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推しの悪魔は迷探偵  作者: 双鶴


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39/66

第39話「黒板の“予測精度”」

 昨日の“黒板事件”のざわめきは、

 一年三組の朝から続いていた。


 「昨日のあれ、マジで怖かったよな」

 「誰が描いたんだよ、あんな丁寧に」

 「てか、なんで昨日の日付なんだよ」


 教室の空気は、

 光の足跡事件のときとは違う種類のざわつきだった。


 “怪異”ではなく、

 “意図の読めない不気味さ”。


 陽斗は席に座りながら、

 透子の方をちらりと見た。


 透子は教科書を開いているが、

 視線はどこか遠い。


 (白石さん……

  昨日の黒板、ずっと気にしてる

  でも先生の前では何も言わなかった

  あれは……

  “まだ言う段階じゃない”って判断したんだ)


 陽斗の胸がざわついた。


 (また……

  事件が始まるのか……?

  いやだ……

  でも…… 白石さんのそばいたい……

  もっと白石さんと話したい)


 


 五時間目。

 今日も図工がある日だった。


 クラス全員が図工室へ向かう。

 昨日のことがあるせいで、

 誰もが少し緊張していた。


 「今日も描いてあったらどうする?」

 「やめろよ、マジで怖いって」

 「昨日のは偶然だろ……?」


 そんな声が飛び交う中、

 図工室の扉が開いた。


 ──静かだった。


 黒板は、

 昨日先生が消したままの状態。


 「……何もないな」

 「昨日のは誰かのイタズラじゃね?」

 「でも昨日の日付ってのがなぁ……」


 クラスが席につき、

 先生が入ってきた。


 「昨日の黒板の件だが……

  誰か心当たりがあれば言ってくれ」


 誰も手を挙げない。


 先生はため息をつき、

 プリントを配り始めた。


 「今日は“立体の影の描き方”だ。

  黒板は使わない。

  プリントを見ながら進めるぞ」


 陽斗はプリントを受け取り、

 透子の方を見た。


 透子はプリントを見つめたまま、

 微動だにしない。


 (白石さん……?)


 透子は小さくつぶやいた。


 「……一致してる」


 「え?」


 「昨日の黒板の内容と、

  このプリントの“順番”が一致してるの」


 陽斗はプリントを見た。


 ──光源の位置

 ──影の長さ

 ──立体の角度

 ──陰影の付け方


 (……本当だ

  昨日の黒板と、

  説明の順番が全く同じだ)


 透子は続けた。


 「偶然じゃない。

  “授業の流れ”まで予測して描いてる」


 陽斗は息を呑んだ。


 (授業の流れ……?

  そんなの、どうやって……?

  先生の癖とか、進め方とか……

  全部知ってるってこと……?)


 そのとき、

 先生がプリントの説明を始めた。


 「まず光源の位置だが──」


 透子は小さくつぶやいた。


 「……黒板と同じ」


 「え?」


 「先生の説明の“言い回し”まで、

  昨日の黒板の図と合ってる」


 陽斗は背筋が冷たくなった。


 (言い回しまで……?

  そんなの……

  先生本人でも再現できないだろ……)


 透子はプリントを見つめながら言った。


 「相沢くん。

  これは“予知”じゃない。

  “観察”と“推論”よ」


 陽斗は混乱した。


 (観察……?

  推論……?

  でも……

  授業の流れまで予測するなんて……

  そんなの……)


 透子は続けた。


 「先生の授業の癖。

  説明の順番。

  板書の傾向。

  プリントの構成。

  それらを全部“見ている人”なら、

  昨日の黒板を描ける」


 陽斗は息を呑んだ。


 (全部……見ている人……?

  そんなの……

  誰だよ……)


 透子は黒板を見つめた。


 「……この黒板は、

  “授業を観察している誰か”の手によるもの」


 陽斗は喉が乾いた。


 (誰か……

  また……

  僕たちを見てる……?

  光の足跡のときみたいに……?)


 透子は静かに言った。


 「相沢くん。

  これは“悪戯”じゃない。

  “意図”がある」


 陽斗の心臓が跳ねた。


 (意図……

  また……

  誰かが白石さんに……?

  いやだ……

  でも……

  白石さんを手伝いたい……)


 図工室の空気が、

 ゆっくりと重く沈んでいった。


 ──事件はすでに動き始めていた。


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