第24話「理科室調査」
昼休みのチャイムが鳴ると同時に、一年三組はざわつき始めた。
「今日も出るかな、幽霊の足跡……」
「昨日の動画、見た? マジで走ってたよな」
「理科室の呪縛霊って噂になってるらしい」
生徒たちの噂話は、
すでに“怪奇現象”から“犯人探し”へと移りつつあった。
陽斗は弁当を食べながら、
透子の席をちらりと見た。
透子は弁当を食べ終えると、
ノートを開き、昨日の推理を静かに書き足していた。
(……今日、理科室を調べるって言ってたな)
陽斗の胸がざわつく。
透子の“推理モード”は、
昨日よりさらに鋭くなっている気がした。
昼休みが終わると、
透子は陽斗の席に近づき、
小さく言った。
「相沢くん。
放課後、理科室に行くわよ」
陽斗は思わず姿勢を正した。
「また僕も……?」
「当然でしょう。
あなたは“助手”なんだから」
その言葉は無機質でいながら
陽斗の胸には妙に冷たく響いた。
(……まだまだ助手、か
恋愛対象になりたいのに。
それでも僕は振り回されてる…)
透子は陽斗の反応など気にせず、
黒板の方へ向き直った。
放課後。
廊下には帰り支度のざわめきが満ちていた。
「また理科室の呪縛霊の足跡、出るかな」
「光の足跡だから天使かも」
「誰かがイタズラで仕掛けてるってマジ?」
そんな声を背に、
透子は迷いなく理科室へ向かう。
陽斗はその後ろをついていく。
(……白石さん、歩くの速い)
理科室の前に着くと、
扉は半開きになっていた。
透子は一瞬だけ立ち止まり、
扉の隙間から中を覗いた。
「……誰もいないわね」
透子は扉を押し開けた。
理科室の空気は、
どこか冷たく、静かだった。
薬品棚、実験器具、ガラス器具、
そして黒板の前に置かれた古い実験台。
陽斗は思わず息を呑んだ。
(……もう逃げたい)
透子は部屋の中央まで歩き、
ゆっくりと周囲を見渡した。
「相沢くん。
レンズとプリズムの棚を確認して」
「えっ、俺が?」
「あなたの役目でしょう?」
陽斗は観念して棚へ向かった。
棚には、
凸レンズ、凹レンズ、プリズム、反射板、
光学実験用の器具が整然と並んでいる。
(こんなの……誰でも使えるのか?)
陽斗はレンズを一つ手に取り、
光にかざした。
そのとき──
透子の声が響いた。
「相沢くん、来て」
陽斗は慌ててレンズを戻し、
透子のもとへ駆け寄った。
透子は実験台の下を指さしていた。
「ここ。
見て」
陽斗は覗き込んだ。
そこには──
“金属片”が落ちていた。
フェンスの金属網と同じ材質。
しかも、
昨日見たフェンスの歪みと同じ方向に曲がっている。
陽斗は息を呑んだ。
「これ……フェンスの……?」
透子は静かにうなずいた。
「ええ。
フェンスの金属片が、
理科室の“実験台の下”に落ちている」
陽斗は背筋がぞくりとした。
(じゃあ……犯人は……)
透子は金属片を手に取り、
光にかざした。
「相沢くん。
フェンスを曲げた人物は、
この理科室に出入りしている」
陽斗は思わず言った。
「理科室に出入りしてる人って……
理科委員とか、先生とか……?」
透子は首を横に振った。
「もっと限定されるわ。
この金属片が落ちていた位置……
“実験台の下”。
ここに落とすには、
この部屋で“しゃがんで作業した”人間よ」
陽斗は息を呑んだ。
(しゃがんで……作業?
誰がそんなことを……)
透子は金属片を見つめながら言った。
「相沢くん。
犯人は──」
透子は言葉を切り、
理科室の扉の方を見た。
扉の向こうから、
誰かの足音が近づいてくる。
コツ、コツ、コツ──
陽斗の心臓が跳ねた。
(だ、誰か来る……!)
透子は金属片を握りしめ、
静かに言った。
「……来たわね」
足音は、
理科室の前で止まった。




