第28話「光の足跡・第三形態」
放課後の一年三組は、昨日の“篠原先輩”の噂でざわついていた。
「二年の篠原先輩、ヤバいらしいよ」
「光を操れるって本当?マジシャン?」
「白石さんと相沢くん、篠原って先輩に会ったって」
「光の足跡、今日も出るかな……」
陽斗は鞄を閉めながら、
透子の席をちらりと見た。
透子はノートを開き、
篠原先輩の言葉を何度も書き写していた。
──光は“見せたいものを見せる”。
(白石さん……完全にスイッチ入ってる。
篠原先輩の言葉、相当引っかかってるんだ)
胸がざわつく。
嫉妬とも違う、もっと複雑な感情。
(僕じゃ……届かないのかもしれない)
そんな弱気が、喉の奥にひっかかった。
下校のチャイムが鳴ると、
生徒たちは一斉に廊下へ流れ出した。
「今日も光の足跡、見に行こうぜ」
「昨日は出なかったけど……」
「いや、今日は出る気がする」
そんな声が飛び交う。
陽斗と透子も廊下へ出た。
透子は歩きながら言った。
「相沢くん。
今日、光の足跡が出る確率は高いわ」
「え……どうして?」
透子は窓の外を見た。
「夕陽の角度が、
“第三の条件”に近いから」
陽斗は息を呑んだ。
(第三……?
白石さんはもう、次の段階を読んでる)
自尊心が揺れる。
でも、目をそらせない。
二階廊下。
昨日までと同じ場所。
生徒たちが集まり、
ざわざわと期待と不安が混じった空気が漂っていた。
「出るかな……」
「今日こそ動画撮る!」
「白石さん来た……!」
透子は群衆を押し分け、
廊下の中央へ進んだ。
陽斗も後ろに続く。
その瞬間──
ぽつり。
床に光の点が落ちた。
「出た……!」
「今日も……!」
「うわ、動いてる!」
光の点は、
昨日までと同じように前へ進む──
かと思われた。
だが。
光の点は、
突然“横”へ跳ねた。
陽斗は息を呑んだ。
(横……!?
そんな動き、今までなかった)
光の点は、
まるで“意思を持つ生き物”のように
左右に揺れ、
時折止まり、
また急に進む。
「なにこれ……」
「気持ち悪……」
「幽霊じゃん……」
生徒たちがざわつく。
透子は光の動きを凝視し、
眉を寄せた。
「……ありえない」
陽斗は透子の横顔を見た。
(白石さん……動揺してる?
いや、違う。
“怒ってる”んだ)
透子は小さくつぶやいた。
「反射でも、屈折でも、散乱でも……
こんな動きは説明できない。
これは……」
光の点が、
突然“円”を描いた。
陽斗は背筋が凍った。
(円……!?
足跡じゃない……
もう“足跡の形”すらしてない)
透子は息を呑んだ。
「……意図的すぎる」
光の点は、
円を描いたあと、
ゆっくりと“文字”のような軌跡を残した。
──えっ?これは…く?
陽斗は目を疑った。
(文字……?
いや、そんな……)
透子は震える声で言った。
「……“く”じゃない。
これは……“曲がり角の記号”。
光学実験で使う……」
その瞬間、
廊下の端に“影”が動いた。
陽斗は振り返った。
(誰か……いる?)
だが、
影はすぐに消えた。
光の点は、
最後にひとつだけ強く光り──
ふっと消えた。
静寂。
透子はしばらく動けなかった。
陽斗はその横顔を見つめながら、
胸が締めつけられた。
(白石さん……
こんな顔、初めて見る)
透子は小さくつぶやいた。
「……篠原先輩じゃない」
陽斗は驚いた。
「え……?」
透子は震える声で言った。
「篠原先輩の技術じゃ……
“この動き”は作れない。
これは……」
透子は廊下の奥を見つめた。
「……もっと“近く”にいる」
陽斗の背筋が凍った。
(近く……?
僕たちの……すぐ近く?)
透子は拳を握りしめた。
「相沢くん。
犯人は──
“私たちを見ている”。」
その声は、
光よりも冷たく廊下に響いた。




