第23話「犯人推理」
屋上で“フェンスの歪み”を確認したあと、
陽斗と透子は階段を降り、再び二階の廊下へ戻ってきた。
廊下にはまだ生徒たちのざわめきが残っていた。
「さっきの光、けっこう速かったよな」
「なんで走ってんの?」
「幽霊も走りたい気分になるんだよ」
「気味悪いからやめろって。」
そのざわめきの中を、
透子はまっすぐ歩いていく。
周囲の声は耳に入っていないようだった。
陽斗は透子の後ろを歩きながら、
胸の奥がざわつくのを感じていた。
(白石さん……完全に“推理モード”だ)
透子は光の足跡が消えた地点で立ち止まり、
床をじっと見つめた。
「……やっぱり、ここが“終点”ね」
陽斗は隣に立ち、床を見た。
「終点って……何の?」
透子は答えず、
廊下の窓、天井、床、壁を順に見渡した。
「相沢くん。
光の足跡は“自然現象”じゃない。
誰かが作ってる。
その前提で考えると──」
透子は指を一本立てた。
「まず、犯人は“光の性質”を理解している」
陽斗は驚いた。
「光の……性質?」
「ええ。
反射、屈折、散乱……
それらを“意図的に利用している”。
でなければ、あんな動きは作れない」
透子の声は淡々としているのに、
その瞳は鋭く光っていた。
「次に──」
透子は二本目の指を立てた。
「犯人は“校舎の構造”をよく知っている」
「構造……?」
「廊下の窓ガラスの屈折率、
床のワックスの散乱特性、
フェンスの位置と角度……
それらを知らなければ、
光の足跡を“廊下に投影”することはできない」
陽斗は息を呑んだ。
(そんなこと……普通の中学生にできるのか?)
透子は三本目の指を立てた。
「そして──」
透子は少しだけ声を落とした。
「犯人は“私たちが見ること”を前提にしている」
陽斗は思わず聞き返した。
「僕たちが……見ること?」
「ええ。
光の足跡は“放課後の時間帯”にしか現れない。
しかも、廊下に生徒が多い時間帯に合わせている。
つまり──」
透子は陽斗を見た。
「犯人は“見せたい”のよ。
私たちに」
陽斗の背筋がぞくりとした。
(見せたい……?
じゃあ、僕たちは……からかわれてる?)
透子は歩き出し、
廊下の窓の前で立ち止まった。
夕陽は完全に沈み、
窓ガラスには薄暗い校庭が映っている。
透子はガラスに手を添え、
その冷たさを確かめるように指先を滑らせた。
「……犯人は、光の性質を理解している。
校舎の構造を知っている。
そして、私たちに“見せたい”。
この三つが揃う人物は──」
透子は言葉を切った。
陽斗は息を呑んだ。
「だ、誰なんだよ……?」
透子は静かに言った。
「“理科室に出入りしている人間”よ」
陽斗は驚いた。
「理科室……?」
「ええ。
光学実験の器具、
レンズ、プリズム、反射板……
それらを扱えるのは、
理科室に出入りしている人間だけ」
透子は窓から目を離し、
陽斗の方を向いた。
「相沢くん。
明日、理科室を調べるわ」
陽斗は思わず言った。
「えっ、僕も……?」
透子は当然のように言った。
「あなたは“助手”でしょう?」
陽斗の胸が痛んだ。
(……助手、か
恋愛対象じゃないとひどい扱いだなぁ)
透子は歩き出し、
廊下の奥へ向かいながら言った。
「犯人は、必ず見つける。
この“光の足跡”の真相と一緒に」
その声は、
廊下の薄暗さを切り裂くように響いた。




