第45話「距離の理由、距離の痛み」
図工室ミステリーが終わって数日。
クラスの空気は落ち着きを取り戻したように見えたが、
陽斗の胸のざわつきは消えなかった。
──朝の教室。
「相沢、元気出せよ」
「まぁ、失恋はつらいよな」
「白石さんレベルは無理だって」
男子たちは相変わらず“失恋扱い”で励ましてくる。
(いや……
失恋じゃない……はず……
だけど……
なんか……胸が痛い……)
女子たちは女子たちで、
透子の方をちらちら見ながら盛り上がっていた。
「白石さんってさ、あれ絶対ツンデレだよね」
「相沢くんにだけ態度違うし」
「でも“仲良し”って言われたら逆にキュンとする」
陽斗は机に突っ伏した。
(……僕の知らないところで
僕の恋愛事情が勝手に盛り上がってる……
なんだこれ……)
透子はというと──
いつも通り静かに席に座り、
必要なときだけ話し、
陽斗とはほとんど目を合わせなかった。
(……やっぱり距離、あるよな
昨日のあれ……
僕のためって言ってたけど……
本当に……?)
胸がざわつく。
──昼休み。
陽斗は弁当を食べながら、
透子の席をちらちら見ていた。
透子は女子に囲まれて、
淡々と受け答えしている。
(白石さん……
クラスに馴染んでる
それは嬉しい
でも……
僕とは……
前みたいに話さない)
胸がきゅっと痛む。
高梨が陽斗の肩を叩いた。
「相沢。
白石さんと最近話してなくね?」
「……うん」
「なんかあったのか?」
陽斗は首を振った。
(言えるわけないだろ……
“弟みたい”って言われて……
“恋愛じゃない”って言われて……
僕だけが勝手に意識して……
距離できて……
情けない……)
すぐに涙目になった陽斗に高梨は苦笑しながら
「まぁ……
お前らはお前らで複雑なんだろ」
陽斗は曖昧に笑った。
(複雑……
っていうか……
僕が勝手に複雑にしてるだけか……)
──放課後。
陽斗は帰り支度をしながら、
透子の席を見た。
透子は鞄を肩にかけ、
女子に軽く手を振って教室を出ていく。
陽斗は声をかけられなかった。
(……なんでだよ
なんでこんなに
話しかけづらいんだよ……
前は……
あんなに自然だったのに)
胸が苦しくなる。
(白石さん……
僕……どうしたらいいんだ……)
陽斗はゆっくりと立ち上がり、
教室を出た。
夕方の廊下は静かで、
窓から差し込む光が長い影を作っていた。
(……明日こそ話そう
このままじゃ……嫌だ)
陽斗は拳を握った。
──透子との距離は、
少しずつ、しかし確実に
陽斗の心を揺らし続けていた。




