第29話「犯人の意図」
“第三形態”の光の足跡が消えたあと、
廊下にはしばらく誰も声を出せなかった。
円を描き、
記号のような軌跡を残し、
最後に強く光って消えた。
あれはもう、
“足跡”ではなかった。
透子は廊下の中央に立ち、
光が消えた床をじっと見つめていた。
陽斗はその横顔を見ながら、
胸の奥がざわついた。
(白石さん……
怒ってる。
いや、違う。
“挑発された”って顔だ)
透子は小さく息を吸い、
静かに言った。
「……犯人は、私たちに“伝えようとしている”。」
陽斗は思わず聞き返した。
「伝える……って、何を?」
透子は答えず、
廊下の窓へ歩き出した。
夕陽は完全に沈み、
校庭は薄暗い影に包まれている。
透子は窓ガラスに手を添え、
その冷たさを確かめるように指先を滑らせた。
「相沢くん。
光の足跡は、最初は“歩幅”だったわよね」
「うん……」
「次は“走幅”。
そして今日は“記号”。
動きが段階的に変化している」
陽斗は息を呑んだ。
(段階的……
確かに、そうだ)
透子は続けた。
「自然現象なら、こんな変化は起きない。
犯人が“意図的に変えている”のよ」
陽斗は背筋が冷たくなった。
(意図的……
じゃあ、やっぱり誰かが……)
透子は窓から目を離し、
陽斗の方を向いた。
「相沢くん。
犯人は“私たちの反応”を見ている」
陽斗は息を呑んだ。
(反応……?
僕たちの……?)
透子は歩きながら言った。
「第一形態──歩幅。
私たちが驚くかどうかを見た」
「第二形態──走幅。
私たちが“違い”に気づくかどうかを見た」
「第三形態──記号。
私たちが“意味”を読み取れるかどうかを見た」
陽斗は言葉を失った。
(そんな……
まるでテストみたいじゃないか)
透子は静かに言った。
「そう。
これは“テスト”よ」
陽斗は喉が乾いた。
(テスト……
僕たちを試してる……?
誰が……何のために……?)
透子は廊下の端に立ち、
光が消えた方向を見つめた。
「犯人は、私たちに“気づいてほしい”のよ。
自分の存在に」
陽斗は背筋が凍った。
(存在……?
犯人は、僕たちに……見つけてほしい?
なんで……?)
透子は拳を握りしめた。
「相沢くん。
犯人は“光学の知識”を持っている。
校舎の構造にも詳しい。
そして──」
透子は言葉を切り、
廊下の奥を見つめた。
「……私たちの“行動パターン”を知っている」
陽斗は息を呑んだ。
(行動パターン……
つまり……)
透子は静かに言った。
「犯人は、
“私たちの近くにいる”。」
陽斗の心臓が跳ねた。
(近く……
クラスの中……?
それとも……)
透子は続けた。
「そして──
犯人の意図は“解かせること”。
光の足跡の意味を、
私たちに“解かせたい”。」
陽斗は震える声で言った。
「なんで……そんなこと……」
透子は答えなかった。
ただ、廊下の奥を見つめたまま言った。
「相沢くん。
明日、犯人の“次の一手”が来るわ」
陽斗は息を呑んだ。
(次……?
まだ続くのか……
こんな異常なことが……)
透子は小さくつぶやいた。
「……犯人は、
“私たちに届く距離”まで来ている」
その声は、
光よりも冷たく廊下に響いた。




