えない。学びは研究へと切り替わり、成果を問われる」


 そしてケイは、喧嘩したいわけじゃないというように首を横に振って、行こうとした。その背中にハルトは声をかける。


「ありがとな。おまえのそういう、最終的に人間を、友達を見捨てられないところ、俺も好きだよ」






 そしてハルトは、自宅に、自分の部屋に、エルドルインに帰っていった。


 そこでセラ姫にこんなことを言われる。


「あなたは旅をしなさい。執着にこだわることなく、この世界を楽しみ、見届けるのよ」

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