第65話「光の中の別れ」
終業式の朝。
教室のざわめきは、
いつもより明るくて、
いつもより遠かった。
陽斗には、
その全部が“自分とは関係のない世界”みたいに聞こえた。
(今日で……
白石さんが……
本当にいなくなる……)
透子は席に座り、
静かに眼を閉じていた。
その仕草はいつも通りなのに、
どこか“終わり”の匂いがした。
体育館での終業式。
校長の声が反響し、
生徒指導の注意が続き、
夏休みの生活目標が読み上げられる。
透子は前を向いたまま、
微動だにしなかった。
陽斗は横顔を見つめながら思った。
(白石さん……
昨日、あんなことがあったのに……
こんなに静かで……
こんなに綺麗で……
なんで……
いなくなるんだよ……)
胸が痛んだ。
HRが終わり、
通知表が配られ、
担任が言った。
「白石さん、今日で転校だな。
みんな、拍手」
教室に拍手が広がる。
透子は立ち上がり、
淡々と頭を下げた。
「……ありがとうございました」
その声は、
ほんの少しだけ震えていた。
陽斗は気づいた。
(白石さん……
泣くのを……
こらえてる……)
胸が締めつけられた。
──昇降口。
靴箱の前で、
透子はふと立ち止まった。
陽斗は思わず呼んだ。
「白石さん……!」
透子は振り返った。
その目は、
夏の光を受けて揺れていた。
陽斗は息を呑んだ。
(白石さん……
本当に……
いなくなるんだ……)
透子は小さく笑った。
「相沢くん。
昨日のこと……
本当にありがとう」
陽斗は言葉が出なかった。
透子は続けた。
「あなたがいたから、
私は“影”と向き合えたのよ。
ひとりじゃ……
きっと無理だった」
陽斗の胸が熱くなった。
「白石さん……
僕……
もっと……
白石さんと……
一緒にいたかった……」
言った瞬間、
胸の奥が震えた。
透子は目を伏せた。
「……私もよ」
その一言は、
陽斗の世界を一瞬で変えた。
透子は続けた。
「相沢くん。
あなたと事件を解けて……
本当に楽しかった。
私……
こんなふうに誰かと並んで歩くなんて……
思ってなかったの」
陽斗は言った。
「白石さん……
僕……
絶対に会いに行く。
絶対に……!」
透子は顔を上げた。
その目は、
涙をこらえながらも、
まっすぐ陽斗を見ていた。
「……待ってるわ。
本当に」
陽斗は息を呑んだ。
(白石さん……
本気で……
言ってる……)
透子は靴を履き替え、
昇降口の外へ歩き出した。
夏の光が差し込み、
透子の影が長く伸びた。
陽斗はその背中を見つめながら、
胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
(白石さん……
行かないで……
って言いたい……
でも……
言えない……
言っちゃいけない……)
透子は振り返らなかった。
でも──
昇降口の外で、
ほんの一瞬だけ立ち止まった。
陽斗は息を呑んだ。
(振り返る……?
白石さん……
振り返る……?)
しかし透子は、
ゆっくりと前を向いたまま歩き出した。
陽斗の胸が痛んだ。
(白石さん……
さよならじゃないよ……
絶対に……
また会うから……)
夏の光の中、
透子の影はゆっくりと遠ざかっていった。




