第31話「犯人候補」
昨日の“第四形態”の衝撃は、
一年三組の空気を完全に変えていた。
「三角形と円だったよな……?」
「もう怪談じゃないよ、あれ」
「白石さん、なんか分かったのかな」
「犯人って……本当にいるの?」
ざわめきは、
恐怖と好奇心が入り混じった複雑な色を帯びていた。
陽斗は席に座りながら、
透子の方をちらりと見た。
透子はノートを開き、
昨日の図形──正三角形と内接円──を
正確に描き写していた。
その線は、
まるで“犯人の思考”をなぞるように整っている。
(白石さん……
もう犯人の“頭の中”に入り始めてる)
胸がざわつく。
嫉妬とも違う、
ただ“置いていかれる”ような感覚。
(なんか僕だけ取り残された気分…)
放課後。
透子は陽斗の席に来て、
静かに言った。
「相沢くん。
犯人の条件を整理するわ」
陽斗は姿勢を正した。
透子は黒板の前に立ち、
チョークを手に取った。
(黒板……
白石さんが黒板に向かうときは、
本気のときだ)
透子は淡々と書き始めた。
──犯人の条件──
① 光学の基礎知識を持つ
② 校舎の構造に詳しい
③ 夕陽の角度と反射条件を理解している
④ 私たちの行動パターンを把握している
⑤ “見せたい”という意図がある
陽斗は息を呑んだ。
(……全部、昨日までの現象に当てはまる)
透子はチョークを置き、
陽斗の方を向いた。
「まず、篠原先輩は除外するわ」
陽斗は驚いた。
「えっ……なんで?」
透子は淡々と答えた。
「篠原先輩の技術は“直線的”なの。
昨日のような“曲線と図形”は作れない。
あの人は光を“操る”ことはできても、
“描く”ことはできない」
陽斗は息を呑んだ。
(描く……
確かに、昨日の図形は“描いていた”)
透子は続けた。
「高梨くんも違うわ。
彼はフェンスに触っただけ。
光学の知識は浅いし、
何より“意図”がない」
陽斗はうなずいた。
(高梨は……確かにそんなタイプじゃない)
透子は黒板に新しい線を引いた。
──残る条件──
① 光学の基礎知識
② 校舎の構造
③ 私たちの行動パターン
④ 意図
透子は静かに言った。
「この四つを満たす人物は──
“一年生の中”にいる」
陽斗は心臓が跳ねた。
(……一年生?
つまり……僕たちのクラス?
それとも隣のクラス?)
透子は続けた。
「一年生は、
まだ校舎の構造を“覚えている途中”よね。
でも──」
透子は黒板を指さした。
「光の足跡は、
“私たちの動き”に合わせて出現している。
つまり犯人は、
私たちの行動パターンを“日常的に見ている”。」
陽斗は息を呑んだ。
(……日常的に?
じゃあ……犯人は……)
透子は静かに言った。
「犯人は、
“私たちの近くにいる人”。」
陽斗の胸がざわついた。
(近く……
クラスの中……?
それとも……)
透子は黒板を消し、
窓の外を見つめた。
夕陽が校庭を赤く染めている。
「相沢くん。
犯人の“意図”は、
ただの悪戯じゃない」
陽斗は聞き返した。
「じゃあ……何のために?」
透子はゆっくりと答えた。
「“気づいてほしい”のよ。
自分の存在に」
陽斗は背筋が冷たくなった。
(存在……
犯人は、白石さんに……?
僕たちに……?)
透子は続けた。
「光の足跡は、
“メッセージ”なの。
犯人は、
私たちに“解かせたい”。
自分のことを」
陽斗は胸が締めつけられた。
(白石さんに……
気づいてほしい……?
そんなの……
僕だって……)
透子は静かに言った。
「相沢くん。
明日、犯人は“動く”。
決定的な一手を打つわ」
陽斗は息を呑んだ。
(決定的……
もう逃げられない……)
透子は窓の外を見つめたまま、
小さくつぶやいた。
「……犯人は、
“私の近く”にいる」
その声は、
夕陽よりも冷たく教室に響いた。




