第37話「クラス騒然、透子の変化」
光の足跡事件が終わって二日目の朝。
一年三組の女子たちは、
まるで“水を得た魚”のように騒いでいた。
「ねぇねぇ、白石さんってさぁ……」
「昨日、相沢と一緒に帰ってたよね?」
「ていうか、あれってデートじゃないの?」
透子が教室に入った瞬間、
女子たちが一斉に群がった。
「白石さん、ホントのところどうなの?」
「相沢くんと付き合ってるの?」
陽斗は席で固まった。
(ちょ、ちょっと待って……
朝からこれ……?
僕、聞こえてるんだけど……)
透子は鞄を置き、
いつもの無表情で言った。
「みんな、その話好きねぇ」
女子たちが一斉に身を乗り出す。
「で、どうなの?」
「付き合ってるの?」
「相沢くんってどうなの?」
透子は淡々と答えた。
「付き合ってはないわよ」
女子たち「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
陽斗(心臓が止まるかと思った)
透子は続けた。
「恋愛っていうのは、無いわ」
女子たち「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
陽斗(……そ、そうだよね……
分かってたけど……
言葉にされると刺さる……)
透子は、少しだけ柔らかい声で言った。
「でも、仲良しよ。
昨日も家に来たし」
女子たち「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
男子たち「マジかよ……」
陽斗(ちょ、ちょっと待って!?
それ言うの!?
言う必要あった!?)
「白石さんの家!? え、どういうこと!?」
「それもう付き合ってるじゃん!!」
「相沢……お前……」
透子は首をかしげて言った。
「まぁ……頼りない弟って感じね。世話がやけるわ」とため息。
でも、そのため息すら思春期の男子達を虜にするには威力絶大だった。
しかし、1人だけは不幸のドン底にいた。
陽斗「…………」
(………………弟………………
弟………………
弟………………
弟………………)
陽斗の精神的ダメージは正に致命傷レベルに。
女子たちは大盛り上がり。
男子たちは妄想でざわつく。
透子は、そんな騒ぎをよそに
席に座って本を開いた。
(……白石さん……
あなたは……
なんでそんな無自覚なんだ……)
陽斗は机に突っ伏した。
(昨日の抱きつき……
あれは……
弟にするやつじゃないだろ……
いや、どうなんだ……
分からない……
分からない……
白石さん、分からない……)
休み時間。
教室の空気は、事件前とは明らかに違っていた。
透子に話しかける女子が増え、
男子も遠巻きに様子をうかがっている。
「白石さんって意外と話しやすいね」
「なんか前より柔らかくなった?」
透子は淡々と受け答えしていたが、
拒絶するような雰囲気はなかった。
(白石さん……
事件の前より、
クラスに馴染んでる……)
陽斗は胸がざわついた。
(嬉しい……
でも……
なんか……
置いていかれるみたいで……
苦しい……)
高梨が陽斗の肩を叩いた。
「なぁ相沢。
お前……白石さんとどういう関係なんだ?」
「ど、どういうって……」
「昨日、家行ったんだろ?
それ、普通じゃねぇぞ?」
陽斗は言葉に詰まった。
(普通じゃない……
でも……
説明できるわけないだろ……
抱きつかれたなんて……
言えるわけない……)
高梨は続けた。
「……相沢。
お前、白石さんのこと……」
陽斗は慌てて遮った。
「な、なんでもない!!」
でも涙目になってしまった…
高梨は苦笑した。
「まぁ、そういうことにしとくわ」
陽斗は机に突っ伏した。
(……僕は……
白石さんの“弟”なんかじゃない
でも……
じゃあ何なんだ……
僕は……何なんだ……)
胸が苦しくて、
息が少しだけ浅くなった。
──事件が終わっても、
陽斗の心はまだ揺れ続けていた。




