第44話「距離と、再会と、透子の本音」
図工室ミステリーが終わって数日。
クラスの空気は落ち着きを取り戻しつつあったが、
陽斗の胸のざわつきは消えなかった。
──職員室。
陽斗は担任の佐伯先生に呼ばれていた。
「相沢。ちょっといいか?」
陽斗は緊張しながら近づいた。
「噂は色々聞いてる。
嫌がらせは大丈夫か?」
陽斗は苦笑した。
「はい。
なんか運が悪いなぁって思っていたけど……
イジメだと気づかなかったくらいですから」
佐伯先生は眉をひそめた。
「気づかないなりにも我慢はしてたってことだろ。
何かあったらきちんと俺に相談しろよ。
担任はそのためにいるんだぞ」
陽斗は胸が少し熱くなった。
「……わかりました。
ありがとうございます」
佐伯先生はうなずき、
ふと表情を変えた。
「ところで、白石との話も聞いたぞ。
振られたんだって?」
「ち、違いますよ!!」
職員室に響く声。
周りの先生がちらっと見る。
陽斗は真っ赤になった。
「友達なんです。
お互い恋愛じゃないです」
佐伯先生は笑った。
「そっか。
学校としても不純異性交友は禁止だが、
男女でも友情ならオッケーだ」
「え?」
佐伯先生は少し声を落とした。
「知ってるかもしれんが……
白石は父子家庭で、
けっこうつらい思いをしてるんだ」
陽斗は息を呑んだ。
(白石さん……
そんなこと……
一度も言わなかった……)
佐伯先生は続けた。
「友達なら、
きちんと支えてあげろよ」
陽斗は小さくうなずいた。
「……はい」
数日のうちに、
嫌がらせはぴたりと止んだ。
クラスでは相変わらず
男子に“失恋”を励まされ続けたが──
陽斗の胸を締めつけていたのは、
別のことだった。
(……白石さんと……
なんか……
話す機会が減った……)
透子は相変わらずクラスに馴染み、
女子とも男子とも自然に話していた。
ただ──
陽斗とは、必要最低限しか話さない。
(距離……できてる……
なんで……?
僕……何かした……?)
寂しさが胸に広がる。
そして放課後。
陽斗は意を決した。
(……行こう
このままじゃ……
嫌だ)
透子の家の前に立つと、
心臓がうるさいほど鳴った。
ピンポーン。
扉が開く。
透子が現れた。
「あら、どうしたの?
寂しくて会いたくなったの?」
陽斗は真っ赤になった。
「ち、違うよ!
なんか……
色々ぎこちなくなっちゃったけど……
今までみたいに話したり、
調べたりできたらいいと思って……」
透子はため息をついた。
「バカね」
「え……?」
透子は近づき、
陽斗の両肩にそっと手をかけた。
「イジメられないようにしてるだけでしょ。
あなたと距離を置けば、
男子の嫉妬も収まると思ったの」
陽斗は言葉を失った。
(僕のため……?
そんな……
そんな理由で……
距離を……?)
透子はそのまま、
陽斗を抱きしめた。
「ホントに小学生のままみたいね、キミは。
あなたはなんとなく恋愛に憧れてるだけ。
すぐに好きな人ができる」
陽斗は胸が痛くなった。
(違う……
違うよ……
僕は……)
透子は続けた。
「私は孤独が嫌だから、
離れていきそうな人とは恋愛しないのよ」
陽斗は震える声で言った。
「……でも……」
透子は陽斗の言葉を遮り、
そっと離れた。
「さっ、帰りなさい」
玄関から押し出される。
陽斗「えっ、ちょ──」
扉が閉まる。
陽斗は呆然と立ち尽くした。
(……なんで……
なんでそんな……
突き放すような……)
そのとき。
扉の向こうから、
透子の声が聞こえた。
「私はあなたのこと好きよ。
気に入っているけど恋愛じゃないと思う。
恋愛したことないからわからないけどね」
陽斗は息を呑んだ。
透子の声は、
少しだけ柔らかかった。
「じゃあ、また明日学校で。
バイバイ」
陽斗はしばらく動けなかった。
(……好き……
でも恋愛じゃない……
僕は……
どうすれば……)
夕暮れの風が吹き抜ける。
陽斗の胸は、
痛いほどに熱かった。




