第41話「犯人候補と、透子の違和感」
昨日の“事故未遂”から一夜明けた一年三組は、
朝から異様なざわつきに包まれていた。
「相沢、昨日マジで危なかったよな」
「黒板の絵と一致してたの、怖すぎる」
「犯人、絶対クラスにいるだろ」
陽斗は席に座りながら、
自分の名前があちこちで出てくるのを聞いていた。
(……やめてくれよ
僕はただ巻き込まれただけで……
狙われる理由なんて……)
胸がざわつく。
昨日の木材が落ちてきた瞬間が、
何度も頭の中で再生される。
透子は席で静かにノートを開いていた。
しかしページはまったく進んでいない。
(白石さん……
昨日の黒板の“線”をずっと考えてる)
五時間目。
今日も図工だった。
図工室へ向かう廊下は、
昨日よりもさらに静かだった。
「今日も何か描いてあったらどうする?」
「やめろよ……マジで怖いって」
「でも昨日の事故、偶然じゃないよな」
そんな声が小さく響く。
図工室の扉が開いた。
──黒板は、真っ黒だった。
「何もない……?」
「いや、昨日も最初は何もなかったし」
クラスが席につく。
先生が入ってきて、
プリントを配り始めた。
「今日は“陰影の応用・実践編”だ。
黒板は使わない。
プリントを見ながら進めるぞ」
陽斗は少し安心した。
(今日は……
何も起きない……?)
──その瞬間だった。
「ちょ、ちょっと!!
黒板!!」
前の席の女子が叫んだ。
陽斗は反射的に黒板を見た。
そこには──
さっきまで何もなかった黒板に、
新しい“線だけの絵”が描かれていた。
「まただ……」
「いつ描いたんだよ!?」
「誰も見てなかったぞ!?」
クラスがざわつく。
透子は席から立ち上がり、
黒板に近づいた。
描かれていたのは──
図工室の後方から、
“誰かを見つめる視線”の構図。
まるで、
黒板の向こう側から
“教室全体を観察している”ような絵。
陽斗は息を呑んだ。
(これ…… 誰が……
僕たちを見ている……?)
透子は黒板の線を指でなぞった。
「……この線、
昨日の事故の絵と同じ“癖”がある」
陽斗は小声で聞いた。
「癖……?」
透子は静かに言った。
「“観察者の線”よ」
陽斗は背筋が冷たくなった。
(観察者……
つまり……
僕たちをずっと見ている人……?)
透子は黒板の“視線の方向”を指さした。
「見て。
この視線……
“教室の後ろの角”から描かれてる」
陽斗は振り返った。
教室の後ろの角には──
図工室の備品棚と、
その横にある小さな窓。
透子は言った。
「この線を描いた人は……
“あそこから私たちを見ていた”」
陽斗は喉が乾いた。
(あそこ……
あの角……
誰でも立てる場所……
でも……
誰が……?)
透子は黒板を見つめたまま、
静かに言った。
「相沢くん。
犯人は……
“私たちの授業を毎回見ている人”よ」
陽斗は心臓が跳ねた。
(毎回……?
毎回って……
図工の授業を……?
そんなの……
誰だよ……)
透子は続けた。
「図工委員でも、美術部でも、
二年生でもない。
もっと……
“近い人”」
陽斗は震えた。
(近い……?
近いって……
クラスの誰か……?
友達……?
それとも……
僕のことを……?)
透子は黒板の線を見つめながら言った。
「この線は……
“あなたを見ている人”の線よ」
陽斗は息を呑んだ。
(僕を……
見ている……?
誰が……
なんのために……?)
図工室の空気が、
ゆっくりと重く沈んでいった。
──事件は真相へと向かっていた。




