第46話「階段の“もう1人の自分”」
大型連休が明けた一年三組は、
休みボケと再会のざわつきが入り混じった空気に包まれていた。
「連休中、何してた?」
「白石さん、どこか行った?」
「相沢は? 家で泣いてた?」
男子の悪ノリに、陽斗は机に突っ伏した。
(……泣いてない……
泣いてないけど……
胸は痛かった……
それは否定できない……)
透子はというと、
休み前よりもさらにクラスに馴染んでいた。
女子に囲まれ、嬉々と会話し、
男子にも自然に返事をしている。
(白石さん……
僕とは……
やっぱり距離あるよな……
あの日以来……)
胸がきゅっと痛む。
──そして、事件は突然起きた。
四時間目が終わり、
クラスが廊下に出始めたときだった。
「きゃああああああああ!!!!!」
階段の方から女子の悲鳴が響いた。
「なに!?」「誰!?」「どうした!?」
クラス全員が一斉に階段へ駆け寄る。
階段の踊り場で、
クラスメイトの女子・三浦が震えていた。
「み、見たの……!
階段のガラスに……
もう1人の……わ、私が……!」
「え?」「どういうこと?」「影じゃなくて?」
三浦は涙目で首を振った。
「違うの……!
私、階段を降りようとして……
ガラスに映った自分を見たら……
“もう1人の私”が……
こっちを見て笑ってたの……!」
教室がざわつく。
「え、それホラーじゃん!」
「鏡じゃないよな?」
「ガラスに映るって……」
陽斗は背筋が冷たくなった。
(……まただ
また“説明できない現象”……
これ……
絶対……
白石さんが動くやつだ……)
透子は三浦の前にしゃがみ込み、
静かに聞いた。
「三浦さん。
その“もう1人のあなた”は、
本当にあなたと同じ顔だった?」
三浦は震えながらうなずいた。
「う、うん……
でも……
笑ってたの……
私、笑ってなかったのに……」
透子は立ち上がり、
階段のガラスをじっと見つめた。
「……ふぅん」
その“ふぅん”だけで、
クラスが静まり返った。
透子は振り返り、
陽斗の腕を軽く引っ張った。
「相沢くん。
調べるから手伝って」
「えっ……でも……」
透子はため息をついた。
「私に振られたくらいで落ち込まないでよ。
いじけてる男子なんてカッコ悪いよ。
行くよ」
──階段、爆発。
「うわああああああ!!!」
「白石さん!!今回も記録的なド直球!!」
「相沢、また公開処刑!!」
「“振られた”って言った!!」
「相沢のメンタル死ぬ!!」
(…………やっぱり最恐の悪魔だ)
透子は陽斗の腕を引っ張ったまま、
階段のガラスの前に立った。
「ほら。
行くって言いなさい」
陽斗は観念した。
「……わかった。行くよ」
──階段、再爆発。
「きたあああああ!!!」
「相沢、男を見せた!!」
「白石さんの“行くよ”に即答!!」
「青春かよ!!」
「尊いわ!」
三浦は涙目で言った。
「し、白石さん……
本当に調べてくれるの……?」
透子はうなずいた。
「ええ。
“もう1人の自分”なんて、
絶対何かあるわ」
陽斗はごくりと喉を鳴らした。
(また始まる……
白石さんと一緒に……
謎を追う日々が……
でも……
今回は……
なんか……
嫌な予感がする……)
透子はガラスに手を触れ、
小さくつぶやいた。
「……これは“反射”じゃない。
“意図的に見せられた像”よ」
陽斗は息を呑んだ。
(意図的……?
誰が……
なんのために……?)
透子は陽斗の方を見た。
「相沢くん。
今回は……
前より厄介かもしれない」
陽斗の胸が跳ねた。
(……悪魔だ
でも……
僕は……
この悪魔に……
逆らえない……)
──新たなミステリーが、
静かに幕を開けた。




