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推しの悪魔は迷探偵  作者: 双鶴


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31/66

第31話「犯人候補」

 昨日の“第四形態”の衝撃は、

 一年三組の空気を完全に変えていた。


 「三角形と円だったよな……?」

 「もう怪談じゃないよ、あれ」

 「白石さん、なんか分かったのかな」

 「犯人って……本当にいるの?」


 ざわめきは、

 恐怖と好奇心が入り混じった複雑な色を帯びていた。


 陽斗は席に座りながら、

 透子の方をちらりと見た。


 透子はノートを開き、

 昨日の図形──正三角形と内接円──を

 正確に描き写していた。


 その線は、

 まるで“犯人の思考”をなぞるように整っている。


 (白石さん……

  もう犯人の“頭の中”に入り始めてる)


 胸がざわつく。

 嫉妬とも違う、

 ただ“置いていかれる”ような感覚。


 (なんか僕だけ取り残された気分…)


 


 放課後。

 透子は陽斗の席に来て、

 静かに言った。


 「相沢くん。

  犯人の条件を整理するわ」


 陽斗は姿勢を正した。


 透子は黒板の前に立ち、

 チョークを手に取った。


 (黒板……

  白石さんが黒板に向かうときは、

  本気のときだ)


 透子は淡々と書き始めた。


 ──犯人の条件──

 ① 光学の基礎知識を持つ

 ② 校舎の構造に詳しい

 ③ 夕陽の角度と反射条件を理解している

 ④ 私たちの行動パターンを把握している

 ⑤ “見せたい”という意図がある


 陽斗は息を呑んだ。


 (……全部、昨日までの現象に当てはまる)


 透子はチョークを置き、

 陽斗の方を向いた。


 「まず、篠原先輩は除外するわ」


 陽斗は驚いた。


 「えっ……なんで?」


 透子は淡々と答えた。


 「篠原先輩の技術は“直線的”なの。

  昨日のような“曲線と図形”は作れない。

  あの人は光を“操る”ことはできても、

  “描く”ことはできない」


 陽斗は息を呑んだ。


 (描く……

  確かに、昨日の図形は“描いていた”)


 透子は続けた。


 「高梨くんも違うわ。

  彼はフェンスに触っただけ。

  光学の知識は浅いし、

  何より“意図”がない」


 陽斗はうなずいた。


 (高梨は……確かにそんなタイプじゃない)


 透子は黒板に新しい線を引いた。


 ──残る条件──

 ① 光学の基礎知識

 ② 校舎の構造

 ③ 私たちの行動パターン

 ④ 意図


 透子は静かに言った。


 「この四つを満たす人物は──

  “一年生の中”にいる」


 陽斗は心臓が跳ねた。


 (……一年生?

  つまり……僕たちのクラス?

  それとも隣のクラス?)


 透子は続けた。


 「一年生は、

  まだ校舎の構造を“覚えている途中”よね。

  でも──」


 透子は黒板を指さした。


 「光の足跡は、

  “私たちの動き”に合わせて出現している。

  つまり犯人は、

  私たちの行動パターンを“日常的に見ている”。」


 陽斗は息を呑んだ。


 (……日常的に?

  じゃあ……犯人は……)


 透子は静かに言った。


 「犯人は、

  “私たちの近くにいる人”。」


 陽斗の胸がざわついた。


 (近く……

  クラスの中……?

  それとも……)


 透子は黒板を消し、

 窓の外を見つめた。


 夕陽が校庭を赤く染めている。


 「相沢くん。

  犯人の“意図”は、

  ただの悪戯じゃない」


 陽斗は聞き返した。


 「じゃあ……何のために?」


 透子はゆっくりと答えた。


 「“気づいてほしい”のよ。

  自分の存在に」


 陽斗は背筋が冷たくなった。


 (存在……

  犯人は、白石さんに……?

  僕たちに……?)


 透子は続けた。


 「光の足跡は、

  “メッセージ”なの。

  犯人は、

  私たちに“解かせたい”。

  自分のことを」


 陽斗は胸が締めつけられた。


 (白石さんに……

  気づいてほしい……?

  そんなの……

  僕だって……)


 透子は静かに言った。


 「相沢くん。

  明日、犯人は“動く”。

  決定的な一手を打つわ」


 陽斗は息を呑んだ。


 (決定的……

  もう逃げられない……)


 透子は窓の外を見つめたまま、

 小さくつぶやいた。


 「……犯人は、

  “私の近く”にいる」


 その声は、

 夕陽よりも冷たく教室に響いた。


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