第49話「もう1人の自分の正体」
翌日の昼休み。
一年三組の空気は、昨日よりもさらに重かった。
「三浦、大丈夫か?」
「昨日、また階段通れなかったんだろ?」
「“もう1人の自分”ってマジで怖いよな……」
三浦は怯えたまま、
女子たちに囲まれていた。
陽斗は胸がざわついた。
(……今日で終わらせないと
三浦さん……
ずっと怖いままだ……)
透子は教室の後ろで腕を組み、
静かに言った。
「相沢くん。
掃除当番の名簿、見に行くわよ」
陽斗はうなずいた。
(ついに……
犯人が分かる……)
──廊下の掲示板。
透子は“階段掃除当番”の欄を指さした。
「ここ。
昨日の当番は──」
陽斗は目を見開いた。
「……佐野さん……?」
三浦の一番仲の良い友達。
昨日、三浦の“笑い方”を詳しく説明してくれた女子。
透子は静かに言った。
「三浦さんの笑顔を知っていて、
階段の構造も知っている。
条件にぴったりね」
陽斗は喉が乾いた。
(でも……
なんで……
友達なのに……?)
透子は歩き出した。
「行くわよ。
佐野さんに話を聞く」
陽斗は慌ててついていった。
──中庭。
佐野はベンチに座り、
スマホをいじっていた。
透子はまっすぐ近づき、
淡々と言った。
「佐野さん。
あなたが“もう1人の三浦さん”を演じたのね」
佐野はスマホを落とした。
「……は?」
透子は続けた。
「階段のガラスの隙間に立って、
三浦さんの笑顔を模倣した。
昨日の掃除当番はあなた。
階段の構造も知っている」
佐野の顔が青ざめた。
「ち、違う……
私は……
そんなつもりじゃ……」
陽斗は息を呑んだ。
(やっぱり……
佐野さん……
でも……
なんで……?)
透子は静かに言った。
「動機を聞かせて」
佐野は震える声で言った。
「……三浦が……
最近、私より他の子と仲良くしてて……
なんか……
置いていかれる気がして……
怖くて……
寂しくて……」
陽斗は胸が痛くなった。
(……それ……
分かる……
僕も……
白石さんに距離置かれたとき……
すごく寂しかった……)
佐野は続けた。
「だから……
ちょっと驚かせて……
私のところに戻ってきてほしくて……
“もう1人の自分”を見たら、
怖くて私に頼ってくれるかなって……
そんな……
軽い気持ちだったの……」
透子は静かに言った。
「軽くないわ。
三浦さんは本気で怖がっていた」
佐野は涙をこぼした。
「……ごめんなさい……
本当に……
こんなことになるなんて……」
陽斗は言った。
「佐野さん……
三浦さん、
あなたのこと嫌いじゃないよ。
むしろ……
すごく大事にしてると思う」
佐野は顔を上げた。
「……え……?」
陽斗は続けた。
「だって……
三浦さん、
昨日ずっと“佐野がいてくれてよかった”って
言ってたよ」
佐野は涙をこらえきれず、
顔を覆った。
透子は淡々と言った。
「謝りに行きなさい。
それで終わるわ」
佐野はうなずき、
走って教室へ戻っていった。
──階段の前。
透子はガラスを見つめながら言った。
「相沢くん。
今回の事件は“模倣”が鍵だった」
「模倣……」
「そう。
“もう1人の自分”は、
誰かが“演じている”だけ」
陽斗は息を呑んだ。
(……演じる……
それって……
人の心が関わってる……)
透子は続けた。
「三浦さんの笑顔を知っていて、
その表情を再現できる人。
それは“近い人”だけ」
陽斗はうなずいた。
(……確かに
知らない人にはできない……
だから……
怖かったんだ……)
透子はガラスに触れた。
「相沢くん。
人の心は……
時々、事件を起こすのよ」
陽斗は胸が熱くなった。
(白石さん……
あなたは……
人の心が分からないって言ってたけど……
今は……
少し分かってる気がする……)
透子は陽斗の方を見た。
「さぁ、教室に戻りましょう。
事件は終わったわ」
陽斗はうなずいた。
(……終わった
でも……
また次の事件が起きたら……
僕は……
白石さんと一緒に……
追いかけたい……)
階段のガラスには、
もう誰の姿も映っていなかった。
──“もう1人の自分”事件は、
こうして幕を閉じた。




