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推しの悪魔は迷探偵  作者: 双鶴


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第54話「青の理由、池田の本音」

 放課後の理科室は、

 昼間の喧騒が嘘のように静かだった。


 窓から差し込む夕陽が、

 机の上の試験管を淡く照らしている。


 透子はその青色を見つめ、

 静かに言った。


 「相沢くん。

  池田くんを呼んできて」


 陽斗はうなずき、

 廊下へ走った。


 (池田……

  木下さんの小学校の同級生……

  “青”というあだ名を知っている唯一の人……

  でも……

  あいつ、そんなことするタイプか……?)


 


 ──数分後。


 池田は理科室に入ってきた。

 いつもの明るさはなく、

 どこか落ち着かない様子だった。


 「白石さん、話って……」


 透子は試験管を指差した。


 「池田くん。

  これ、あなたがやったわね」


 池田は一瞬固まった。


 「……は?」


 透子は淡々と続けた。


 「木下さんの試験管“だけ”が青くなった。

  青くなる物質は限られている。

  そして──

  木下さんの“青”というあだ名を知っているのは

  このクラスであなた一人」


 池田の喉が動いた。


 「……違うよ。

  俺、そんなつもりじゃ……」


 透子は池田の目を見た。


 「じゃあ、どういうつもり?」


 池田は視線を落とし、

 しばらく黙っていた。


 陽斗は息を呑んだ。


 (池田……

  何を言うんだ……)


 やがて池田は、

 ぽつりとつぶやいた。


 「……木下が、

  俺のこと避けるからだよ」


 「え……?」


 池田は苦笑した。


 「小学校のとき……

  俺、木下にひどいあだ名つけて……

  ずっと謝れなかった。

  中学に入って、

  同じクラスになって……

  謝ろうと思ったのに……

  木下、俺のこと避けるんだよ」


 陽斗は胸が痛くなった。


 (避けてた……

  木下さん……

  あだ名のせいで……

  池田を……)


 池田は続けた。


 「だから……

  話すきっかけが欲しくて……

  ちょっと驚かせれば……

  俺のこと見てくれるかなって……

  バカだよな……

  こんなやり方……」


 透子は静かに言った。


 「池田くん。

  あなたのやり方は間違ってる。

  でも──

  “謝りたい”という気持ちは本物ね」


 池田は俯いたまま、

 小さくうなずいた。


 「……うん」


 透子は試験管を机に置いた。


 「この青色は、

  “銅イオン”の色よ。

  理科準備室にある薬品を

  ほんの少し混ぜれば、

  透明な液体は青くなる」


 池田は驚いた。


 「……そんな簡単に……?」


 「ええ。

  だからこそ、

  あなたの行動はすぐに分かったわ」


 池田は肩を落とした。


 「……ごめん。

  本当に……

  木下に謝りたかっただけなんだ」


 陽斗は言った。


 「池田……

  謝ればいいよ。

  ちゃんと、言葉で」


 池田はうなずき、

 理科室を出ていった。


 


 ──その後。


 木下と池田は廊下で話していた。

 木下は泣きながら、

 池田は何度も頭を下げていた。


 陽斗はその様子を見て、

 胸がじんわりと温かくなった。


 (……よかった……

  ちゃんと……

  伝わったんだ……)


 透子は隣で腕を組み、

 静かに言った。


 「相沢くん。

  人の心は、

  化学反応よりずっと複雑よ」


 陽斗は笑った。


 「……白石さんが言うと、

  なんか説得力あるね」


 透子は陽斗をちらりと見た。


 「あなたの心も、

  複雑そうだもの」


 陽斗は真っ赤になった。


 (な、なんで……

  なんでそういうこと言うんだよ……

  白石さん……

  転校するかもしれないのに……

  そんなこと言われたら……

  期待しちゃう……)


 透子は歩き出しながら言った。


 「相沢くん。

  事件は終わったわ。

  でも──

  “噂”はまだ終わってない」


 陽斗は息を呑んだ。


 (……転校の噂……

  白石さん……

  どうなるんだ……)


 夕陽の廊下で、

 二人の影が長く伸びていた。


 ──試験管の“青い謎”は解けた。

  しかし、

  陽斗の胸の“青い不安”は

  まだ消えなかった。


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