第53話「青い試験管と、木下の秘密」
翌日の一年三組は、
昨日の“青く染まった試験管”の話題で持ちきりだった。
「木下の試験管だけ色変わったんだろ?」
「なんで木下だけ?」
「理科室の怪奇現象じゃね?」
「いや、白石さんが動いたってことは事件だろ」
陽斗は席に座りながら、
クラスのざわつきを聞いていた。
(……木下さんだけ……
白石さんは“狙われた”って言ってたけど……
誰が……
なんのために……)
透子はいつも通り静かに席に座り、
ノートを開いていた。
しかしその目は、
教室の空気を“観察”しているようだった。
──昼休み。
透子は木下の机の前に立った。
「木下さん。
昨日のこと、少し聞かせて」
木下は驚いた顔をしたが、
すぐにうなずいた。
「……うん。
私も、よく分かってないんだけど……」
透子は椅子を引き、
木下の正面に座った。
陽斗も隣に座る。
木下は試験管を見つめるように、
ゆっくり話し始めた。
「昨日の実験、
私、特に何もしてないの。
試薬も入れてないし……
ただ置いてただけで……
気づいたら青くなってた」
「その前に、何か触った?」
「触ってない。
ていうか……
私、実験苦手だから……
あんまり触りたくなくて……」
透子は小さくうなずいた。
「じゃあ、
“あなた以外の誰か”が触った可能性が高いわね」
木下は不安そうに言った。
「……誰かが、私にイタズラしたってこと?」
透子は首を横に振った。
「イタズラにしては、
“青”が意味深すぎるわ」
「意味深……?」
透子は淡々と説明した。
「青くなる試薬は限られている。
その中でも、
“空気中の二酸化炭素”や“湿度”では
ここまで鮮やかにはならない」
陽斗は息を呑んだ。
(じゃあ……
誰かが……
“青くなる物質”を入れた……?)
透子は続けた。
「木下さん。
あなた……
最近、誰かに何か言われた?」
木下は一瞬、
言葉を飲み込んだように見えた。
「……え?」
透子「“青”は、
あなたにとって何か意味がある色じゃない?」
木下は俯いた。
「……あるよ」
陽斗は驚いた。
(あるの……?
青に……?)
木下は小さくつぶやいた。
「……小学校のとき、
私、ずっと“青”って呼ばれてたの」
陽斗「え……?」
木下は苦笑した。
「私、昔すごく青白くて……
運動もできなくて……
顔色悪いって言われて……
男子に“青”ってあだ名つけられて……
ずっと嫌だった」
陽斗は胸が痛くなった。
(そんな……
そんな理由で……
あだ名……
ひどい……)
透子は静かに言った。
「じゃあ、
“青くなる試験管”は──
あなたに向けた“嫌がらせ”の可能性が高いわ」
木下は震えた。
「……そんな……
誰が……?」
透子は木下の目を見て言った。
「木下さん。
あなたの小学校の同級生、
このクラスにいる?」
木下は息を呑んだ。
「……いるよ。
ひとりだけ」
陽斗の背筋が冷たくなった。
(ひとり……
その人が……
犯人……?)
透子は静かに言った。
「名前を教えて」
木下は震える声で言った。
「……池田くん」
陽斗は驚いた。
(池田…
あの池田…?
クラスで明るくて、
誰とでも話す……
あの池田…?)
透子は立ち上がった。
「相沢くん。
放課後、池田くんに話を聞くわ」
陽斗はうなずいた。
(池田…
あいつが……
木下さんに……?
でも……
なんで……?)
透子は言った。
「この事件……
“青”が鍵よ。
木下さんの過去を知っている人間──
それが犯人」
陽斗はごくりと喉を鳴らした。
(……木下さんの過去……
“青”というあだ名……
それを知っているのは……
池田だけ……)
透子は試験管を光に透かし、
小さくつぶやいた。
「相沢くん。
明日、真相に踏み込むわよ」
陽斗は胸が跳ねた。
(白石さん……
転校の噂があっても……
事件のときだけは……
僕の隣にいる)
──試験管の“青い謎”は、
ついに核心へと近づいた。




