第63話「理科室への招待」
終業式まで、あと二日。
朝の教室は、
昨日よりも落ち着いていた。
ざわつきはある。
でもそれは、
“犯人探し”の熱が一度冷めたような、
そんな空気だった。
(……三田村の名前が出たことで、
みんな少し満足したのか……
でも……
本当の犯人は……
あんなに堂々としてない……)
陽斗は席に座りながら、
昨日の透子の言葉を思い返していた。
──“怪しすぎるのよ”
──“私の影が動いてるのよ”
(白石さん……
本当に気づいてる……
何かに……)
透子はいつも通り、
静かに席に座っていた。
でも、
昨日より少しだけ
“周囲を見ている”ように見えた。
──二時間目の休み時間。
黒板の端に、
新しい紙が貼られていた。
《観察⑥》
《対象:白石透子》
《仮説:白石透子は“影”を認識した》
《結論:白石透子は“動く準備”をしている》
陽斗は息を呑んだ。
(……動く準備……
そんなこと……
白石さんは……
言ってない……
でも……
犯人は……
そう“見てる”……)
クラスの反応は軽かった。
「また出てる」
「もう飽きてきたな」
「三田村じゃないなら誰だよ」
疑いは広がらない。
むしろ、
“事件疲れ”の空気が漂っていた。
透子は紙を見つめ、
静かに言った。
「……雑ね」
陽斗は驚いた。
「雑……?」
「ええ。
“動く準備”なんて、
私の行動を知らない人の言葉よ」
陽斗は胸がざわついた。
(白石さん……
本当に……
犯人の“理解の浅さ”を見抜いてる……)
──昼休み。
透子は弁当を食べながら言った。
「相沢くん。
この事件……
“観察”から“介入”に変わるわ」
陽斗は息を呑んだ。
「介入……?」
「ええ。
そろそろ“直接的な行動”が来るはずよ」
陽斗は胸がざわついた。
(直接的な行動……
それって……
呼び出しとか……
そういう……)
透子は続けた。
「今日、何か起きるわ」
陽斗はうなずいた。
「……一緒に見に行こう」
透子は小さく笑った。
「ええ。
もちろん」
──放課後。
昇降口に、
新しい紙が貼られていた。
昨日までの紙とは違う。
文字の密度が高く、
図も細かく、
“本気”の気配があった。
《白石透子へ》
《“観察”は終わり》
《次は“対話”の段階に入る》
《明日 放課後 理科室》
《あなたの“影”より》
陽斗は息を呑んだ。
(……来た……
呼び出し……
理科室……
明日……
放課後……)
透子は紙を見つめ、
静かに言った。
「……相沢くん。
明日、行くわよ」
陽斗はうなずいた。
「うん。
一緒に行く」
透子は紙から目を離し、
夕陽の方を向いた。
「“影”は……
明日、姿を見せるわ」
陽斗は拳を握った。
(白石さん……
僕が……
一緒に解くから……)
夕暮れの昇降口で、
二人の影が並んだ。
──“観察”は終わった。
次は“対話”。
影が、
理科室で待っている。




