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推しの悪魔は迷探偵  作者: 双鶴


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35/66

第35話「事件のあとで」

 光の足跡事件が終わった翌日の一年三組は、

 いつもより静かだった。


 「三浦、今日休みか……」

 「まあ、いろいろあったしな」

 「白石さん、昨日すごかったよな」


 ざわめきはある。

 けれど、どこか遠慮がちで、

 クラス全体が“何かをそっと扱っている”ような空気だった。


 陽斗は席に座りながら、

 教室の後ろの空席──三浦の席──を見た。


 (……いないんだな)


 胸の奥が少しだけ痛んだ。

 三浦の気持ちを思い出すと、

 昨日の廊下の夕陽が胸に刺さる。


 (あいつ……

  ずっと苦しかったんだ)


 そんなことを考えていると、

 透子が教室に入ってきた。


 いつも通りの無表情。

 けれど、どこか柔らかい。


 (……白石さん、変わった?)


 透子は席に着くと、

 ノートを開かずに窓の外を見た。


 それだけで、

 陽斗の胸がざわついた。


 (事件が終わって……

  白石さん、何を考えてるんだろ)


 


 1時間目の国語が終わると、

 高梨が陽斗の席に来た。


 「なあ相沢……昨日のやつ、マジでお前も一緒にいたの?」


 「え、ああ……まあ」


 「すげえよな。

  白石さんの隣にいられるってさ」


 陽斗は言葉に詰まった。


 (……隣にいるだけだよ

  何もできなかった)


 高梨は続けた。


 「三浦のこと、誰も責めてないよ。

  むしろ……なんか、分かる気がするってさ」


 陽斗は驚いた。


 (分かる……?

  あの気持ちを……?)


 高梨は笑った。


 「まあ、白石さんに気づいてほしいって気持ちは……

  分からなくもないけどな」


 陽斗の胸がチクリと痛んだ。


 (……僕も、そうだよ)


 


 昼休み。

 陽斗は弁当を広げながら、

 透子の方をちらりと見た。


 透子は珍しく、

 クラスメイトに話しかけられていた。


 「白石さん、昨日の説明すごかったよ」

 「どうやって気づいたの?」


 透子は淡々と答えていたが、

 拒絶するような雰囲気はなかった。


 (白石さん……

  前より、みんなと話してる)


 陽斗は胸がざわついた。


 (事件が終わって……

  白石さん、変わったんだ

  僕が知らないところで)


 弁当の味がよく分からなかった。


 


 放課後。

 陽斗が帰り支度をしていると、

 透子が近づいてきた。


 「相沢くん」


 「え、あ……なに?」


 透子は少しだけ迷ったように見えた。

 そして、静かに言った。


 「昨日のこと……

  ありがとう」


 陽斗は固まった。


 (……え?

  白石さんが……僕に?)


 透子は続けた。


 「あなたがいたから、

  私は三浦くんの光を“読み切れた”。

  あれは……一人では無理だった」


 陽斗の胸が熱くなった。


 (そんな……

  僕は何も……)


 透子は言った。


 「相沢くん。

  あなたは“ただの助手”じゃないわ」


 陽斗は息を呑んだ。


 (……白石さん)


 透子は鞄を持ち直し、

 いつもの無表情に戻った。


 「帰りましょう」


 陽斗はうなずいた。


 (事件は終わった

  でも……

  僕たちの関係は、

  少しだけ変わったのかもしれない)


 夕陽が廊下を照らし、

 二人の影が並んで伸びていた。


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