第48話「笑う三浦と、観察者の影」
放課後の一年三組は、
事件のざわつきがまだ残っていた。
「三浦、大丈夫か?」
「保健室行った方がよくね?」
「“もう1人の自分”ってマジで怖いんだけど」
三浦はまだ怯えた表情で、
女子たちに囲まれていた。
陽斗はその様子を見ながら、
胸がざわつくのを感じていた。
(……三浦さん
あんなに怖がってる
これ……
絶対に放っておけない……)
透子は教室の後ろで腕を組み、
じっと三浦を観察していた。
(白石さん……
完全に“事件モード”だ……
目が鋭い……
怖い……
でも……
頼もしい……)
透子は陽斗の袖を軽く引いた。
「相沢くん。
“笑う三浦さん”を探すわよ」
「えっ……
でも……
どうやって……?」
透子は淡々と答えた。
「三浦さんが“笑っているところ”を
知っている人物──
それが犯人よ」
陽斗は息を呑んだ。
(……つまり
三浦さんの“笑顔”を
普段から見ている人……
近い人……
仲の良い人……
それって……)
透子は教室を見渡し、
静かに言った。
「まずは“仲の良い女子グループ”ね」
──女子グループへの聞き込み。
透子は三浦の友達・佐野に声をかけた。
「佐野さん。
三浦さんって……
普段、よく笑う?」
佐野は少し驚いた顔をした。
「え? 三浦?
うん、めっちゃ笑うよ。
特に休み時間とか、
私たちと話してるときはずっと笑ってる」
「その“笑い方”、特徴は?」
「特徴……?
あ、でも……
三浦って“口角が片方だけ上がる”んだよね。
クセみたいなやつ」
(片方だけ……それ……
ガラスに映った“笑い”と同じ……?)
透子は小さくうなずいた。
「ありがとう。
助かったわ」
「え、なに?
事件でも起きたの?」
「ええ。
“笑う三浦さん”がね」
「……は?」
透子は説明せず、
陽斗を連れて教室を出た。
陽斗は慌ててついていく。
(白石さん……
説明しないの……
怖い……
でも……
かっこいい……)
──廊下。
透子は歩きながら言った。
「三浦さんの“笑い方”を
正確に再現できる人物は限られるわ」
「限られる……?」
「そう。
① 三浦さんと仲が良い人
② 三浦さんをよく観察している人
③ 三浦さんの“笑い方の癖”を知っている人」
(つまり……
犯人は……
三浦さんの近くにいる……?)
透子は階段のガラスの前に立ち、
指先で表面を軽く叩いた。
「このガラス……
“反射”じゃない。
“像を見せられた”の」
「像……?」
透子は淡々と説明した。
「三浦さんが階段を降りるとき、
ガラスの向こう側に“誰か”が立っていたのよ。
その人物が──
三浦さんの笑顔を模倣した」
陽斗は背筋が凍った。
(ガラスの向こう側……
でも……
向こうは壁……
誰も立てない……
じゃあ……
どうやって……?)
透子はガラスの“端”を指さした。
「ここ。
この細い隙間……
人が立てるスペースがあるわ」
「えっ……
こんなところに……?」
透子はうなずいた。
「普通は気づかない。
でも……
“観察者”なら知っている」
陽斗は息を呑んだ。
(観察者……
また……
誰かが……
僕たちを見てる……?)
透子は静かに言った。
「相沢くん。
犯人は──
“三浦さんの笑顔を知っていて、
階段の構造も知っている人物”よ」
「それって……誰……?」
透子は階段の上を見上げた。
「……“階段掃除当番”よ」
陽斗は目を見開いた。
(また……
掃除当番……?
図工室のときと同じ……?
まさか……
また……?)
透子は続けた。
「掃除当番は、
毎日この階段を掃除している。
構造も、隙間も、
光の入り方も知っている」
「じゃあ……
犯人は……掃除当番の誰か……?」
透子は静かにうなずいた。
「そう。
そして──
“笑う三浦さん”を知っている人物でもある」
陽斗は喉が乾いた。
(つまり……
三浦さんの近くにいて……
階段の構造を知っていて……
笑顔を模倣できる人……
そんなの……
限られてる……)
透子は言った。
「相沢くん。
次の休み時間、
“掃除当番の名簿”を見に行くわよ」
陽斗はうなずいた。
(……犯人が……見えてきた……
でも……なんで……そんなことを……?)
透子は階段のガラスを見つめた。
「この事件……
“模倣”が鍵よ」
「模倣……?」
透子は静かに言った。
「そう。
“もう1人の自分”は──
誰かが“演じている”の」
陽斗は息を呑んだ。
(演じている……
つまり……
犯人は……
三浦さんを……
知っている人……)
透子は歩き出した。
「相沢くん。
真相はすぐそこよ」
陽斗は慌てて追いかけた。
(……悪魔だ
でも……
僕は……
この悪魔と一緒に……
真相を見たい……)
──階段の“もう1人の自分”事件は、
ついに核心へと踏み込んだ。




