第43話「噂と、悪魔と、仲良し」
図工室ミステリーが終わって二日後の月曜日。
一年三組は、事件そのものよりも──
“陽斗がいじめられていた理由” の方で盛り上がっていた。
村井がぽろっと漏らした
「相沢はいじめられてた」
という言葉は、瞬く間にクラス中に広がり、
さらに尾ひれがついた。
「相沢ってさ、白石さんと仲良いから嫉妬されてたんじゃね?」
「だよね、あれ絶対そうだよ」
「白石さんと話してる男子、他にもいるけど……
相沢だけ“特別扱い”っぽいし」
陽斗は机に突っ伏した。
(なんで……
なんでそうなるんだよ……
僕はただ……
巻き込まれただけで……
特別扱いなんて……
されてない……はず……)
胸がざわつく。
透子の家に行ったこと、
抱きつかれたこと、
弟呼ばわりされたこと──
全部が頭の中でぐるぐる回る。
(あれは……
なんだったんだ……
僕は……
どう思われてるんだ……)
そんな陽斗の机に、
女子の影が落ちた。
「ねぇ相沢」
顔を上げると、
女子三人がニヤニヤしながら立っていた。
「心当たりないの?」
「いじめられてた理由だよ」
「白石さん絡みじゃないの?」
陽斗は慌てた。
「え、えっと……
そんなこと言われても……
白石さんを好きな男子なんて
たくさんいるだろうから……」
女子たちが「ほぉ〜」と盛り上がる。
そのときだった。
「っていうか」
透子が、
教室の後ろから歩いてきた。
空気が一瞬で変わる。
透子は陽斗の前に立ち、
淡々と、しかしはっきりと言った。
「そもそも、あなたは私が好きなの?」
「…………えっ?」
教室が爆発した。
「きたぁぁぁぁ!!!」
「白石さん、ド直球!!」
「相沢、逃げられないぞ!!」
「これもう公開告白じゃん!!」
陽斗の頭は真っ白になった。
(な、な、な、なんで……
なんでそんなこと……
みんなの前で……
言うんだよ……!?)
透子は表情を変えずに続けた。
「あなたが私を好きだから
いじめられるなら──
あなたの気持ち次第なんじゃない?」
(…………悪魔だ)
女子たち「キャーーーー!!!」
男子たち「相沢……頑張れ……」
陽斗は震える声で言った。
「だ、だって……
恋愛じゃなくて……
た……ただの……
ただの仲良しだろ……」
教室が揺れた。
「仲良し!? 仲良しなんだ!?」
「相沢、それはそれで羨ましいぞ!!」
「白石さんと友達じゃなくて仲良しって言えるの強すぎ!」
「いやでも“恋愛じゃない”って言ったぞ!」
透子は小さくうなずいた。
「なら大丈夫じゃない?
それがハッキリすれば
いじめはなくなるわ」
そう言って、
透子は自分の席へ戻っていった。
陽斗は机に突っ伏した。
(……白石さん……
あなたは……
なんでそんな……
爆弾を落としていくんだ……
僕の心臓が……
もたない……)
女子たちは
「すごい恋愛劇を見た!」
「白石さんのあの言い方、絶対何かある!」
「相沢の返しが青春すぎる!」
と胸キュン状態。
男子たちは
「相沢……強く生きろ……」
「お前、もう逃げられないぞ……」
「白石さんにあれ言われて“仲良し”は逆にすげぇ」
と哀れみと羨望の混ざった目で陽斗を見ていた。
陽斗は机に顔を埋めたまま動けなかった。
(……僕は……
白石さんの……
なんなんだ……?)
その答えは、
まだ誰にも分からなかった。




