第1部(14)
リヴの公式サイトで動画が公開された。
『ピーカブー見つかる!』
そう題されたリヴのログ映像で、❝ピーカブーくじ❞の当選者へのインタビュー動画だった。
真ん中に男のプレイヤーアバター。そのそばには見つかった妖精ピーカブーのちんまりとした姿が映っている。
質問者の字幕と音声から、インタビューが始まる。
――おめでとうございます。ピーカブーを見つけたとき、それはどんな瞬間でしたか?
『はい!宝箱を開けたら、馴染みある❝ピーカブー!❞の声がして、そこに妖精がいました。いつもならがっかりするところを特別な昂揚感がありました。それからは宝くじに当たったような気分で。一生分の運を使い切ったかなあって』
――あなたのことを教えてください。自己紹介をどうぞ。
『はい。プレイヤー名はフェリクス。普段はLGNの末端ギルド❝ローグライト❞で活動してます。やったぞ!みんな!』
――あなたのおかげでシークエンス❝ピーカブーは知らない!❞が成功しました。
『そんなそんな!謙遜とかじゃなくプレイヤーのみんなで宝箱探し――いや宝箱漁りか――を頑張った結果、その最後の部分を幸運にも僕が達成した、それだけですよ』
――みんなの成功、みんなの勝利、ということですか?
『もちろん!宝箱を開ける工程の効率化を教えてくれたのはLGNですし、他のプレイヤーコミュニティにも助けられました。何より、こんな面白いお祭りをエクシヴが仕掛けてくれたこと、全てに感謝しています』
――はい。それでは最後に一言、何かありますか?
『最後はこの一言しかありません。皆さんもご一緒に!』
発見者のフェリクスが妖精をつつく。妖精は面倒くさそうにそれに気づいて、口を大きく開けた。
くしゃみをするように、その言葉はこぼれてくる。
『ピーカブー!』
シークエンス5日目。
古き都テイアンの真実を映す鏡がある広場。
そこにフラニとローダーの2人の姿。
「ピーカブー見つかったな」
フラニが、引き受けた子守で預かった6人の子どもの面倒をみながら言った。
「このお祭りで新規プレイヤーもたくさん入ってきてたし。エクシヴの目論見通りの熱狂だぞ」
ローダーが、自前の高性能計算機をはじき、紙の帳簿に数字を書き込みながら答えた。
そこへ、深々とお礼をする住民に見送られるトレースがやってきて、どすんと座り込んだ。
「はあ〜」
トレースが大きく息を吐く。
「おつかれ」
フラニが声をかける。
「ちょうど3人そろったぞ。軽く会議をしておこう」
ローダーが言って、下を向くトレースが顔を上げた。
「頑張って時間あるときはリヴにログインしてボランティアしてるけど、記憶の欠片の輝きはどう?喜んでる?」
トレースの問いにローダーが答える。
「まあまあ光は強くなってるぞ。結晶化はまだだけど」
「道半ばか……」とフラニ。「言うてプレイヤー全体も成功させたシークエンスはピーカブーくじだけだろ?運任せのものだけ。LGNも大したことないな」
ふふんとフラニは笑う。トレースが言う。
「戦闘はどうなってるの?瞳の速報値は?」
「今62%」
ローダーが答えた。
「間に合わなそう〜。LGNがどうこうじゃなくて、シークエンスの要求の設定が高すぎるんだ」
フラニが言って、じれったそうに続ける。
「鏡はハズレで失敗するらしいし……花のほうは?」
「まだ結論が出てない。現在の得票1位は❝リアリティブルー❞。でも単にそれらしいから一番人気なだけだぞ」
ローダーが言った。
それからトレースはすっと立ち上がって、行こうとする。
「よし!ボランティアに出る!またね!」
「おう。頑張ろうぜ〜」
フラニがトレースの背中に言って会議はお開き。
その後もテイアンの街を中心にボランティア作戦は続いた。
シークエンス6日目。
テイアンの街を忙しそうに走り回る3人。時には他の町や村も回って、人助けに励む。
記憶の欠片の光は増していたが、変化があったのは、何も記憶の欠片の輝きだけではない。
「おうあんちゃん!今日も頑張ってるな!」
「フラニ姉ちゃん!遊んでー!」
「なんだかあなたたちのおかげで街が明るくなったわ」
NPCの住民たちが、3人の働きを認め始めたのである。
噂は広まり、いろんな住民が3人に話を持ってくるようになった。
それをさばきながら、3人は奔走する。
変化は起こした。あとは結果を出すだけだ。
3人が、小休止を兼ねて鏡の広場に集まっていた。
そして、フラニが驚きの声を上げる。
「なに!?黄金の瞳のシークエンスが成功した!?」
情報を調べたローダーが、汎用機械の画面を見つめながら「間違いない」とうなずく。
「この前無理そうだって話してたじゃないか!それが急にどうして!?」
フラニが問い質す。
ローダーは、簡潔に答えた。
「❝全人未届❞が動いた」
フラニの驚きは増す。
「ゼンジンミトー!?それってLGNの頂点ギルド!」
「評価スコアぶっちぎりの、ギルドランキング不動の第1位。名実ともに攻略勢最強ギルドだぞ」
ローダーは説明しながら、汎用機械の画面にログ映像を流す。
汎用機械の画面には、黄金の瞳の戦場で全人未届が指揮をとって魔物と戦う場面が流れている。
「その最強の8人が全員集まってこのシークエンスに当たった。全人未届がそろうのは実に1年ぶりのことらしいぞ」
「は?その8人が集まったからってなんだ!?それがシークエンスの成功につながる?1日以上が残ってるんだぞ!」
フラニの言葉に、ローダーは答えないでログ映像を見た。
そこに答えが、証拠があった。
次々となぎ倒されていく魔物の群れ。プレイヤー陣が戦況を圧倒し、魔物を押し返していく様が、まざまざと記録されていた。
フラニは黙った。
黄金の瞳はシークエンス完了。その2つ目が成功した。
夕暮れのテイアンの街。
鏡の広場に3人はいた。
フラニは道行く人を引き留めては靴磨きを。ローダーは本物のそろばんをはじき計算を。トレースは次の依頼の手紙を読んでいる。
「ご自慢の高性能計算機はどうした?」
フラニがいじわるそうにローダーに聞いた。
「こっちのほうが早いことがわかったぞ。おいらの体験が出した統計データがそう言うなら従うぞ」
ローダーが答えて、またそろばんをはじく。
「よし!依頼内容を理解!行ってくる!」
手紙を読み終えたトレースが言った。
「まあもうちょっと休んでけよ」とフラニ。「次の方どうぞ!大丈夫お金は取りません!」
しゃかしゃかとそれぞれが忙しなく動きながらも、トレースがフラニの勧めに従い腰かけた。
リヴ世界も日が沈み、進んでいく時間は期限が迫ってきていることを教える。
そのとき、子どもが派手に転んだ。
大きな声で泣き出す子ども。いつかに見たような光景。
泣き出した子どもに、少女が駆け寄る。
「大丈夫!飴ちゃんあげる!」
と、少女は飴を差し出して子どもをなだめ始めた。
それを見て、トレースは、3人は心が温かくなった。
あのときフラニが助けた少女だ。助けた人が、また次の人を助ける。そうやって世界が回れば、きっと……
その思いは、皇帝も同じだったようだ。
記憶の欠片が光り輝き、3人が声を上げる。ローダーの解析が、結晶化を確認した。
「かっこよく言えば、思いは巡る!」
フラニが言った。
「かっこ悪く言えば、なんかうまいこといったぞ!」
ローダーが続いて言った。
「最後のチャンスだ。フラニ、ローダー。いくよ!」
トレースが言って2人を誘い、3人は記憶の欠片に触れた。
皇帝のプライベートルーム。
老いた皇帝が、ベッドに横たわっている。
周囲に世話役の者が数人。
静かで、穏やかな空間だった。
「何もかもが……懐かしいな……ごほっ」
皇帝が咳き込む。世話役が反応する。
「近づくな!わたしはまだ、自分の世話ができる」
皇帝は誰も近づけさせない。秘密を墓場まで持っていくつもりだ。
「だがわたしもここまでか……ふふ。思い出すのは、おまえの嘘ばかりだ……」
皇帝が眠るように目をつむる。
「ひとつの願い……叶えてほしかった……」
「皇帝の最後の言葉!」
トレースが声を上げた。
「皇帝伝説の終わり。誇り高き皇帝!」
フラニも言った。
「ダメだ……名前、見つけられなかった……」
ローダーが残念がって言った。
作戦の終了。誰もがそれを予感した。
「待って!映像が続いてる!」
トレースが気づいた。記憶の欠片は、まだ何かを伝えようとしている。
「なあ……アルフォンソ……」
最後の力で皇帝が目を開け、空を見た。
「わたしをソフィーと……もう一度そう呼んでくれ……」
皇帝は、ソフィーは目を閉じて、安らかな眠りについた。
誰も何も言わなかった。
冒険の終わりにたどり着いた名前を、3人が心の中で反芻する。
「ソフィー……」
最後に確認するように、フラニが呟いた。
「……見つかったね」
トレースも発見の奥にある確かなものを感じながら言った。
「おいらはやることができた!すぐ落ちるぞ!」
ローダーはどこどこと駆けてセーブポイントへと急ぐ。
「行っちまった……じゃあ俺らも」
「うん。すぐ僕が❝ソフィー❞って項目を作る」
「だな。早いほうがいい」
「だけど……今から票をもらっても……いやまずは行動だ」
トレースとフラニも別れた。




