第30話「光の足跡・第四形態」
放課後の一年三組は、昨日の“第三形態”の衝撃がまだ抜けていなかった。
「昨日のあれ、マジでやばかったよな……」
「足跡じゃなくて、なんか記号みたいだったし」
「白石さん、ずっと見てたよね……」
「今日も出るのかな……」
ざわめきは、もう“怪談”ではなかった。
明確に“事件”として扱われ始めていた。
陽斗は鞄を閉めながら、
透子の席をちらりと見た。
透子はノートを開き、
昨日の光の軌跡を正確にスケッチしていた。
その線は、まるで数学の図形のように整っている。
(白石さん……完全に戦闘モードだ。
篠原先輩のデモンストレーションも、
昨日の第三形態も、
全部“挑発”として受け取ってる)
胸の奥がざわつく。
嫉妬とも違う、もっと複雑な感情。
(僕は……ただ横にいるだけで無力なのに)
下校のチャイムが鳴ると、
生徒たちは一斉に廊下へ流れ出した。
「今日も出るかな……」
「白石さん、もう来てる?」
「動画撮る準備しとこ」
そんな声が飛び交う。
透子は席を立ち、
陽斗にだけ聞こえる声で言った。
「相沢くん。
今日、光の足跡は“第四形態”に入るわ」
陽斗は思わず聞き返した。
「だ…第四……?」
透子は淡々と答えた。
「犯人は段階的に“難度”を上げている。
今日の夕陽の角度なら、
次の形態が出る条件が揃う」
陽斗は息を呑んだ。
(条件……
白石さんはもう、犯人の“思考”を読んでる)
自尊心が揺れる。
でも、目をそらせない。
二階廊下。
昨日までと同じ場所。
生徒たちが集まり、
期待と恐怖が混じった空気が漂っていた。
透子は群衆を押し分け、
廊下の中央へ進んだ。
陽斗も後ろに続く。
その瞬間──
ぽつり。
床に光の点が落ちた。
「出た……!」
「今日も……!」
「うわ、動いてる!」
光の点は、
昨日までと同じように前へ進む──
かと思われた。
だが。
光の点は、
突然“直角”に曲がった。
陽斗は息を呑んだ。
(直角……!?
そんな動き、光じゃない)
透子は光の動きを凝視し、
眉を寄せた。
「……やっぱり」
光の点は、
直角に曲がったあと、
一定の間隔で“折れ曲がり”ながら進んでいく。
まるで──
図形を描いているように。
「なにこれ……」
「足跡じゃない……」
「図形……?」
生徒たちがざわつく。
透子は小さくつぶやいた。
「……三角形」
陽斗は驚いた。
「えっ……?」
光の点は、
床の上に正三角形を描いていた。
透子は息を呑んだ。
「光学実験で使う“基本図形”。
反射角の基礎……
犯人は、私に“気づけ”と言っている」
陽斗は背筋が冷たくなった。
(気づけ……?
白石さんに……?
なんで……?)
光の点は三角形を描き終えると、
今度はその内側に**円**を描き始めた。
陽斗は震えた。
(円……
三角形の中に円……
これって……)
透子は震える声で言った。
「……インサークル。
三角形の内接円。
光学の“基礎中の基礎”。
犯人は……」
光の点は最後に、
円の中心に**一点の強い光**を落とした。
透子は息を呑んだ。
「……“焦点”」
陽斗は理解が追いつかない。
(焦点……?
なんでそんな……
これ、もう足跡じゃない)
透子は拳を握りしめた。
「相沢くん。
これは“署名”よ」
陽斗は驚いた。
「署名……?」
透子は光が消えた床を見つめた。
「犯人は、
“私は光学を理解している”
“あなたに解けるはず”
そう言っているのよ」
陽斗は息を呑んだ。
(白石さんに……
解けって……
犯人は、白石さんを……)
透子は静かに言った。
「相沢くん。
犯人は──
“私に気づいてほしい人”よ」
陽斗の胸が締めつけられた。
(気づいてほしい……
白石さんに……?
じゃあ……犯人は……)
透子は廊下の奥を見つめた。
「明日、犯人は“決定的な一手”を打つわ」
陽斗は息を呑んだ。
(決定的……
もう逃げられない……)
透子は小さくつぶやいた。
「……犯人は、
“私の近く”にいる」
その声は、
光よりも冷たく廊下に響いた。




