第38話「図工室の黒板に描かれた“未来”」
光の足跡事件が終わって三日目。
一年三組は、ようやく“普通の学校”に戻りつつあった。
……少なくとも、そう見えていた。
五時間目は図工。
クラス全員で図工室へ移動する。
「今日、立体の影やるんだって」
「図工ってなんか落ち着くよな」
「黒板に変な絵があるって聞いたけど?」
そんな噂が飛び交う中、
陽斗は透子の横を歩いていた。
透子は前を見たまま、
特に何も言わない。
(白石さん……
事件が終わってから、
前より“静か”になった気がする)
昨日の抱擁の記憶が、
陽斗の胸をまだざわつかせていた。
(あれ……なんだったんだろう
弟って言われたし……
でも……
あんな抱きつき方……
弟にするか……?
いや、分からない……
白石さん、分からない……)
頭がまとまらないまま、
図工室の前に着いた。
ガラガラッ。
扉を開けた瞬間──
「ちょ、ちょっと待って!!
これ……何!?」
教室の前の方にいた男子・村井が叫んだ。
「黒板……もう描いてあるんだけど!?」
クラス全員が一斉に黒板を見た。
陽斗も見て、息を呑んだ。
(……これ……)
黒板には、
今日やるはずの授業内容が
すでに描かれていた。
しかも──
先生がまだ来ていないのに。
「立体の影の描き方……?」
「光源の位置……?」
「今日の授業じゃん、これ」
透子は黒板に近づき、
じっと線を見つめた。
陽斗は小声で聞いた。
「白石さん……どう思う?」
透子は答えず、
ただ黒板の端に書かれた“日付”を見つめた。
──4月19日(昨日)
陽斗は目を見開いた。
(昨日……?
昨日のうちに、
今日の授業内容が描かれてた……?)
村井が叫んだ。
「これ、誰が描いたんだよ!?
先生じゃないよな!?」
「こんな丁寧な線、先生じゃないって」
「てか、なんで昨日の日付……?」
「怖いんだけど……」
クラスがざわつく。
透子は黒板から少し離れ、
陽斗の方を見た。
その瞳は、
“何かを見つけた”ときの光をしていた。
(白石さん……
やっぱり何か気づいてる……
でも先生の前では言わないんだ)
そのとき、
図工室の扉が ギィ…… と音を立てて開いた。
図工の先生が入ってきて、
黒板を見て固まった。
「……誰だ?
勝手に黒板に描いたのは」
誰も答えない。
先生はため息をつき、
黒板を消そうとしたが──
ふと手を止めた。
「……これ、今日の授業内容だよな。
なんで昨日の日付なんだ?」
クラスは沈黙した。
透子は席に座り、
何も言わなかった。
ただ、黒板を見つめていた。
(白石さん……
先生の前では普通の生徒なんだ
でも……
絶対に何か考えてる)
陽斗の胸がざわついた。
(また……
何かが始まるのか……?
いやだ……
でも……
白石さんの隣にいたい……)
先生は黒板を消しながら言った。
「……まぁいい。
誰が描いたかは後で聞く。
授業を始めるぞ」
チョークの音が響く。
だが陽斗の耳には、
その音が妙に遠く聞こえた。
透子は黒板を見つめたまま、
小さくつぶやいた。
「……相沢くん。
これは“偶然”じゃないわ」
陽斗は息を呑んだ。
(やっぱり…… 事件だ)
図工室の静けさが、
不気味なほど深く感じられた。




