第27話「足跡再現」
理科準備室の照明が落ちた瞬間、
陽斗の背筋に冷たいものが走った。
机の上に並べられたレンズが、
夕陽の残光を拾って
床に細い光の線を描いている。
篠原先輩は白衣の袖を軽く払うと、
静かに言った。
「光はね、
“操れる”んだよ」
その声は、
まるで光そのものを手懐けているかのようだった。
透子は一歩前に出た。
「……どういう意味ですか?」
篠原は微笑んだ。
だが、その笑みはどこか冷たかった。
「見せてあげる。自分で見た方が早いよ」
篠原は机の上のレンズを一つ取り、
準備室の窓際へ移動した。
夕陽はほとんど沈みかけている。
だが、わずかな残光が窓ガラスに反射していた。
篠原はその光をレンズで受け、
角度を微妙に調整した。
すると──
床に、
ぽつりと光の点が落ちた。
陽斗は息を呑んだ。
(これ……
光の足跡の……)
篠原はレンズを少し傾けた。
光の点が、
ゆっくりと前へ進む。
ぽつ、ぽつ、ぽつ──
光の点が連なり、
足跡のような形を作っていく。
透子の瞳が揺れた。
「……再現、できるんですか?」
篠原は肩をすくめた。
「“完全に”じゃないよ。
これはただのデモンストレーション。
光の足跡はもっと複雑だ。
フェンスの反射、床の散乱、
窓ガラスの屈折……
いろんな条件が重ならないとできない」
透子は息を呑んだ。
(……分かってる。
この人、光学の知識が私より深い)
陽斗は篠原の手元を見つめながら、
胸の奥がざわついた。
(僕には……絶対できない。
白石さんが興味を持つのは、
こういう“分かる人”なんだ)
自尊心が痛む。
でも目をそらせない。
篠原はレンズを置き、
透子の方を向いた。
「君、白石透子さんだよね?」
透子はわずかに眉を動かした。
「……はい」
「噂、聞いてるよ。
“光の足跡を追ってる一年生”って」
陽斗の胸がざわついた。
(噂……?
いつの間に……)
篠原は続けた。
「君、観察力が鋭い。
光の動きの違いにも気づいたんだろ?」
透子は答えなかった。
だが、その沈黙が肯定だった。
篠原は微笑んだ。
「いいね。
そういう子、好きだよ」
陽斗の胸がチクリと痛んだ。
(……何だよ、その言い方)
透子は表情を変えずに言った。
「篠原先輩。
光の足跡は……あなたが作ったんですか?」
篠原は笑った。
だが、その笑みはどこか歪んでいた




