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推しの悪魔は迷探偵  作者: 双鶴


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第51話「転校の噂と、言えない

 ──職員室。


 昼休みのざわつきの中、 廊下を歩いていた陽斗を

 佐伯先生がコーヒーを片手に呼んだ。


 「相沢。ちょっといいか」


 陽斗は緊張しながら近づく。


 佐伯先生は苦笑しながら言った。


 「噂で持ちきりだなぁ。

  また振られたんだって?」


 「違いますって。友人ですから」


 佐伯先生は肩をすくめた。


 「白石は大人っぽいからなぁ。

  半年前までランドセル背負ってたのが

  信じられないもんなぁ。

  思春期少年たちはイチコロだな」


 陽斗は真っ赤になった。


 (……先生……

  職員室でそんなこと言わないで……

  誰か聞いてたら……

  死ぬ……)


 佐伯先生は真顔に戻り、

 少し声を落とした。


 「転校の噂、聞いたか?」


 陽斗は息を呑んだ。


 「……はい」


 「まだ決まってはいないが、

  父親の仕事なら可能性はある。

  白石も……

  色々考えてるだろうな」


 陽斗の胸がぎゅっと締めつけられた。


 (……白石さん……

  考えてる……

  でも僕には……

  何も言わない……)


 佐伯先生は続けた。


 「相沢。

  お前は白石の近くにいるんだ。

  支えてやれよ」


 陽斗は小さくうなずいた。


 「……はい」


 


 ──教室。


 転校の噂は、

 すでにクラス全体を飲み込んでいた。


 「白石さん、転校するって本当?」

 「お父さんの仕事らしいよ」

 「やだ……寂しい……」


 女子は不安そうに、

 男子は焦りと絶望の混ざった顔で騒いでいた。


 そして──

 男子たちは暴走した。


 「白石さん! ちょっといい!?」

 「ええ、何かしら」


 「俺……ずっと……その……好きで……!」

 「ごめんなさい」

 「うわああああ!!」


 その声に釣られて、

 別の男子が勢いよく立ち上がる。


 「白石さん! 俺も!!」

 「無理よ」

 「まだ何も言ってないのに!?」

 「言わなくても分かるわ」


 教室がどよめく。


 「白石さん、強すぎる……」

 「今日だけで何人目?」

 「相沢の呪いだ……」

 「いや、白石さんの基準が高いだけだろ」


 陽斗は机に突っ伏した。


 (……なんで僕の名前が出るんだよ……

  僕は何もしてない……

  ただ……

  白石さんが……

  転校するかもしれないって……

  それだけで……

  頭がいっぱいで……)


 透子はというと、告白男子たちを蹴散らした後は

 淡々とプリントを整理していた。


 「まったく……騒がしいわね」


 その冷静さが、

 さらに男子たちを絶望させた。


 


 放課後。

 陽斗は意を決して透子に声をかけた。


 「白石さん……

  少し、いい……?」


 透子は振り返り、

 陽斗の表情を見て、

 ほんの一瞬だけ目を細めた。


 「……いいわ。

  歩きながらで」


 二人は廊下を歩く。

 夕方の光が長い影を作っていた。


 陽斗は言葉を選びながら、

 それでも抑えきれずに聞いた。


 「……転校のこと……

  本当なの……?」


 透子はすぐには答えなかった。

 数歩歩いてから、

 静かに口を開いた。


 「“本当かどうか”じゃなくて、

  “可能性がある”というだけよ」


 「……可能性……」


 透子は続けた。


 「父の仕事は急に変わるの。

  だから……

  私にも分からないのよ。

  決まっていないことを

  “ある”とも“ない”とも言えないわ」


 陽斗は胸が痛くなった。


 (……そうだよな……

  白石さんだって……

  不安なんだ……

  でも……

  僕は……

  どうすれば……)


 透子は立ち止まり、

 陽斗の方を向いた。


 「相沢くん。

  あなたが心配してくれるのは……

  嫌じゃないわ」


 陽斗は息を呑んだ。


 (……嫌じゃない……

  それって……

  どういう……)


 透子は続けた。


 「でもね。

  “いなくなるかもしれない”って理由で

  私を見るのは……

  少し違うと思うの」


 陽斗はハッとした。


 (……僕……

  そう見てた……?

  白石さんがいなくなるかもしれないから

  焦って……

  不安で……

  それで……)


 透子は歩き出した。


 「私はここにいるわ。

  今はね。

  だから……

  “今の私”を見てほしいの」


 陽斗は胸が熱くなった。


 (……白石さん……

  僕……ちゃんと見たい……

  白石さんのこと……

  そして、今の白石さんを……)


 透子は振り返らずに言った。


 「じゃあ、また明日」


 陽斗は立ち尽くした。


 (……転校の噂は怖い

  でも……

  白石さんの言葉の方が

  もっと……

  胸に刺さる……)


 夕暮れの廊下で、

 陽斗はひとり、

 深く息を吸った。


 ──噂は消えない。

  でも、

  透子の言葉が

  陽斗の心に小さな灯りをともした。


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