表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しの悪魔は迷探偵  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/66

第56話「夏の光と、言えなかった言葉」

 六月。

 湿った風が校舎を抜け、制服は衣更えを迎えた。


 ブレザーが消えただけで、

 教室の空気は一気に軽くなる。


 男子はワイシャツ一枚。

 女子は夏服のブラウス姿。


 ──そして、男子の妄想は爆発した。


 「やばい、夏服ってこんな破壊力あったっけ」

 「白石さんの夏服、なんか……すごい」

 「語彙力死んでるぞ」

 「いや、あれはもう……なんか……」

 「お前ら落ち着け、理性を保て」

 「無理だ、夏は男子の敵だ」


 陽斗も例外ではなかった。


 (白石さん……

  夏服だと……

  なんか……

  可愛い…

  いや、落ち着け僕……

  落ち着け……

  でも……

  ドキドキする…)


 クラス全体が、

 夏休みを待ち焦がれていた。


 ──そのときだった。


 「えー……残念だが連絡があります」


 担任の佐伯先生が、

 いつになく真面目な声で言った。


 「白石は……

  一学期の終了をもって、

  転校することになりました」


 教室が凍りついた。


 「……え?」

 「転校……?」

 「マジで……?」


 陽斗の頭は真っ白になった。


 (……終わる……

  夏休みが来たら……

  白石さんと過ごす日々が……

  全部……

  終わる……)


 透子は、

 いつもと変わらない表情で座っていた。

 淡々と、受け入れているように見えた。


 (なんで……

  なんでそんな顔できるんだよ……

  僕は……

  全然……

  受け入れられないのに……)


 


 ──放課後。


 陽斗は居ても立ってもいられず、

 透子の家へ向かった。


 インターホンを押す手が震えていた。


 「……相沢くん?」


 ドアを開けた透子は、

 いつも通りの落ち着いた顔だった。


 「入って。

  どうせ来ると思ってたわ」


 その言葉が、

 陽斗の胸をさらに締めつけた。


 透子の部屋は整然としていて、

 余計なものが何もなかった。

 その静けさが、

 陽斗の焦りを際立たせた。


 「転校……本当なの……?」


 透子は頷いた。


 「うん。

  夏には神戸に行く。

  お父さんの仕事」


 陽斗は言葉を失った。


 (本当に……

  いなくなるんだ……

  白石さんが……

  僕の隣から……)


 透子は、

 少しだけ目を伏せて言った。


 「そんな顔しないで。

  相沢くんが泣きそうだと……

  私まで不安になる」


 陽斗は、

 胸の奥から何かが溢れそうになった。


 (言わなきゃ……

  言わなきゃ……

  このままじゃ……

  後悔する……)


 「白石さん……

  僕……

  ずっと──」


 その瞬間、

 透子が陽斗の言葉を遮った。


 「相沢くん。

  その言葉は……

  今は聞けない」


 陽斗は息を呑んだ。


 「……どうして……?」


 透子は、

 初めて“迷い”のある目をした。


 そして──

 静かに語り始めた。


 「私ね……

  弟がいたの」


 陽斗は驚いた。


 「弟……?」


 透子は、

 ゆっくりと、

 まるで傷口をそっと開くように話した。


 「小二のとき、

  弟が交通事故で亡くなったの。

  母は自分を責めて……

  父は母を責めて……

  みんな壊れちゃったの」


 透子の声は淡々としていたが、

 その奥に沈んだ痛みがあった。


 「母は耐えられなくて家を出た。

  父は……

  母を責めたことを後悔して

  仕事だけしか考えないようになった。

  私は……

  ずっと一人だった」


 陽斗は胸が痛くなった。


 透子は続けた。


 「相沢くんは……

  弟に似てるの。

  だから、かまいたくなる。

  放っておけない。

  好きだよ。

  でも──

  それが“恋”か“弟のいない寂しさ”かどうかは……

  正直、分からない」


 陽斗の胸が締めつけられた。


 (……好き……

  でも……

  恋かどうか分からない……

  そんな……

  そんな答え……

  どう受け止めれば……)


 透子は続けた。


 「夏には神戸に行く。

  しばらく離れる。

  でも──

  時間が経って、

  それでも相沢くんのことが好きだって思ったら……

  私は戻る。

  相沢くんも……

  会いに来て」


 そのとき、

 透子の目から涙がこぼれた。


 「……ごめんね。

  こんな言い方しかできなくて……

  でも……

  嘘は言いたくないの……」


 陽斗は胸が熱くなった。


 (白石さん……

  泣いてる……

  僕の前で……

  初めて……)


 陽斗は震える声で言った。


 「……僕、待つよ。

  どれだけ時間かかっても……

  白石さんが……

  僕のこと……

  好きだって思える日が来るなら……

  僕は……

  ずっと待つ。

  それに──

  絶対、会いに行く。

  神戸でもどこでも……

  絶対に行くから」


 透子は涙を拭き、

 小さく笑った。


 「……うん。

  待ってる」


 夕暮れの光が差し込む部屋で、

 二人の影が静かに重なった。


 ──夏が来れば、

  透子はいなくなる。


 でも、

 その先に続く“未来”を

 二人は確かに見つめていた。


 離れても、

 時間が経っても、

 それでも想いが残るなら──


 必ず、また会える。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ