第33話「犯人対峙」
放課後の一年三組は、いつもより静かだった。
「白石さん、なんか分かったって言ってたよな」
「犯人……本当にいるの?」
ざわめきはある。
だが、昨日までのような軽い好奇心ではない。
“何かが起きる”という予感が、
教室全体を薄く覆っていた。
陽斗は鞄を閉めながら、
透子の方を見た。
透子はノートを閉じ、
静かに立ち上がった。
「相沢くん。
行くわよ」
その声は、
いつもより少しだけ低かった。
(白石さん……
覚悟してる。
今日、犯人が動くって分かってるんだ)
胸がざわつく。
恐怖と、焦りと、
置いていかれるような感覚。
(僕は……ただの助手っwでも隣にいたい)
二階廊下。
夕陽が差し込み、
床に長い影が伸びている。
透子は廊下の中央に立ち、
光が現れるはずの位置を見つめた。
陽斗はその横に立った。
(今日……何が起きるんだ)
そのとき──
ぽつり。
床に光の点が落ちた。
だが、
昨日までのように動き出すことはなかった。
光の点は、
ただ一点に留まり、
じわりと強くなっていく。
透子は小さくつぶやいた。
「……焦点固定。
犯人が“ここに来い”と言っている」
陽斗は息を呑んだ。
(来い……?
犯人が……?)
透子は光の点に近づいた。
その瞬間──
廊下の奥で、
“誰か”が動いた。
陽斗は振り返った。
(誰か……いる)
夕陽の逆光で顔は見えない。
だが、
その影はゆっくりと近づいてきた。
透子は一歩前に出た。
「……あなたね」
影は立ち止まり、
ゆっくりと顔を上げた。
そこにいたのは──
一年三組の男子、三浦だった。
陽斗は息を呑んだ。
(……三浦?
あいつ、いつも目立たないやつじゃ……)
三浦は透子を見つめ、
小さく笑った。
「やっと……気づいてくれたんだね」
透子は表情を変えずに言った。
「三浦くん。
あなたが……犯人なの?」
三浦はうなずいた。
「うん。
僕だよ、白石さん」
陽斗の胸がざわついた。
(白石さん……
名前で呼んでる……
なんで……?)
三浦は続けた。
「ずっと見てたんだ。
白石さんが、光を追ってるのを。
誰よりも真剣に、
誰よりも綺麗に」
透子は眉を寄せた。
「どうして……こんなことを?」
三浦は少しだけ笑った。
その笑みは、どこか寂しげだった。
「気づいてほしかったからだよ。
僕のことを」
陽斗の胸が締めつけられた。
(気づいてほしい……
白石さんに……?
そんなの……
僕だって……)
三浦は続けた。
「白石さんは、
いつも“正しいもの”しか見てない。
光の角度、反射、屈折……
全部、理屈で説明できるものばかり」
透子は静かに言った。
「だから……あなたは“説明できない光”を作ったの?」
三浦はうなずいた。
「そう。
白石さんが“分からない”って言うのを、
一度でいいから見たかった」
陽斗は息を呑んだ。
(……それだけのために?
いや、違う。
三浦の声……震えてる)
三浦は続けた。
「僕は……
誰にも見られない。
誰にも気づかれない。
クラスにいても、
透明みたいなんだ」
透子の瞳が揺れた。
三浦は言った。
「でもね、
白石さんだけは違った。
光の足跡を見つけたとき、
白石さんの目が……
僕を見てくれた気がしたんだ」
陽斗の胸が痛んだ。
(……分かる
その気持ち、分かる
僕も……白石さんに見てほしい)
透子は静かに言った。
「三浦くん。
あなたの光は……届いていたわ」
三浦は目を見開いた。
「……え?」
透子は一歩近づいた。
「あなたの光は、
私に“届いていた”。
だから私は、
ここまで追いかけてきたのよ」
三浦の目に、
涙が浮かんだ。
「……本当に……?」
透子はうなずいた。
「ええ。
あなたの光は、
確かに私を動かした」
三浦は唇を震わせ、
小さくつぶやいた。
「……よかった……
やっと……届いたんだ……」
その瞬間、
三浦の膝が崩れ落ちた。
陽斗は思わず駆け寄った。
(……三浦
こんな気持ちで……
ずっと光を作ってたのか)
透子は三浦の前にしゃがみ、
静かに言った。
「もう……終わりよ。
三浦くん」
三浦は涙を拭い、
小さくうなずいた。
「……うん。
終わりでいい。
白石さんに……届いたから」
廊下には、
夕陽の残光だけが静かに差し込んでいた。




